表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―  作者: 酒の飲めない飲んだくれ
3/58

第02話:洞窟と黒髪の少女


船には数名を残し、ザロたちにゴブリンを見つけた場所まで案内させた。


現場には焚き火の跡、紫の血痕、そしてゴブリンの腕が一本。ザロが持っていた剣は、この腕が握っていたらしい。


「腕? お前らが運んできたやつは五体満足だったが? 何体いた?」

(ザロたちが三本の指を立てる)


「お前ら……一応こっちが人数勝ってる。こういうのは逃がすなよな」


反省するようにうつむく影たち。逃がすと大抵ろくなことにならない――やるなら全員始末、が俺のモットーだ。


血痕を辿ると、いかにもな洞窟が口を開けていた。入口には見張りが二匹。


「ウィスキー、ハイポール」

「「ザッザッザ(走り出す)」」


二人は意を汲んで駆け出す。ウィスキーは剣で一匹の首を一閃。だがハイポールは途中でズダーッと滑る。残った一匹が奥へ逃げるが、ウィスキーはため息をつく仕草のあと、銃で後頭部を撃ち抜いた。


「お見事(拍手)」

「「「「パチパチパチ」」」」


帽子を取って深々と礼をするウィスキー。


「今のでバレたな。だが仕方ねぇ、行くぞ野郎ども」

「「「「ッザ」」」」

「ッザ」


慌てて立ち上がったハイポールが、ちょっとズレた敬礼。……こいつ、なんでこんな形になったのやら。


洞窟へ。先頭は松明と剣を持つウィスキー。ザロ、ポロ、ノロ、トロが俺の周りを固め、最後尾はハイポール。


ゴンッ――背後に鈍い音。


「ッ!? ……またか」

「カリカリ(頭をかく)」

「ペシン(叩く)」


ハイポールはどうにも行動に難がある。

こちらは神経を張って進んでいるのに、背後で頻繁にコケる音がするたび、体が勝手に構えてしまう。

……正直、足手まといかもしれん――そう思った、その瞬間。


「はぁ、前進――なッ!?」


ハイポールが横広の腕で俺の前を塞ぐ。ザロ、ポロ、ノロ、トロが反応して、俺の目の前で剣を交差。直後、金属が弾ける高音が洞窟に響いた。


矢だ。交差した刃に、何本も突き立っている。


「なっ!? この――撃ちまくれ!!」


片手の剣を落とし、もう一丁の魔導銃を抜き、二丁で暗闇へ乱射。影たちも一斉に射撃を開始した。


発砲音がしばし洞窟を揺らす。


「……やったか?」


奥の気配は薄い。逃げたか、沈黙か。舌打ちしてハイポールの腕を見ると、矢が数本刺さったままだ。


「よくやったな、ハイポール」

「カリカリ」


矢を引き抜くと、ハイポールは照れくさそうに後頭部を掻いた。


さらに進む。弓持ちのゴブリン、剣と防具で固めたゴブリンの死体が転がる。盾もあったが、魔導銃の弾痕が貫いている。ここで決める気だったのか――装備は本格的だ。足跡はさらに奥へ。……全員は仕留められなかったか。


やがて広間。杖を持つ個体が王座めいた席に肘をつき、待ち構える。周囲には新しい武器と鎧で武装した連中。数はこちらが不利だが、無闇に突っ込んではこない。厄介だ。


片手を上げ、敵を指す。影たちが前進。


広間の入口に差し掛かった瞬間、王座のゴブリンがニヤリと笑う。


「ッギーギャ!」


地面が鈍く震え、天井から剣山のような大落下罠が降る。影の一団は押し潰され、黒い霧となって弾け飛んだ。


「「「「ゲッヒャッヒャッヒャ!!!!」」」」


孤立した俺を指差して嘲笑するゴブリンども。――まぁ、普通ならここで詰みだろうが。


「野郎ども!」


号令が広間に響く。罠の隙間から黒霧が溢れ、形を結ぶ。


「「「「!? 」」」」


驚愕して取り囲もうとするゴブリン。だが、影たちはもう立っていた。肩や首を回し、動きを確かめる。


「皆殺しだ!!」

「「「ッザ」」」


決着は早かった。前衛は魔導銃で撃ち抜かれ、後衛はザロたちが距離を詰めて斬り伏せる。


「残るは……お前だけだな?」

「ギッ……ガァー!!」


王座のゴブリンが飛びかかる。


パーン。


一発の銃声。静寂。


――――


「大漁、大漁」


洞窟には武器、防具、行商人から奪った品々が山のように溜め込まれていた。思いがけない豊作に満足していると、ウィスキーとハイポールが報告に来る。


「「わちゃわちゃ」」

「ほう? ……さっぱりわからん」


身振り手振りでは限界だ。ハイポールが広間から分岐した通路を指差す。戦利品部屋とは別の方角。


二人を連れて進むと、そこには――壁に拘束された屍と、体じゅうに痣と暴行の跡が残る黒髪の少女。


「……ひでぇな」


息を確かめる。微か――だが、生きている。拘束を慎重に解き、抱き上げる。体は氷のように冷たい。



その冷たさが、胸の奥のどこか古い痛みをひっそりと刺した。



俺達はそのまま船へ急行する。

甲板で船医役のゲールに託すと、医務室で手当が始まる。俺にできるのは、見守ることだけだ。


「外にいる。何かあればすぐ報告しろ」

「ちょんちょん(指でつつく)」


背中をつつくゲール。丸い腹をさらに膨らませ、少女の“異常”を示す。……ゴブリンの巣であの状態。そりゃそうだ。


「……どうにかできるか? できれば傷つけず、意識のない間に」

「コクリ(胸を叩く)」

「任せた」


甲板へ。ザロが戦利品の剣をジャグリングして見せ、影たちが歓声を上げる。手すりにもたれる俺に、ウィスキーが飲み物を丁寧に運んできた。


「ん? なんだこれは?」

(身振り手振り)――森で採った果物のジュースらしい。


「なるほどな……うまい」

(コップを掲げる)――ウィスキーも一口。


ふと、燃料の残量が気になった。甲板から降り、動力源を確認する。影たちの飲食や日光で少しずつ充填される仕組み。後部の台座の上で、人ほどのクリスタルが回転していた。手を触れると、船の息吹のような脈動が指先に伝わる。


「まだまだ、十分か」


一回の飛行でどの程度消費するのかは未知数。しばらくはこまめに確認するしかない。


――少女は助かった。次は、薬と金だ。街へ出て、売る・買う・整える。人目は厄介だ、格好も考えないとな。


俺は帽子を目深に被り、朝の雲を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ