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僕の願いが世界を変える──泥より出でて、泥に染まらぬもの  作者: 露隠とかず
サイドストーリー

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追悼 ** 第43話 Adria Blueの裏で **

 男は苛立っていた。


 ソフィアと名乗る《人型》がイドラの社長に就いた時から気に食わなかった。

 何故、我らが神となるえいじは、《人型》などを長に置いたのか。

 そんな不満を抱え数十年、遂にイドラは世界を改変する手前まで、科学技術の上でも、権力的な意味でも上り詰めた。


 あと一歩だった。

 えいじが死亡したと知らせを受けたのは。


 ***


 イドラ本社の最上階。一番広い会議室には、イドラの一族の者たちが集められていた。

 その顔ぶれは所謂古参と呼ばれる、老獪な者たちばかりだ。


 空いてしまった神の座に誰を据えるのか。

 えいじのDNAは保存されている。それを再び育てればいいのでは?


 そんな悍ましい会話が交わされる中、ソフィアが姿を現した。

 会議室は水を打ったように静まり返る。壇上に上がるとソフィアは冷淡な瞳を細め、高らかに宣言した。



「えいじの後継者は私、ソフィアが務める。えいじのDNAはすでに抹消させてもらった。そしてイドラはしんたろうに関わる全てから手を引く」

「なっ、なんだと!? 《人型》風情が何と言う不遜な行いを!!」


 ソフィアの言葉に、一族の者たちは一斉に立ち上がり怒号を響かせた。

 口角泡を飛ばしながら、吐かれる罵声が会議室に満ち満ちる。


「貴様などに神の代わりが…」

「えいじは神などではない。人間だ」


 掴みかかってきた男の首を掴むと、ソフィアはそのままゆっくり体ごと持ち上げた。

 気道を塞がれ目を剥きながら暴れる男に頓着せず、ソフィアは手に光を集める。光が一閃した瞬間男の首と体が離れ、ドサリと音を立てた。


 恐ろしい光景に、誰もが悲鳴を上げることもできず、ガクガクと震えながら崩れ落ちていく。

 ソフィアは半身を返り血に濡らしたまま、赤い瞳を一族の者に向ける。その瞳の奥には抑えきれない怒りが籠もっていた。




「──貴方がたはえいじを利用し尽くし、その心を喰らい尽くした。私は永遠に貴方がたを赦さない」



 えいじからささやかな希望すら奪ったのは、久是をはじめとしたイドラの一族の古参たち。

 ただ生きることを望まれたかっただけなのに、むしろそんな事を望まなければいけないほどえいじは何もかもを奪われていた。


 気づいてしまった、理解してしまった今となっては、えいじが口付ける時に自分の目を隠した理由も分かる。


 ──えいじは私に自分の弱さを見せたくなかった。

 ただ縋りつきたいという小さな思いすら、認めたくなかったのだと。


 理解したのは寿がえいじを抱きしめたときだった。初めて見た穏やかなその笑みに、初めて流したであろうその涙にソフィアは全てを理解した。

 あまりに遅すぎた気付きに、ソフィアは胸を掻きむしりたくなるほどの苦しみを覚えた。



 絶対零度の怒りを突きつけるソフィアに、誰もが動きを止めていた。

 反逆の意志をチラとでも見せれば、即座に殺されることは明白だ。

 今さらながら自分たちが道具とみなしていた《人型》の、底知れない力に恐怖が湧き上がる。


 ソフィアはコツ、と人差し指でテーブルを軽く叩く。




「他に何か。ご意見のある方は?」


 床に二つの塊となって転がった男に目もくれず、ソフィアは再度静かに尋ねた。

 もう誰も、口を開くことはなかった。


「──よろしい。では今後も()()()()()()に殉ずるように」



 本来ならここにいる全員を嬲り殺しにしても足りない。

 だが、ソフィアは殺害することより、彼らの持つ権力を利用することを選ぶ。


 全てを奪われたえいじ以上に、死を(こいねが)うまで。

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