この世界を生き抜く為に
お父さんが居た。お調子者でおっちょこちょいで、良く周りに迷惑をかけていたけど、それ以上に面白くて、大好きだ。
お母さんかいた。しっかり者で気配りが出来て、自分たちを優しく抱きしめてくれて、大好きだ。
――でも、もう2人は居ない。
3ヶ月前、お父さんとお母さんは仕事の帰り道、山賊に襲われて命を落とした。
巷じゃ有名な『反逆の黒い旗』なんて名前の山賊だった。
もう何十年と市民を脅かし続けている強大な組織だ。そのため、衛兵さんも手に負えず、お父さんとお母さんの復讐すら出来ないまま、私達は泥臭く生きていた。
「ミサ姉、持ってきたよ」
「ありがと、ホリィ」
姉である私、ミサと妹のホリィは双子だ。
どちらも『思いやり』という意味を持つ花から取られた名前らしい。
大好きなお父さんとお母さんが一生懸命考えて着けてくれた、この名前も大好きだ。
――でも、ごめんね。他人を思いやえるほど、この世界は甘くないから。
「――不味い」
人は恐ろしい。自分の利益の為に他人の弱みに漬け込み、その人を躊躇なく、自分の操り人形へと作り変えてしまう。
たとえそれが、齢7歳の子供であっても関係なしに、だ。
だからこそ、裏しか無い大人の手を振り切って、こうやってゴミ箱に捨てられていた果実を頬張り、地面に溜まった雨水を啜って生きていくしかないのだ。
――この世界に、私達の居場所なんて無いのだから。
「居たぞ!!」
「良くもウチの野菜を盗んでくれたな!」
「今日という今日は許さねぇぞ!」
私達が不幸せな食事会を開いている最中に、怒りの形相で怒鳴りつけてくるのは、何度も野菜を盗ませてもらっている農家の3兄弟だ。
野菜を盗む度に追われているが、コイツらは腹が出てて遅いから余裕で逃げられる。
いいよなお前らは。そんなに肥えられるほど食べ物を食べられて。
「ふー、あいかわらず遅いね」
ホリィの意見はごもっともだ。数週間前に野菜を盗んだ時はもうちょっと追ってこれたというのに、今じゃ1分もかからずに巻けてしまう。また体重が増えたのだろうか。
「······ねぇ、ミサ姉」
「何?」
「······辛くない?」
ホリィの突然の問いかけに、私は思わず目を丸くする。
そりゃ、勿論辛いとも。頼れる人も居なくて、綺麗な水も食べ物もなくて、辛くないわけがない。
でも、そんなの今更だってのに、ホリィは何故そんなことを――、
「いっつも、お姉ちゃんだからって気をはってくれているでしょ?」
「ぁ――」
ホリィに核心を突かれ、思わず涙が溢れそうになる。
でも、それを何とか堪える。泣いてなんていられない。弱音なんて吐いてられない。私はホリィのお姉ちゃんで、ホリィが唯一、頼れる存在なのだから。
「ミサ姉は優しいから、いっつも何気ない顔を作ってわたしの手を引っぱってくれる。······でも、ミサ姉、気づいてないでしょ」
――やめて。それ以上言わないで。
そんなに優しくされてしまえば、溢れ出てしまう。今まで自分が抑え込んできたモノが。
ホリィに、妹に余計な心配は掛けられない。ホリィは妹なんだから、早々に親を失った今、甘えられるのは私しか居ないんだから。
「――ミサ姉、いっつも泣きそうな顔してる」
「ぅ」
やめてやめてやめてやめてやめてやめて――。
やめ、ないで。
「泣きたいときは、わたしに甘えてくれたっていいんだよ?だって、わたしたちは双子で、だれも信用できないこの世界で、ゆいいつ支えあっていける存在なんだから」
甘い囁きが、優しい声色が、冷めきった体に広がっていく。
――ずっと、ずっと欲しかった。自分の辛さを理解してくれる言葉が、鎧を被った心に寄り添ってくれる温もりが。
「――だいすきだよ、お姉ちゃん」
「う、うわああぁぁぁぁん!!」
もう、耐えきれない。だってこんなにも優しくて温かいんだもの。
欲望のまま、ぎゅっと抱きしめてくれる妹の胸に顔を押し付け、涙と鼻水でボロボロの服をぐちょぐちょにしていく。
「わたしだってっ、あまえたかった!もっといっしょに、いたかったのに······っ!なんで、なんでもういなくなっちゃったの······!おとうさんとおかあさんの、ばかぁ······!」
今だけは、泣いちゃうダメな姉を許して、ホリィ。
私だって、辛かったのだから。姉だからと常に気を張り、せめて、ホリィが甘えられる場所を作ろうとしてきたから。
その分今は、私に甘えさせて――。
「ふふっ、ねちゃった」
涙とはな水で顔がぐしょぐしょになっちゃってるけど、それでもかっこよくてかわいい、ミサ姉はわたしのじまんのお姉ちゃんだ。
「ありがとう、ミサねぇ······!」
あれ、おかしいな。わたしもなんだか涙が出てきちゃった。
自分のためにきずつくミサ姉を見るのが辛くて、自分だってミサ姉の力になりたいって思ってたのに――。これじゃあ、ひきわけだね。
「おやすみ、ミサ姉」
いつも以上に精神を消耗した2人が眠気に耐えきれず、2人揃って意識を落とす。
ミサの固まった心を解き、ホリィのミサに対する罪悪感もなくなった。明日からは、今まで以上に良い精神状態で生きていけるだろう。
――しかし、2人が一番良く知っていることだろう?この世界は、甘くないと。
☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓
「ん、あぁ······」
いつの間にか、寝てしまっていたのだろうか?
寝る前の事は······覚えている。ホリィに慰められ、わんわんと泣きじゃくった挙げ句、胸の中で眠りこける······なんとも恥ずかしい話だが、心はすごくスッキリしていた。
「ありがと、ホリ······」
独り言のようにホリィにお礼を言おうとして、気づく。――ここはどこだ。
「――ッ!縛られてるッ!」
知らない所に連れてこられているだけではない。腕と足を椅子に縛られ、身動きが取れない状態になっている。
それに、ホリィが居ない。私が連れ去られているなら、ホリィも連れ去られているはず······。
「しくじった!寝る時は必ずどっちかが見張りになってるのに!」
恐らく、ホリィも私と同じでいつも以上に気を使ったから、疲れて寝てしまったのだろう。
気を緩めすぎた。この世界は甘くないと、知っていたのに······ッ!
「おぉ、ようやくお目覚めかい、クソガキ」
「あんたらは······ッ!」
いつも私達から野菜を奪われている男達だ。コイツが、私達を連れ去ったのだろう。
私達が全力で走れば、直ぐに息を上げて諦めるくせに、意外と執念のあるヤツだった――なんてこと、今はどうでもいい。
「ホリィは!ホリィはどうした!」
嫌な予感が全身を駆け巡っている。コイツらに連れ去られているのは確実。なのにいない。それに加え、いつも3人で追いかけてきている男達が1人足りない。今私の目の前に居るのは2人だけ。
まさか、ホリィは······、
「ガキのくせに賢いお前なら察しがついてるんだろ?もう1人のガキは······お兄ちゃんがお楽しみ中さぁ」
ゾッとした。舐めるような視線、泥のようにへばりついている笑み、ホリィを奪われた恐怖。
強大な嫌悪感を感じた瞬間、強く保っていた心が音を立てて崩れて行ったのが分かった。
「お前等は衛兵に突き出す。でもな、それだけじゃ俺等の気が収まらねェんだよ。お前等に俺等が丹精込めて育てた野菜を盗まれまくってんだ。なぁ、分かるだろ?」
「や、やめてっ······!」
いつも遠くで見てた怒りの形相が目の前にある。
いつもなら逃げられた。でも今は逃げられない。逃げたい。けど縛られている、逃げられない。
怖い、怖い、怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわい――
「だからよ、お前等が犯した罪分、俺達を気持ち良くさせてくれよ」
「ぁ――」
――その時、ミサは初めて絶望した。
密室で、相手は男2人、手足は縛られていて動けず、逃げることなんて不可能だと悟ったからだ。
もう、ミサは男達になされるがままにされるしかなかった。
縛ったままではする事も出来ないからと、椅子から自由になることは出来、かろうじて防衛本能で藻掻いていたが、男2人の前では抵抗虚しく、身ぐるみを剥がされ、触られ、舐められ、揉まれ、つねられ、挿れられ――助けも呼べず、逃れることも出来ず、ただぐちゃぐちゃにされた。
盗まなければよかったのだろうか?お父さんとお母さんの想いに従って、『思いやり』の心を貫き通せばよかったのだろうか?
それとも、生まれて来ること自体が間違っていたのだろうか?
この厳しい世界を生き抜く為に、必要な事は何だったのだろうか?
その答えを見つけられないまま、不幸な双子は、2日後に牢屋の中で命を落とし、両親の元へ還っていくのだった。
どうも皆さんこんにちは、なおいです。
実は私、以前『ライトストーリー』という作品を書いていたのですが、思いつきで書いていた部分が多く、途中から方向性を見失って、モチベが上がらずに断念するという結果になってしまいました。
それに、私学生でして、小説を書ける時間が限られているため、短編小説を制作するという方向に舵を切ったと言うわけです。
はい自分語り終わり!それでは皆様、また次回作でお会いしましょう!
――僕の小説で、貴方の幸せの1ページを作れますように。