トライアングルレッスンU〜パイロット編〜
カツンカツンと耳に心地よいヒールの音が鳴り響く。
先輩CA方とお揃いの憧れのキャリーバッグをコロコロと転がしつつ、ゆっくりと歩く。
今日は初フライトの日。
フルルっと小さく武者震いをして、一瞬目を閉じ気合を入れた。
「ゆいこ」
背後から聞こえて来た大好きな人の声に、わたしは勢いよく振り返る。
「ゆいこ、おはよう。いよいよだね」
そこには凛々しいパイロットの制服に身を包んだひろしが優しい微笑みを浮かべて立っていた。
「ひろし....じゃない、お、おはようございます、せ、先輩!今日はご指導のほどよろしくお願いします!」
「なにそれ、いいよ、ひろしで。」
ギクシャクと頭を下げるわたしに、ひろしが呆れたように優しい苦笑いをくれた。
「....制服、似合ってる。ゆいこでも大人に見えるよ」
「ゆいこでもってなによぉ!」
「....ごめん、でもまさか、ゆいこと同じ職場になるなんてな。....フライト中、ナンパには気をつけろよ。セクハラまがいの事とかされたら、すぐ言うんだぞ、おれがなんとかするから」
「ひろしはコックピットの中にいるんだから、何もできないでしょ?」
心配そうにわたしを覗き込むひろしに、なんだかくすぐったくて、憎まれ口が口を突いて出る。
「それでも休憩時間とかあるし、ゆいこを守ることくらいできるから」
「大丈夫だよ、相変わらず心配性なんだから。どーせ、だれもわたしのことなんて見ないから、心配しないで」
ちょっと自嘲気味に言うわたしをひろしが至近距離で覗き込んでくる。
「....どこのだれが見てもゆいこは可愛いよ。だから....嫌なんだ。」
真剣な瞳がわたしをじっと見つめる。
甘い思考に支配されそうになりながら、一歩下がって改めてひろしのパイロット姿を眺めた。
真っ黒なサラサラの髪の毛。
誰をも魅了する整った甘い顔立ち。
細いながらもしっかりとした肩と程よく筋肉がついた胸板をピシッと包み込む制服のジャケット。
そして、その裾から伸びる長い脚。
そりゃ社内でファンクラブができるわけだよね。
ライバルは多い。
わたしが小さくため息をつくと、ひろしの大きな温かい手がわたしの頭に伸びて来た。
「緊張してるのか?....大丈夫だよ、俺がついてる」
ニコッと微笑む。
だめだ....。
この人何も自覚してない。
ひろしの天然イケメンぶりに、思わず頭を抱えた。