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僕の願いが世界を変える──泥より出でて、泥に染まらぬもの  作者: 露隠とかず
メインストーリー

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第26話 【過去編】偽りの救済

 …夢を見た。


 自分はコードと配管まみれの空間にいた。近くで循環する水と泡の弾ける音が聞こえる。


 何かがそこにいる。知りたくない何かが。




「ん…」


 カーテンの隙間から差し込む明かりで、しんたろうは薄っすらと目を開いた。

 ここがどこだかも分からず、頭が混乱するも横に寝ている禊を見て、禊の部屋かと理解する。


「…しんたろう…? 起きた…の?」

「あ、え、ああ、おはよう」


 禊は寝起きが悪く、眠そうに目をこする。

 そのまましんたろうをぼんやり見ていたが、急に目を見開いてしんたろうに抱きついた。


「おはようじゃないよ…バカ…!」

「な、なんだよ?」


 怒りながらも禊は涙声だった。いきなり泣きつかれて、しんたろうは狼狽する。

 ふと禊が震えていることに気づいて、しんたろうは頭を軽く撫でた。


「…どうしたの? 怖い夢でも見た?」

「夢だったらどんなに…」


 泣きながら顔を上げた禊と目が合うが、しんたろうは違和感に驚いた。

 禊はこんなに大人びた表情をしていたか?


「あれ、禊…? なんか大人っぽくなった??」

「なに言ってんの…」


 愕然としたように呟く禊を見ながら、しんたろうは不思議そうな表情を浮かべる。


「俺、禊の家に泊まったっけ? …てか部屋模様替えした? …いっ」


 状況がつかめず質問攻めしていたしんたろうは、不意に腕を抑えて唸った。


「何だこれ…俺いつ怪我なんか…これじゃ明日海行けないじゃんか」

「あの日しんたろうは家に帰ったよ。明日は…六年も前の話だよ」


 泣きそうな顔で話す禊を、しんたろうは驚いて凝視する。


「もうあの日から六年経ってるの… しんたろうも私ももう二十六歳だよ」

「……は…?」


 ついに禊は泣き崩れてしまった。冗談でないことはその言動から理解できたが、現状に全くついていけない。

 あの日から六年? 二十六歳…?


「あの日しんたろうは…死んだってことになってるの」

「…なに言って…」

「でも私も燈火も、直樹さんも信じられなくて、この六年間ずっとしんたろうを探してた」


 なにかのイメージが脳裏をよぎり、しんたろうは頭を抱えた。ズキズキと痛みを伴い、思い出したくない何かが警鐘を鳴らす。


「ぅ…! 頭、が…」

「しんたろう!? 無理に思い出そうとしないで。怪我のせいで解離性健忘症…記憶喪失になってるのかも」

「怪我…これもなんでなのか、全然思い出せない…」


 どこかの部屋で炎に追い詰められるシーンが過る。

 俺はその時何かを強く考えていた。だが何を考えていたのか、何があったのか思い出せない。


「……俺が死んだって、何で」

「……しんたろうの家が、放火されたの」


 重い口を開いた、禊の言葉を信じられなかった。


「何度も警察や消防の人に言ったの。あれは無差別な愉快犯のせいじゃない、しんたろうは生きてるって」

「……どういうことなんだ」


 放火の現場のはずなのに、直樹が助けだした鏡也は銃創を負っていた。

 三人は警察を何度も訪れ、何度もそれを訴えたが全てもみ消されてしまった。

 その時から禊はしんたろうの生を確信し、警察にも頼らず探し続けていた。



「…これ私が撮ったの。証拠になると思って」

「…そんな…」


 門扉から自宅だと気づいたが、その先にあるはずの家がない。焼け焦げた柱が、主のいなくなったそこに不気味に佇んでいた。

 写真を見ても全く思い出せない。自分に何が起こったのか。


「…父さんは…まさか…」

「しんたろうのお父さんは…銃創が元で亡くなった」

「銃…!?」


 何が起こったんだ。六年前…俺にとっては一日も経っていないのに。

 禊も俺も二十歳だったはずだ。父さんもいつものようにリビングで本を読んで…


「うう…っ」

「今はムリしないで…今日はウチで休んでて。外にも電話にも絶対出ないでね」

「二十六歳ってことは、仕事とかあるんじゃ」

「大丈夫。昨日のうちに休むって連絡してあるから」


 思い出そうとすると頭がズキズキ痛む。禊は何かに怯えているが、何に巻き込まれているのか、思い出すことを拒絶するように頭痛が起こる。


「…そういや燈火は? あいつも俺を探してたって」

「うん…でも燈火は一年前から行方不明になってる」


 重くなっていた空気に耐えかねて尋ねたが、思わぬ返答にしんたろうは禊を見た。


 禊の言葉を信じ、しんたろうの生存を一緒になって探していた燈火は、一年前急に行方を暗ませた。

 自身の仮説──しんたろうは生きている──を強く実感し、燈火が巻き込まれたと悟った禊は、それからは誰かに告げることを止めた。


「昨日しんたろうが寝た後、直樹さん達にも連絡したから、そろそろ来ると思う」

「直樹さんも探してくれたのか…」


 その時玄関で呼び鈴が鳴った。ビクリと肩を竦めると、禊は用心深くドアへ近づく。

 タイミングがタイミングなだけに、警戒している様子だったが、覗き窓から見て宅配員だと気づきホッと胸を撫で下ろした。


「禊様にお荷物です~」

「…びっくりした。そういえば母さんが、何か送るって言ってたな…」


 チェーンを外し玄関の鍵をあける様子に、しんたろうは一抹の不安を覚えた。


 この光景を知っている。

「あの日」も確か…



「禊! 開けるな!!」

「えっ?」


 しんたろうが叫ぶのと、ドアが強引に引っ張られたのはほぼ同時だった。

 ばちんと乾いた音が響き、禊が玄関に倒れこむ。


「禊!!!」

「うるせぇ…気絶させただけだ。こっちも余計な事はしたくないんでな」


 男は宅配員の帽子と、黒髪のウィッグを引き剥がした。

 顕になる長い金髪とにやにや嗤う表情に、しんたろうはぞくりと立ち竦む。

 自分はこの顔を知っている。思い出せないが、この男が自分にとって危険だと脳が警鐘を鳴らす。


「この女を父親と同じ目に遭わせたくなければ、大人しくついてくるんだな」

「…!」


 禊の言葉がつながる。この男が元凶なのだと。放火したのも父を殺したのも、自分を拉致したのも全てこの男が。

 何も思い出せない筈なのに、怒りだけが静かに湧き上がってくる。


「大人しくしてりゃ、余計な犠牲を出すことはしない」

「…分かった」


 玄関に倒れたままの禊をちらりと見やると、何もできないことに悔しそうに歯噛みしながら、しんたろうはドアを閉めた。

 エレベータに乗る間も、背に銃を押し当てられては声も上げられない。この日本で何故銃を持つような男に狙われているのか、しんたろうの頭は混乱の極みだった。

 マンションの裏口に、黒塗りでスモークのかかった車が停められていた。早朝のためか人通りは全くない。


「うっ!」

「暫く寝てな」


 車のドアを開くやいな、えいじはしんたろうを突き飛ばすように押し込んだ。肩にスタンガンを押し当てられ、しんたろうの意識は遠のいていく。


 この痛みを知っている…?





「禊ちゃん! しっかりしろ禊ちゃん!!」

「…な、おきさん…? しんたろうはどこ!?」


 直樹にゆすられて、禊はうっすらと目を開いた。

 腕を少し火傷したようで、痛みに顔を一瞬歪ませたが、すぐにあたりを見回して直樹に掴みかかった。


「落ち着け。今龍己に尾行させてる…守りきれずにすまない…!」

「一体何なの…あの人は誰…!?」

「それをこれから突き止めに行く…歩けるか?」

「はい!」


 禊は直樹の手を借りずしっかり立ち上がると、玄関を後にした。

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