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5日目
>『図書室へ行く』
こんにちは。
ふふ、毎日会っているのにこういう風に挨拶をするのも、なんだか面映ゆいですね。
それにしても、今日は雨がやみませんね。
夕立、という予報でしたけれど、それにしては長いと思いませんか?
お昼過ぎからずっとですからね。
傘、持ってないので、きちんと止んでくれるといいのですが。
もっとも、こういう天気ですから、読書には向いているのかもしれないですね。
雨だれなんかを、小さな音量で掛けてみたりして。ロマンチックに思えませんか。
あ、でも。選曲、ミーハー過ぎます?
おっと、いけない、ちょっと待ってください。
……はい、これで大丈夫です。
なにを、って。栞です。
あなたとお話をするのは嫌いではないのですけど、どこまで読んだのか忘れてしまうとあとで困ってしまいますからね。
スピンがあると嬉しいのですが、そういう本は多くないので。
もっと小さい頃には、こういうものを使わなくても、すぐに読みかけの場所にたどり着けたのに。今じゃ読書の必須アイテムになっています。
最近の検査結果だと、眼鏡かコンタクトレンズのお世話になるまで秒読みだったり。
人間って不便ですよね。
メンテナンスフリーで酷使できる癖に、一度綻びが見えたと思ったら、崩壊まで一直線。
単純なそれを積み重ねて積み重ねて。複雑に対応できるように。
若いのになにを、ですか。
うーん、確かにあなたに言われてしまうとなにも言えませんね。
でもそういった不完全さと、同時に隠れている複雑さが、人間を象徴している、なんて思えたりしませんか。
どこまでどこまで複雑にすることができるのに。でもどこまで行っても不完全。
納得いってない感じですね。
そうですか、そうですか……
……ねえ。もうひとつ、聞いてみてもいいですか。
あなたは。
今の生活は、楽しいですか?
窮屈に感じたりしていませんか?
閉塞を感じたりしていませんか?
すみません。突然。
ええ、私は窮屈に感じているのです。楽しいとは思いこめないのです。
超えるのことのない檻の中にいるような閉塞感。
ですから、敢えてあなたにも問いかけてみました。
身体的なことだけではありません。
日々を過ごしている中で、漫然と、漠然と。自己の発露が、私という存在の証明が。
もっと出来るのではないか、もっと試せるのではないか。
……そんな無意味で、無感傷で、思春期に任せた、万能感。
そんな経験は、感覚はないのかな、と。
甘えるように、あなたに問いかけてしまいました。
ええ、そうです。
先程、私の考えを聞いたあなたと同じように。
楽しくない、と答えたとき。そんなあなたに応える術を、私にはないんですけれど。
こう聞くと、意地悪な人みたいですね。
ですが。
あなたとは。そういう秘密を。どうすることも出来ない思考実験の産物を。
共有してもいいのかな、なんて。
そんな風に、一方的に思いこんだのです。
ああ。そういえば。
先日借りていった本。どのぐらい読めましたか?
半分ぐらい? なるほど。
では大体三割ちょっと、という感じでしょうね。
決めつけている?
ええ、もちろん。
ふふ……
もし読み終えたら、是非とも、感想を聞かせてくださいね。
……おや。
雨、弱まってきましたね。
このままなら、ちゃんと帰れそうです。
もし。
もしよければ、途中まで一緒に帰りませんか?
彼女と交流を深めた
彼女と一緒に帰宅した