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4日目
>『図書室へ行く』
ふと思ったのですが。
あなたはどうして、ここに来ているのでしょうか。
あ、いいえ。変な意味ではないんです。
でも、あなたは図書委員でもありません。かといって、毎日なにかを借りているというわけではありません。
この間お借りになった本も、まだ読んでいる途中でしょう?
ですから、ふと気になったのです。
……ひょっとして、私に会いに来ている、とか?
ああ、なし、やっぱりなしです!
忘れてください……。
こほん。
ちょっとしたアンケートをします。
あなたにとって、ここは居心地の良い空間でしょうか。
公共ではあるけれど、それだけでない空間。
自分の世界に浸れる空間。他者に影響を与えない範囲で、気ままに過ごせる空間。
そう思うのは、私がこの空間に思い入れがあるからでしょうか?
季節の花を活ける花瓶。
小腹とおしゃべりを楽しむためのお菓子。
アロマを焚くための香油。
ふわふわで大きなぬいぐるみ。
気晴らしをするためのゲーム。
お気に入りの映画のDVD。
気にいった曲をたくさん詰め込んだ音楽プレーヤー。
そんなものは、どこにもありません。
……私の部屋にあるもの、というわけではありませんよ?念のため。
ココアのような、あるいはチョコレートのような古びた紙の香り。
アーモンドのような、バニラのような残り香を残す背表紙の香り。
文字列をなぞる度に感じる、印字されたインクのあと。
燦然と壁面に並ぶ、隙間のほとんどない書棚の姿。
居場所に戻されるのを待つ、ラックの中の数冊の本。
ええ、もちろん。そういう本はほんの一部です。
あるいは普通の生徒が取ることの少ない、それでも学びのために置かれているような。
もしくは、よほどの好き者か……
でもそれは私がそういうものに好感を持つというだけ。
ひとによって異なるそれを、少しでもあったらいいな、と感じるのは、おかしいでしょうか。
そう、例えば。
今日のような真夏日でも。よおく部屋を冷やしてくれる、偉大な文明の機器とか。
震えるような寒さを気にさせない、ぽかりとした陽気を感じる冬の日のお昼寝タイムとか。
……誰もあなたが来そうな理由、だなんて。言ってませんよ?
ともかく。
居心地の良い空間。
切り取られた世界。
そんな中で、お互いに許容できる者同士で、互いの認識を、認知を、意識を触れ合わせていく。
なんでもないことを通じて、お互いの存在を確認しあっていく。
それはなんと軽やかで、気まぐれで、それでいて誰にでもできる。
そう思い込めるような。交流だと思うのです。
彼女と交流を深めた