ときのそら
「どうしてこんなになるまで闘ったの。」
闘いの後、私達は満身創痍の中、二人して地面に座らされ、説教を受けていた。
ごうごうと吹く風の中、ときのそらの声だけが澄んで聞こえる。
「もう二度とこう言う真似しちゃダメ!良い?分かった?」
「「は…..い」」
二人の声が途切れる程の風量の中、両者共にどうしようも無くなるまで反省していた。
マリンはすぐに立ち上がった。風が強く、体温が奪われそうだからだ。それなのにも関わらず、白銀ノエルは動こうともしない。
「ノエちゃん、大丈夫?」
おろおろと、それでいて確かにノエルの事を心配するフレア。
「団長、もう少し、ここに居る。」
それは、一種の滝行だった。この大風の中、長時間動かずに居られる等、途方も無い程の体力と精神力が要求されるだろう。
「じゃあ、私が灯してあげる。」
フレアは、少し離れると、炎を生み出す目に見える術式を編んだ。
しかし、この風の中でも消えい無い炎があるなどと、にわかには信じ難い。マリンは、その編まれた術式を凝視してみると、炎は何かしらの文字プロットの上に成立しており、ゆるりと其の上で燃え上がっているみたいだ。
「凄いな。これが曰く付きの宝物なら、マリンが盗んでやっても良いけど。」
其の言葉に、少し目をやったフレアは、こう切り返した。
「良いけど、ほんの少しだけだよ。ほら」
確かにノエルを未だ覆っている巨大な円筒状の其れとは違うほんの少しの鍵の様な何かが表出する。
「これを持って行く代わりに、もう二度とノエちゃんとは闘わない。そう約束してくれたら良いよ。」
「毘沙門天」
「私の異名。余り呼んでくれる人は居ないけどね。」
じゃあこれも同じ様に読んでも良いか、そう尋ねようとした時、白銀のノエルから大きな音がする。
「ぶえっくしょい!!」
「ああ、もう言わんこっちゃ無い。」
くしゃみだった。それも特大のくしゃみで、当たった箇所の炎が完全に掻き消える。
「もー、折角だから灯してあげたのに〜心配で今にも他の部分も消えちゃうよ〜。」
炎はゆらゆらとゆらめいて今にもノエルに移りそうだった。
ポッと弾ける火の粉は、其の照れ具合を表している様だ。
そうして、二人は仲良いまま、マリンだけが取り残されている様な気がした。
マリンは貰った鍵の様な何かを見ていると、不思議な気持ちになった。ほんのりと暖かい様なそれでいて気持ちいい様な感じがする。
この剣は、きっと相応の宝に違いないな、そう思った時、とんでもない突風が王都を襲った。
私達が居る王都と城下町を繋がる長い橋には、気付けば、びっしりと水分が付着している。
この突風には、潮が染み込んでいる様だ。
ビチャ濡れになりながら、流石に気が引けたのか、団長が近くの宿舎で一緒に泊まらないかと思案して来た。
船長は、濡れるのには慣れてるけど、傷が痛むなぁ…と、その言を頼りに二人に着いて行った。
嵐の様に暗い風の谷間を抜けると、そこは巨大な稽古場だった。
だからと言って何だが、ここで泊まるには些か座布団が幾らあっても足りないんじゃ無いかと思われる。
しかし、良心ともに、ここが今日からの泊まり場になるみたいだ。
この風は随分と強い。潮が流れてくるくらいだから、船が置いてある所やぺこランドでは無事では済まなそうだ。
それにしても、ふと思ったのが、この世界の建物は頑丈過ぎやしないか、と言ったところだ。
潮風がびゅごびゅごう吹くならば、こちらは、下着ごと拭いて仕舞えば良いと…本当にそう思っているのか!?潮風は身に染みて冷たいから、早く真水で身体を洗わなければならない。だから、今にも脱ぐだけで楽になろうとしている二人を止める。
「この辺りに、そう、湯にゆっくり浸かれる場所とか無いかな。」
「「?」」
キョトンとしている二人に向けて、確りとした説明を為す。
そうすると、シャワーがあるそうだ。そこで身も心も洗われる気分になった。