真実の愛は何物にも代えられません。そうでしょう?
毒親から真実の愛を語る男に嫁がされました。
姉妹格差? 兄弟格差? そんなものもありましたね。
取り敢えず、親がいらない娘を金に変えただけです。メイド仕事をさせて、市場に買い物までさせていた娘の嫁ぎ先なんて、そんなものです。
ヒャホーイ! 嫁ぎ先、最高――!!
なんと、使用人たちも旦那様の真実の愛を応援しています。
真実の愛って、尊いようですね。
お飾り妻には仕えたくない。追い出そうって気、満載ですね。
ヒャホーイ!
毒親から縁が切れて、嫁ぎ先からも追い出されかかっている状況。最高じゃないですか―――!
え?
あてもなく追い出される身で喜びすぎ?
市場まで買い物に行かされるお嬢様なんて、普通いませんよ。まともな反応、求められても困ります。
はいはい、わかりました。信じますから。
彼ら、真実の愛の為なら、何をしてもいいと思っているんですよね。使用人すら。
そうなんですよ、そう。
仕える家のお金も、女主人であるわたしの予算を横領するくらい、好き勝手に使っているんですよ。
真実の愛を語る男が結婚式で見栄えを考えた宝石も、メイドたちのポケットに入れられましてね、戻って来ないんです。役目を終えたから、それでいいんでしょうけど、『お飾り妻には勿体無い』って、お飾り妻だから、社交に出ないといけないのに。
え? お飾り妻は社交に出なくてもいい?
なら、いいのか~。
身の上話を聞いてくれてありがとうございます。
え? これから働く娘の事情くらい知っておきたい?
本当に良いところで雇って頂いて、助かります。毒親とも、真実の愛に酔う嫁ぎ先とも縁が切れて、気遣ってくれる雇い主のいる職場。最高です――!
◆◇
一年後――
そういえば、真実の愛を語る男の家が没落したって、聞きました?
え? 詳細をご存知なんですか?
使用人たちの横領と窃盗で、財産が無くなったんですね。それで、あなたは売り払われてここに。
真実の愛の為ですものね。彼らの真実の愛も尊いですもの。それを守る為に、今度はあなたも何かしなくてはいけませんよね。
助けてくれたら、お礼をする? あなたにそんなお金、あるんですか?
恋人が出してくれる? その恋人は使用人のせいで、没落したんでしょう?
宝石を持っている? そんな物はとっくにメイドのポケットの中ですよ。
それでは仕事があるので。
え? どうして、こんな仕事をしているのか?
食堂を開く為ですよ。貴族の奥様なんかになっても、一国一城の主人にはなれないでしょ? 折角、毒親から逃げられたのに、今度は夫の顔色、窺って生きていくなんて、真っ平じゃないですか。
え? 愛?
わたしの真実の愛はお金なんで、今、貯めている最中なんです。成就は目標金額が貯まった時ですね。
あら? もう話すことがないなら、行きますね。
◇◆
最近、この店もアンヘル(姉妹店の男娼館の店名)も売上いいですね。
まさか、この店とグルになって、真実の愛を語る男の家の使用人たちから金を巻き上げるとは、思いませんでした。
え? 営業活動をしただけ?
主人を裏切って、貢がれた? どういう営業活動しているんですか?
真実の愛に率先して協力していたから、自分たちの真実の愛の為なら何をしてもいいと考えると思った?
悪どいですね~。
褒めているんですよ。真実の愛とやらで、客になってくれない男は客じゃありませんから。客が盗みまでして通うのはどうかと思いますが、自己責任ですし。真実の愛に酔っていた彼らが罪悪感があったかどうか、知りませんけど。
え? いつまでこの店にいるつもりかって? 食堂を開くお金が貯まるまで、ですかね。
わたし、真実の愛なんて信じていないんですよ。信じているのは、お金だけです。勿論、あなたのことも信じていますよ。お金を支払ってくれる人だから。
主人公・・・毒親と嫁ぎ先から縁が切れるハッピーで、手っ取り早く、食堂の開店資金を貯められる職業で働いている超ポジティブな娼婦。
主人公を雇っている娼館の人・・・ビジネスチャンスをものにして、主人公の嫁ぎ先を没落させてしまった人。悪意はまったくなかった。
途中で出てきた女性・・・真実の愛を応援してくれていた使用人たちに裏切られて、娼館に売られてしまった。
嫁ぎ先の使用人たち・・・真実の愛の為に窃盗、横領。果ては主人の想い人を売り払ってしまった人々。
娼館と男娼館の人々・・・借金を返して、第二の人生を始められる資金調達ができるカモがいると聞いて熱心に営業に励む。誰にどんだけ貢がせたかは出てきていないが、一年で一人一億以上は貢がせて、一つの貴族の家を没落させた。