表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―  作者: 酒の飲めない飲んだくれ
35/57

第34話 祈りのあと…(獣族編・完)


戦は終わった。

塔の爆発は街の一部を呑み込んだが、森に逃れた者たちは生き残った。

獣族の旗が、焦げた大地に立つ。

鎖の時代は、ついに終焉を迎えた。


奴隷の国は滅び、残された領土は獣族の手に渡った。

だがそれは支配ではない。

エルフとの協議の末、両種族は互いの誇りをもって、新たな盟約を交わした。


獣族は誇りをもってエルフを守ることを誓い、

エルフは誇りをもって獣族の危機に加勢することを約した。


無論、獣族は滅多なことでは助けを求めぬ。

エルフの誇りと性を理解しているからだ。

そしてエルフもまた、獣族が野蛮などではなく、

己の生き様そのものに誇りを宿す種族であることを知った。


両者は互いを敬い合い、やがて人間の跡地には――

獣族・人間・エルフ、三つの種族が共に歩む「共生の国」を築く方針が定まった。


焦土に芽吹く新たな芽は、まだ小さい。

だが確かに、その日は訪れようとしていた。


ーーーーー


森の奥、灰狼の村。

静かな風が吹き抜ける。

焚き火の煙が朝の光をゆらす中、コールは船の前で支度をしていた。


腕に包帯を巻き、口に加えた煙草は火もついていない。

背後から、ざっ、と足音。

シガとシラヴァが歩み寄る。


「……もう行くのか」

「ああ、船も俺も絶好調だ。それに少し空を離れすぎたからな」


俺が肩を回すと、シガが腕を組んだまま口を開いた。


「コール…お前は俺の初めての人間の友だ」

「…なんだよ急に?」


シラヴァが口元で笑う。

その笑みには、戦場の灰がまだ残っていた。


「この村、我ら灰狼の里は――いついかなる時も、お前の味方だ…お前はすでに我らの一族だ」

「……は、買いかぶりすぎだろ。俺なんざ風と同じだ」

「我らも森も風を憶える」


その言葉に、俺は一瞬だけ目を細めた。

そして肩の力を抜き、軽く笑った。


シラヴァが小さくうなずくと、傍らの部下が一つの木箱を運んできた。

古びた箱をうけとり蓋を開けると、無数の小さな牙が並んでいた。


「……これは?」


「獣族の古い風習だ」

シガの声はいつになく静かだった。


「一族の外の者を“家族”と認めたとき、我らは牙を贈る。

 この牙は、それぞれの一族の証。

 何かあれば、これが“お前の身を保証する”印になる。

 ――つまり、お前はもう、俺たちの群れの一人だ」


風が止まり、焚き火の煙がまっすぐに昇った。

箱の中で光を反射する牙は、どれも磨かれたように白く輝いていた。


俺はしばし無言でそれを見つめ、

やがて口の端をゆるく上げた。


「そいつは、重てぇな」

「…我らの誇りだ。軽くてたまるか」

「はは、そういうこったな」


俺は箱を受け取り、胸の前で軽く掲げる。

そして笑みのまま、片手を上げると、船の帆が降りて風になびく。


「じゃあ……次は家族として、出迎え頼むぜ、アニジャ?」

「「…」」


シガとシラヴァは一瞬固まり互いを見て笑い声を上げた。


「…お前以外から兄と呼ばれるとはな」

「俺も兄になるのだろうか?」

「は?…そいつは勘弁だな」


「「「……、はっはっはっはっは」」」


船の甲板では、シアとリュカが手を振っていた。

村の者たちも集まり、影たちまでもがその場に並ぶ。


灰色の狼たちが吠える。

別れの合図のように、森がざわめいた。


「行け、空の船長」

「…落ちてくるなよ?」

「いや、落ちたらまた拾ってくれ」


その言葉に笑いが起き、帆が風を孕む。

イルクアスターの影が、ゆっくりと森の上を離れていく。


その背を見送りながら、シラヴァは小さく呟いた。

「誇りを守る、か……お前が一番、それを知っていたな」


風が流れ、森が静まる。

空は高く、雲ひとつない。


――こうして、獣族と人間とエルフの長き戦は幕を閉じた。


風が森を抜ける。

焚き火の煙が細く伸び、空の彼方へ消えていった。


そのどこかで、かすかな声がした。

「……やっぱり、そうやって笑うのね」


けれど、誰もその声を知らない。

ここまで読んでいただいきありがとうございます、酒の飲めない飲んだくれです。


最初はただの練習のつもりで気軽にと思っていました。

けれど、読んでくださる皆さんがいたからこそ、練習ではなく物語として形になっていきました。


もっと上手く書けるところもあるし、キャラの感情も描き切れずに反省することもいっぱいあります。

それでも、読んでくれる人がいる。

その事実が、ここまで自分を、コールの物語をを引っ張ってくれました。


感謝してもしきれません。

これからもどうぞよろしくお願いします。


もしよろしければブックマークしていただけると、とても嬉しいです!。

皆さんここまで読んでいただいて本当にありがとうございます!!。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ