第46話 エピローグ
ある日、しんたろうは寿と二人きりで、思い入れ深い喫茶店を訪れていた。
「静かなお店だね」
小声で寿はしんたろうに話しかけた。
にこりと微笑むと、慣れた様子で空いている席に座る。
そこがかつての定位置だった事を、勿論寿は知らない。
「あっ、ドーナツがある!」
「飲み物はココアにする?」
「うん! お父さんは?」
「俺はこっち」
しんたろうが指さしたウインナーコーヒーを見て、寿の顔がパッと輝いた。
「生クリーム乗ってる! 僕もこっちにする!」
「コーヒーだけど平気かい?」
「砂糖入れるから大丈夫!」
生クリームが乗っていてもコーヒーに変わりないのだが、砂糖で足りるのかとしんたろうは苦笑する。
にこにこと微笑むマスターに、寿は上機嫌で注文を告げる。
白髪と深い皺の刻まれたその顔は、それでも昔の面影を残していて、しんたろうは胸が熱くなる。
「おいしー! ドーナツお父さんも食べなよ!」
「え、あ、ああ…ありがとう。一個貰うね」
「はいっどーぞ!」
遠い昔、禊が同じ事をよく言っていたなと、しんたろうは微笑んだ。
店内はBGMが静かに流れ、ゆっくりとした時間が流れている。
客は自分たち二人しかおらず、少しぼんやりしていると、カップを拭き終えたマスターが珍しく声をかけてきた。
「昔ね、あなたに似たお客様がいたんですよ。いつも三人で仲よさげに話されていたので、よく覚えています」
まさか自分たちのことを覚えているとは思わず、しんたろうは驚きを抑えながらマスターを見た。
懐かしさに目を細め、マスターは小さく息を吐く。
「いらっしゃらなくなって、長い時間が経ちましたが、あなたを見ていたらふと、思い出したんです」
もう何十年も前のことですが、とマスターは寂しげに笑う。
「……そうだったんですか。きっと幸せに過ごしてますよ」
「そうですね。あなたを見ているとそう思います」
「しん…お父さん! やっぱケーキも食べたい!」
「はいはい。どれにする?」
マスターにどれが一番美味しいのかと、寿は目を輝かせて尋ねる。
マスターは昔と変わらない柔らかい笑みで、優しく答えていた。
「俺もおかわりしようかな」
しんたろうは呟くと、カップの残りを飲み干した。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
本編はこちらで完結となりますが、「物語の裏側」を描くサイドストーリーがあと3話あります。
本当のラストまで、もう少しだけお付き合いください!




