表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霖雨  作者: 如月一月
4/9

7/4

4日目


>『図書室へ行く』

ふと思ったのですが。


あなたはどうして、ここに来ているのでしょうか。

あ、いいえ。変な意味ではないんです。


でも、あなたは図書委員でもありません。かといって、毎日なにかを借りているというわけではありません。

この間お借りになった本も、まだ読んでいる途中でしょう?


ですから、ふと気になったのです。


……ひょっとして、私に会いに来ている、とか?



ああ、なし、やっぱりなしです!

忘れてください……。





こほん。



ちょっとしたアンケートをします。


あなたにとって、ここは居心地の良い空間でしょうか。

公共ではあるけれど、それだけでない空間。

自分の世界に浸れる空間。他者に影響を与えない範囲で、気ままに過ごせる空間。

そう思うのは、私がこの空間に思い入れがあるからでしょうか?



季節の花を活ける花瓶。

小腹とおしゃべりを楽しむためのお菓子。

アロマを焚くための香油。

ふわふわで大きなぬいぐるみ。

気晴らしをするためのゲーム。

お気に入りの映画のDVD。

気にいった曲をたくさん詰め込んだ音楽プレーヤー。



そんなものは、どこにもありません。


……私の部屋にあるもの、というわけではありませんよ?念のため。




ココアのような、あるいはチョコレートのような古びた紙の香り。

アーモンドのような、バニラのような残り香を残す背表紙の香り。

文字列をなぞる度に感じる、印字されたインクのあと。

燦然と壁面に並ぶ、隙間のほとんどない書棚の姿。

居場所に戻されるのを待つ、ラックの中の数冊の本。



ええ、もちろん。そういう本はほんの一部です。

あるいは普通の生徒が取ることの少ない、それでも学びのために置かれているような。


もしくは、よほどの好き者か……


でもそれは私がそういうものに好感を持つというだけ。

ひとによって異なるそれを、少しでもあったらいいな、と感じるのは、おかしいでしょうか。


そう、例えば。

今日のような真夏日でも。よおく部屋を冷やしてくれる、偉大な文明の機器とか。

震えるような寒さを気にさせない、ぽかりとした陽気を感じる冬の日のお昼寝タイムとか。




……誰もあなたが来そうな理由、だなんて。言ってませんよ?



ともかく。


居心地の良い空間。

切り取られた世界。


そんな中で、お互いに許容できる者同士で、互いの認識を、認知を、意識を触れ合わせていく。

なんでもないことを通じて、お互いの存在を確認しあっていく。



それはなんと軽やかで、気まぐれで、それでいて誰にでもできる。

そう思い込めるような。交流だと思うのです。




彼女と交流を深めた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ