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祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―  作者: 酒の飲めない飲んだくれ
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第146話:扉越しの月光 (船の日常編・完)


――扉の隙間から、月光がこぼれていた。


 その向こうで、

 コール様とシアとリュカが寄り添って星を見ていた。


 笑って。

 照れて。

 言葉を交わすたびに、風よりも近い距離で。


「……家族……」


 その言葉は、

 聞こうと思ったわけじゃない。


 ただ眠れなくて、水を取りに来ただけだった。

 でも足が止まってしまった。


 胸が……ぐうっと掴まれるように、苦しくて。


「……ほんとに……優しい……」


 ぽつりとそうこぼした時、

 胸の奥に、ふっと“安心”が落ちた。


 最近のコールは……。

 ナイルとして、一緒に暮らしていた頃よりも

 少し荒っぽくて、

 少し強引で、

 少し……遠いように感じていた。


 まるで“別の人”になってしまったみたいで。


 だから――

 正直、怖かった。


 私の知っているナイルは、

 優しくて、静かで、

 あたたかかった。


 でも今のコールは、

 ぶっきらぼうで、

 仲間に囲まれて、

 怒って、笑って、泣いて……

 あの頃よりずっと、“人間として大きい”ように見える……。


 その姿が眩しくて、

 見失ってしまいそうで。


(……でも……根っこは……同じ……)


 シアに寄り添う声も、

 リュカの強がりを全部受け止める姿も、

 二人をまるごと抱きしめるような言葉も――


 全部、あの頃ナイルが見せていた“優しさ”だった。


 変わったように見えて、

 ぜんぶ繋がってる……。


 好きになった人の“まっすぐさ”だけは、

 何ひとつ変わっていなかった。


 それが、胸の奥をじんわり温かくした。


 でも――同時に。


「……羨ましい……な……」


 シアも、リュカも、

 こんなふうに“隣”で笑ってもらえている。


 家族だ、と言われて、

 手を取られて、

 胸の奥に触れてもらえている。


 その中心にいるのが……

 かつて自分が一緒に暮らした人で。


(……私も……ちゃんと……あそこにいたい……)


 胸の奥が、ぎゅうっと縮む。


 焦りなのか、願いなのか、自分でもわからない。


 ただ一つだけはっきりしているのは――


「……わたしも……あなたたちの……家族でいたい……」


 扉ごしの月明かりの向こうで、

 三人の青い飾りが同じ風に揺れていた。


 その光景が、涙がこぼれそうなほど美しくて、

 寂しくて、

 羨ましくて……

 あたたかかった。


 ……だからこそ。


 私はそっと扉から背を離した。


「今日は……三人だけにしてあげなきゃね」


 そう呟く声は、

 自分でも驚くほど優しくて、

 少しだけ切なかった。


 でも――

 胸の奥のほうで、別の声が小さく響く。


(……でも、ね……)


 唇が、ほんのわずかに悪戯っぽく弧を描いた。


「明日は……私も行くから」


 シアにも、リュカにも負けていられない。

 ナイルを想っていた“私”は、もうどこにもいない。


 今想っているのはコール。

 変わっても変わらなくても、

 どちらも“好きになった人”なんだから。


「……ベッドくらい……潜り込んじゃうからね」


 小さく笑って、

 涙を拭って、

 静かに自室へ戻っていく。


 扉越しに聞こえる三人の笑い声に、

 そっと背中越しに言葉を置いた。


「……私も、負けないからね」

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