↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―  作者: 酒の飲めない飲んだくれ
39/237

第38話:ギルドの洗礼


二人が登録をしている間に、俺は女神に刻まれた脳みその知識大百科を漁った。


完全には理解していない。

だが――この世界じゃ“魔力”ってのは、生きている限り誰もが少しは持っている。

それが体の内側でどう流れるか、どう使われるか……その“生き方”が魔力に現れるらしい。


魔道士と呼ばれる連中は、その流れを自在に操れるごく一部の者だ。


だがそれ以外の者でも、戦えば“戦士”、祈れば“聖職者”、守れば“護衛”――

人間の魔力ってやつは、その生き様の色までも変わるのだとか。


この《冒険者カード》は、そんな魔力の“形”を写す鏡みたいなもんだ。

血を一滴垂らせば、そいつの中に眠る本質を読み取り、職能を記す。

だから嘘はつけねぇ。

“本当の自分”が何者なのか、勝手に暴かれる。


……中には“村人”とか“荷運び”なんて肩書きが出て、

「冒険者には向いていませんね」って追い返される奴もいるとか。


まさか…あんな反応が出るとは……。

首領?……せめて船長じゃねぇの?……。


そんなことを一人で考えていると、二人の登録が済んだ。


【リュカ】

職能:剣走者(ソードランナー)


【シア】

職能:戦務侍女(バトルメイド)


受付嬢が顔を上げて微笑んだ。

「はい、これで登録完了です。職能は皆さんの魔力波形に基づいて自動的に分類されます」


リュカがカードをかざして満足げに言う。

「お、見ろよこれ。“ソードランナー”だってさ! なんかカッケぇ!」


シアが横目で見ながら小さくため息をつく。

「“戦務侍女”……って何ですかこれ。メイドですか?」


受付嬢が困ったように笑った。

「戦闘と補佐の両方をこなす方によく現れる職能ですね。おそらく、かなり器用方とお見受けいたします」

「……褒め言葉と受け取っておきます」


カードの光が完全に消えると、受付嬢が一歩下がって頭を下げた。

「これで皆さん、正式な冒険者です。

 ギルドカードを提示すれば、各地の関所や検問をスムーズに通過できます」


「なるほどな、たしかに……毎回入るたびに全身ひっくり返されるのも面倒だからな」


「わかる、それ! さっきなんか財布の中まで調べられたし」

「……仕方ありません。怪しいものを街に入れないのがあの方たちの仕事ですし。ですが――」


シアが肩をすくめながら、小悪魔のように笑顔を向ける。

「これで少なくとも、“まともな旅人”の顔はできますね」


「俺だけ……旅人(仮)だけどな」

「ふふ、ええ、“仮”のままですけど」


そのとき、ギルドの奥からざわめきが起きた。

「おい、見ろよ新人だぜ」「三人組か、しかも女連れだ」「うわ、また“歓迎の洗礼”かよ」


受付嬢が苦笑する。

そして顔色を変えて、今度はこっちに近づいてくる男を見ていた。


「……申し訳ありません、うちのギルド、少し“活気”がありまして。

…(小声)上の者を呼びますので少し耐えてください」

「かまわん」


受付嬢が助け舟を出したが、俺はそれを断った。


リュカが耳を掻きながら呟く。

「“活気”っていうか、あれだろ……“新人いびり”」

シアがくすりと笑う。

「……どうします?」

「……派手にやるなよ。俺たちは“旅人”だからな」


木製の床が軋む音の中、

三人はゆっくりとギルドの中央へ歩み出た。


ギルドの空気が、ぴたりと止まった。

ざわついていた喧噪が嘘のように消え、視線が一斉にこちらへ向く。


粗野な三人組が立ち上がった。

筋肉の鎧を着た戦士、軽装の弓使い、そして後ろで杖を構えた魔道士。

どう見ても常連組。


「おう、新人。登録して調子に乗ってんじゃねぇだろうな」


戦士が肩を鳴らす。


リュカが無言で一歩前へ出る。

「……なんか用か?」

「ここにはルールがあんだよ、“歓迎の洗礼”ってやつだ」


にやつく顔。完全に絡み屋の笑みだ。


シアも静かに間合いを詰める。

冷ややかな眼差しが一瞬光る。

「どうやら、“旅人”という肩書きに興味を持たれたみたいですね」

「へっ、女のくせに口が立つな」


三対三。

一触即発。

木の床がわずかに軋む。


俺は前に出た。

帽子のつばを下げ、淡々とした声で言う。


「付き合ってやってもいいが、その前に……」


相手を睨みながら視線をずらす。

そして…。

「そこの! 裸の女ぁ!」


「「「は?」」」


三人の視線が同時に入口へ向く。

当然、誰もいない。


その瞬間――


「ぶぼッ!?」


鈍い音。

先頭の戦士の両目がひんむかれ、腹の底から悲鳴が漏れた。

勢いよく蹴り上げた膝が、正確に“急所”を撃ち抜いた。


「うっぐっ……お、おまえッ」


声にならない悲鳴を上げて、戦士は床に転がる。


右側の弓使いが「てめっ!」と叫ぶより早く、

半歩踏み出して――腕を水平に振る。


ラリアット。

空気を裂く音と共に、弓使いの身体が回転し、

机をなぎ倒して突っ込んだ。


残った魔道士は、青ざめた顔で杖を構えるが、

もう距離がなかった。


「ひ、ひぃっ! 降参! 降参だってば!」


杖を投げ捨て、両手を上げる。


「て、てめぇ卑怯だろうがぁッ」


股を押さえてのたうつ戦士が、涙目で怒鳴った。


少し間を開けて、

俺は静かに剣を抜いた。


――キィン。


鞘走りの音が、ギルド全体に響く。

空気が一変した。


「まてまて!」「剣はよせ!殺すな!!」

周りで楽しんでいた奴らも、熱気が一瞬で冷え、誰もが息を呑む。


「……卑怯? ああ、そうかもな」


戦士を見下ろしながら、静かに言葉を落とす。


「けどな、戦いってのは負けりゃ死ぬんだよ。

 “卑怯”とか“正々堂々”とか、死んだ奴には関係ねぇ」


わざとらしく息を荒げながら、

怒りを演じるように声を張る。


「そんな甘ぇ覚悟で、喧嘩売ってくんじゃねぇ!!」


戦士は顔を真っ青にし、

弓使いは目を逸らしたまま固まっている。

魔道士は完全に腰を抜かしていた。


静寂の中で、俺は剣をゆっくり鞘に戻した。

「……失せろ」


三人は何も言わず、這うようにして逃げ出し始める。


沈黙。

周りの空気が、ようやく動き出す。

奥の方で誰かが口笛を鳴らし、ざわめきが戻る。


リュカが、呆れたように笑いながら言った。

「……おいコール、やりすぎじゃね、それに今の」


「あぁいうのは一発やっといたほうが舐められなくていいの。

 他の連中もこれで下手に関わってこねえだろ」


「さすがコール様!」

「だろ?……てか、俺の名前アークな?」


「「あ」」


奥のカウンターの奥、

重い靴音がゆっくりと響いた。


「……もう終わったか?」


ざわついていた冒険者たちの間を抜けて、

一人の男が現れた。


白髪まじりの短髪に、

使い込まれた灰色の外套。

左頬には古い刀傷が一本。


大方、ギルドのまとめ役――この街の支部長ってとこか。


場の空気が一気に張り詰める。

さっきまで騒いでた連中も、

気まずそうに目を逸らした。


支部長は床に転がってる三人を見やり、

深いため息をひとつ。


「おい、お前ら。新人にちょっかい出してやられるとは……情けねぇな」


三人は答えられず、

引きずられるように奥へと運ばれていった。


支部長の視線が、こっちへ向く。

その眼が鋭い。

まるで人の中身まで測るみたいな目だ。


「……あんまり問題を起こすなよ。

 ここは街の顔だ。血の匂いを撒くのは歓迎されねぇな」


軽くうなずいておいた。


だが、男の口元がわずかに緩む。

「――とはいえ、素手で済ませたのは正解だな。

 切り合いなんてしたら、面倒事が山ほど増える」


リュカが横で肩をすくめた。

「……でも途中で抜いてたけどな」

「抜いた“だけ”だ」


そのやり取りに、支部長は短く笑った。


「いい判断だった。

 腕もあるし、頭も冷えてる。……悪くねぇ新顔だ」


シアが静かに一礼する。

「ありがとうございます。以後、気をつけます」


支部長はうなずくと、

机の上に手を置いて言った。


「せっかくだ。最初の依頼でも受けていけ。

 こっちも新人の腕を見ておきたいんでな」


一枚の札を取り、差し出す。


【依頼名:外環街道の獣退治】

【報酬:銀貨20枚】

【難度:E】


「軽いもんだ。肩慣らしにはちょうどいい」


リュカがにやっと笑う。

「へぇ、じゃあ暴れても怒られねぇな?」

「怒られる前に片付けろ」


札を手に取って、懐へしまう。

支部長が口の端を上げる。

「忘れんな、新人。“旅人(仮)”だったか?」


「……(もうバレてんのかよ)」


リュカとシアが吹き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。