表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無明の彼方  作者: MIROKU
終わりなき戦い
5/29

魔を斬る剣



(またもや魔性が……)

 七郎は何度も魔性に遭遇していた。

 幕府転覆の野望渦巻く魔都、大納言忠長の治める駿河で。

 月ノ輪という少女を護衛した京の内裏で。

 天草四郎とウルスラに出会った島原の地で。

 しかし今、七郎の前に現れたのは異質な魔性だ。

 魔性は人間が転じたものだが、この蜘蛛女は何かが違う。

 奈落の底から這い出てきた悪鬼羅刹――

 七郎の印象は、そのようなものだ。


(……魔を斬る剣が欲しい!)


 七郎が欲したのは、魔を斬る剣であった。

 それは愛刀の三池典太であり、月ノ輪から借り受けた妙法村正だった。

 この蜘蛛女を斬るには、三池典太や妙法村正のような降魔の利剣が必要だろうが、今はない。

 ましてや七郎は右腕を失い、気力体力も衰えた。それで何ができるのだろうか。

「う、うう……」

「ば、化物だあ!」

 うめきながら起き上がってきた浪人は、仲間に肩を貸して逃亡した。火に包まれた浪人も、必死に地を転がって消火に成功していたらしい。

 彼ら二人を横目で一瞥し、七郎は浪人の刀を左手で拾い上げていた。

 蜘蛛女によってバラバラに斬り刻まれた浪人の刀だった。

「借りとくぞ」

 七郎は苦笑した。彼は無意識に刀を拾ったが、それは死した浪人が「仇を取ってくれ」と言っているような気がしたのだ。

 そして魔性の蜘蛛女は、夜空の蜘蛛の巣から七郎の眼前へと舞い降りていた。

 七郎は改めて魔性を見据える。背に蜘蛛のような巨大な脚を生やした魔性。

 その両目は、夜の闇の中で、真紅の輝きを放っていた。

 非人間的な存在を前にして、七郎は震え上がった。刀を握った左手が、ガクガク震えている。

 ――勝負は、一刀に始まり一刀に終わる……

 師事した小野忠明の教えが、七郎の魂に思い出された。

 ――全身全霊、ふりしぼれ!

 父の又右衛門宗矩の声もだ。あるいは、それは父と師の魂が七郎を激励しているのかもしれない。

「償いをしなければな……」

 七郎は力なく苦笑した。

 彼は弟の左門友矩を斬り、兄のように慕った由比正雪を間接的に死に追いやった。

 二人への償いのためにも今、命を捨てる必要があった。

 そして天草四郎とウルスラを守れなかったことを思い出す。二人が死んだのは魔のせいだ。

 魔とは人間を不幸と悲しみに突き落とす存在だ。

 それを斬るには死を覚悟して、自身の魂をぶつけるしかない。

 この時、七郎の魂に再び魔を斬る剣が宿った。

 魔を降伏する降魔の利剣は、七郎の魂そのものなのだ。

 ――しゃ

 鋭い何かが空を斬り裂く。それは蜘蛛女が口から放射した糸であった。

 人体すら紙のように斬り裂いた蜘蛛女の糸が、七郎を襲う。

 七郎は左右に立ち並ぶ屋敷の塀に向かって駆けた。

 跳躍し、塀を蹴って宙へ舞い上がる。

 そして左手の刀で、横薙ぎに蜘蛛女へと斬りつける。

 滑空する燕のごとき動きから放たれた、必殺の一閃だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ