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祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―  作者: 酒の飲めない飲んだくれ
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第141話:無人島と、性能テスト


 涙の跡を袖で雑に拭って、

 俺はまだ少し熱の残る目で甲板へ向かった。


 シアとリュカは左右に並んでついてくる。


 大人の体つきになった二人がこうして歩くと、

 影の長さも、足音も、以前とはまるで違う。


(……こいつら、本当に変わったんだな)


 甲板に出ると――リネアとネラが待っていた。


 リネアは風に金髪を揺らしながら、

 俺を見た瞬間に眉を下げた。


「コール……目、赤いよ……?」


 ネラは逆に、シアとリュカを見て目を見開く。


「誰だ? いや違う……

 その耳と尾、シアとリュカだな?」


 リュカが得意げに腰に手を当てる。


「へっ。やっぱネラは気づくか。正解!」


 シアは恥ずかしそうに両手を胸の前で組んで、


「………驚かせてしまったら、ごめんなさい……」


 ネラはぱちぱちと瞬きをして、

 一瞬、何かを計測するように二人を見つめた後――


「話には聞いたことがあるが、これが……“獣醒”か」


 リュカがにやりと笑うと、ネラは少しはにかんだ。


 そしてリネアは――

 おそるおそる二人に近づきながら、ぽつりと言った。


「……きれい……」


 銀の耳と尾、

 金の瞳になったシアの大人びた美しさ。


 しなやかで野性味のあるリュカの気高さ。


 リネアはしばらく口を開けたまま見惚れていた。


 そして――小さく俺の袖を引いた。


「……コール……シアたち……こんなに……」


 その声には、

 驚きと、少しの寂しさと、でもちゃんと喜びが混ざっている。


「……ああ。乗り越えたんだよ、二人とも」


 俺が言うと、シアとリュカが同時に胸を張った。


 リュカが腕を組んで言う。


「ま、うちらも今日から“大人”ってわけだ!」


 シアも控えめに微笑む。


「……リネアさんとネラさんにも……ちゃんと挨拶したかったので……」


 ネラは目を細めて、


「……本当に、すごい……

 お二人とも……おめでとう」


 リネアは一歩近づき――

 シアの耳を、そっと指でつついた。


「……ふわふわ……」


 シアの耳がピクっと震えて、目をぱちぱちさせる。


「リ、リネアさん……?」


「……本当に……綺麗……。二人とも……」


 その言い方は、

 家族のようでもあり、仲間としての敬意でもあり――

 そしてどこか、ほんの少しの“焦り”も混じっていた。


(……そりゃ、そうか)


 シアもリュカも一気に大人になった。


 その変化を目の当たりにして、

 自分の立ち位置を無意識に探すのは当然だ。


 でも。


 リュカは、そんな空気をぶった切るように笑った。


「何こいつ、泣きそうじゃん。かわいいなリネア」


「え? そんなことない……よ?」


「やーい、ち〜び」


「ム゙……酷い……怒ったッ‥!」


 リネアが真っ赤になって拳を振り上げると、

 シアが慌てて割って入り、

 ネラが後ろで笑いをこらえた。


 甲板の空気が一気に明るくなる。


(……ああ……この船はこれでいい)


 風が吹き抜けて、

 シアの銀尾と、リュカの金尾がふわりと揺れた。


 それを眺めながら、俺は小さく息をついた。


 ネラの問いが、静かな甲板に落ちた。


「二人は、獣化はできるのか?」


 シアの銀耳がぴんと立つ。

 リュカは逆に、口角を持ち上げてニヤッと笑った。


「いや、ちょっと待て!」


 俺は両手を上げて二人を指さす。


「獣化って……

 お前ら、シガみたいに変身すんのか!?」


 するとリュカは一瞬くらい顔を見せた。


「それが……実は……」


 言いづらそうに間が空く。


 (できないやつもいるのか?……まぁそれでも別に……)


「できちゃうんだな〜! これが!」


「うぉをい!」


 リュカが自慢げに尻尾を揺らした。


「でも今やったらたぶん暴走すっぞ?」


「……おそらく、リュカの言う通りかと……」


 シアは胸元を押さえ、目を伏せる。


「マジでか! 絶対ここで変身すんなよ!?

 船を壊されちゃたまんねぇからな!」


「わかってるって!」


「だ、大丈夫ですコール様……!」


 ネラが一歩前に出て言った。


「獣族の獣化は練習が必要だ……広い場所が必要だな。

 この甲板では狭すぎる」


「まあ、そりゃそうだな……どっかに……」


 言いかけたときだった。


 前方の海に――ぽつりと影が見えた。


 低い森。岩場。砂浜。


 小さな、だが十分な広さの無人島。


「……おいコール、あれ!」

 リュカが指をさす。


「し、島……!」

 シアが驚きの声をあげる。


「上陸はできそうだな。浅瀬もある上に岩場が少なそうだ……」

 ネラが即座に状況を読み取り、

 リネアも小さく息を呑んだ。


「……いい場所……」


 俺は舵へ向かいながら言った。


「よし。決まりだ。

 あの島で二人の“性能テスト”をする!」


「うっし、任せろ!」


 リュカが尻尾をぶんっと振る。


「……がんばります……!」


 シアの銀尾もふわりと揺れた。


(……二人の獣化……見られるのか)


 期待と少しの不安が入り混じる。

 船はゆっくりと角度を変え、島の砂浜へ向かって進んでいった。


―――――


 船を砂浜に寄せて停めると、

 影たち――シャドーズが無音のまま飛び降りた。


「「「(ざっ、ざざっ……)」」」


 影は砂を踏む音すらほとんど立てず、

 円状の警戒陣形を形成して広がっていく。


 岩場、草むら、木陰。

 すべての死角に影が散り、

 海側も二体が残って監視に回った。


(……相変わらず優秀だな)


 俺がそう思っている間に、

 シアとリュカも砂浜に降り立つ。


 太陽光を受けて、

 リュカの金毛とシアの銀毛が柔らかく光った。


 その隣で、リュカが腕をぐるぐる回しながら言った。


「よっし……じゃあ誰からいくよコール?」


 その顔は、

 完全に“考えるより体を動かすのが好きすぎるやつ”のそれだ。


 一方、シアはと言えば――

 砂浜に足先を埋めながら、もじもじしている。

 シアはまだなったばかりだから遠慮をしているように見える。


「……わ、私は……えっと……どっちでも……」


(いや、お前その尻尾、緊張してるときの揺れ方だろ)


 金と銀の二人が並ぶと、

 どちらも立派な“大人の獣族”で迫力がある。


「……リュカ、お前さ。やる気満々だな」


「当たり前だろ? せっかくの“獣化”だぞ?

 自分がどんくらい変わるか気になんだろ普通!」


 言いながら、尻尾がブンブン回っている。


 対してシアは、胸の前で指をくっつけて小声で。


「……コール様が……見ててくれるなら……がんばれると思います……けど……」


 リュカが即座にツッコむ。


「あ〜ん? シア……なに今さら猫かぶってんだ?」


「か、かぶってない!」


 二人がいつもの調子で言い合いを始めたところで、

 俺は手を叩いた。


「はい、静かに。

 まずはどっちが先にやるか決めようぜ」


 二人が同時に俺を見る。


 砂浜の真ん中――

 海風に毛並みを揺らしながら立つ二人は、

 期待で耳が上がり、尻尾が揺れて、

 緊張で足先に力が入っている。


(……本当に、あいつら大人になったんだな)


 俺は深呼吸して――


「――じゃあ、リュカ。お前から行くか?」


 と言った。


 リュカの顔が、ぱぁっと明るくなる。


「おっしゃああああ!!!

 待ってたぜ!!」


 尻尾はプロペラ。

 耳は最大角度で前向き。

 完全に戦闘モードに入ってる。


 側にいたリネアもリュカを応援する。


「リュカ……頑張って……!」


「任せろ! シア、お前も後でやんだぞ!」


「わ、分かってるわよ!」


(よし……リュカの獣化、いよいよだな)


 俺は一歩下がって、

 シャドーズが保護円をやや広げるのを確認し――


「――リュカ。来い」


 そう告げた。


 リュカは一度深呼吸し、

 砂を蹴りながら前に出る。


「了解。

 ――いっくぜ〜!!」


 胸の奥がぞくりと震えた。


 いよいよ、本物の“獣化”の瞬間だった。

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