表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無明の彼方  作者: MIROKU
終わりなき戦い
3/29

江戸の平和と男と女


   **


 今日も七郎はおまつの茶屋にいた。

 店先の床几に腰かけ、茶を飲んでいる。

 団子をもう一皿注文しようとしたが、茶屋は満席だ。おまつとおゆりも忙しそうに働いている。

(もう少し待つか)

 そう思って青空を見上げる。青く澄んだ空が美しかった。白い雲は空の彼方へ流れていく。

「風車はいかがでやすか」

 風車売りが七郎の側にやってきた。

「いただこう」

 七郎は風車を受け取った。風車売りは茶屋を離れて、群がる子どもたちに風車を手渡していく。

 子どもには無料で配っているのだ。子どもたちは風車に息を吹きかけて遊んでいる。子どもたちの笑顔に七郎は安らいだ。

 七郎は左手の風車の柄を見た。小さな文紙がついていた。

「ほう」

 隻腕の七郎は床几に風車を置き、左手で文紙を開いた。書かれていたのは忍び文字だ。夕刻うどん屋にて、と書かれていた。

「江戸は平和だな」

 七郎は苦笑した。今の風車売りは江戸城御庭番の一人だ。風車売りに扮して江戸の治安を守っているのだ。

 今の風車売りだけではない。

 うどん屋の源も、浪人に仕事を斡旋する政も江戸城御庭番だ。

 幕末まで続いた江戸城御庭番は、この慶安の世でも人知れず活躍している。

 幕末の頃には、江戸城御庭番の忍びがペリーの黒船に忍びこみ、時計などを盗み出したという。

 勝海舟は江戸城御庭番の活躍によって、日本と異国の技術の差を知った……

「はい、お待たせ」

 おまつが茶と団子を運んできた。

「お、すまんね。なんで、わかった?」

「あんたのことなんか、なんでもお見通しさ」

 穏やかな笑みを浮かべた老婆のおまつ。

 彼女を前にすると、荒んだ浪人も大人しくなる。

「さすが菩薩……」

「あたしゃ、まだ死んでないよ」

「何してんのよー」

 おゆりが呆れた顔でやってきた。店内の客は去っていた。ようやく落ち着いたのだろう。

「また夫婦ケンカ〜?」

「いや、夫婦じゃないぞ?」

「そうだよ、弟みたいなもんだよ」

「息子じゃなくて? まあ、いいけど」

 ツンツンした様子のおゆり。彼女は七郎がおまつと仲よさげなのが気に入らないのだ。

「明日は休みだから、二人で出かけたらどうだい?」

「そ、そうか。ど、どうだ、おゆり? 旅芸人一座でも観に行かないか」

「んー…… 考えとく」

 ツンツンして、そっぽを向くおゆり。

 彼女のおかげで七郎は若返り、生き返る。生きているとは、そのようなことだろう。

 七郎はおゆりのおかげで魔性のことを忘れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ