本命
「I was traveling a few moments.《ちょっと飛び過ぎたわ。》」
巨大な竜巻風がこの島国に上陸した。
其れでも、暴風雨は治る気配を見せず、はっきり言ってデカくなってる程だ。
並大抵の風ではなく、人っこ一人飛んで行ってもおかしく無い。
マリンも休んでいた。稽古場で、ノエルと模擬刀で修練を行った後、ふと気になって海賊衣装に着替え、外へ出た。
そんな時、暗いドス黒い雲と雲の間から、マリンの船が飛んでいるのが見えた。
船は、遥か高空から、主人の元へと、ゆっくりと降りて来る。それも今晩わと言いかねない様に、頭を垂れて来ている。マリンは嬉しかった。
ノエルが気になって軒先に見に来た。
「どうしたの。」
「船が…こっちに来る。」
「ええ、こんな潮目の無い所でどうやって。」
「そうか。帆の張り方次第で、大空を自由に飛べるのか。どう、一緒に来る?」
「そんな、無茶だよ。もし仮にこの中で食べる方法があったとしても、私達には到底扱えない代物だよ。」
「大丈夫。それなら、マリン一人でやるから。帆の張り方位、弁えてる。全員でやらなくても、少しのコツでロープは引っ張れる。具体的に言うと、ロープを繋がる箇所を結び目にして仕舞えば良い。」
何と、この女船長は、この暴風雨の中なら、緩んでても関係無いと抜かすのだ。
「例え、無茶でも、この暴風雨の原因を突き止めない事には、マリンは船長をやってられないんだ。」
「マリン、大丈夫?雨に濡れたりして無…うわあ、もうビチャ濡れ。其の格好は!?」
フレアも心配で見に来たみたいだ。
「大丈夫。風に潮が含まれてるから、そこに居ても濡れるよ。」
「さあ、マリンの出航の日だ。」
ちゃんと間違えずに船長の元まで降りて来た船を見て、マリンは一層に喜ばしい気持ちになった。
「ヨーソロー〜」
船に乗り込むと、先ずは、帆を張り直す。竜巻は左回転だから、竜巻に向かって右側に帆を張れば飛べる計算だ。
「今直ぐにでも、乗組員を募りたい気持ちで一杯だ。」
そんな折、湊あくあがマリンメイドの格好のまま、べちゃ濡れで駆けて来た。どうやら、マリンメイドの格好だと風を上手く避けるらしい。
「船長、私も乗せて。一緒に力になるから。」
マリンはますます期待に胸を膨らませると、船はゆっくりと動き始め、湊あくあは船に掛けてあるロープを掴むと、勢いよく登り始めた。
「さてと、上手く行きますかね。」
船は空を飛ぶと、竜巻に呑まれたサメやら何やらが大量に吹き出して来た。
「うわお、戦闘か。」
しかし、船はサメを華麗に避けると、其の上につけ、竜巻の中心部へと向かって行った。
竜巻は意外と速かった。地上に上陸して以降、あっという間に街街を破壊し尽くし、マリンの船に迫った。
「I was traveling some corse.《ちょっと遠くまで来ちゃったわ。》fufu.I was playing a surfe borde.《遊んでただけなのだけれど》」
船は、竜巻に呑まれると大きく首をもたげ、ぐんぐんと上空まで昇って行った。余りにも力強く船が昇るもので、縦も横も分からなくなった湊あくあは、船室でこけて壁に自分をぶつけてしまった。
マリンは、船首にベッタリとくっついて、竜巻を忍んでいる。
竜巻はあっという間に向こう岸の海岸まで辿り着くと、船はそのまま上空に投げ出され、大きな大きな航海をした。
雲を抜け、上空に座する船からの眺めはまさに絶景だった。
〜〜
忘れようとしても忘れられないそんな思い出。
マリンは御本を閉じると、近くで聞いていた子供達に向けてにっこりと微笑んだ。