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3日目
>『図書室へ行く』
ようこそ。
今日は、いつもよりも遅かったんですね。
ああ、別に責めているわけじゃありませんよ。そもそも、約束をしているわけではありませんし。
だから、あなたに。
どんな理由があろうと、今日も来てくれたことが、私は嬉しいのです。
チャイムが鳴りましたね。
このチャイムが鳴るたびに、今日という一日の終わりを感じる。
この学校という空間で過ごす時間が、私たちにとって過ごす時間の中心であるからでしょうけれど。
実際には今日という日はまだ終わっていません。まだ数時間の猶予があります。
けれど、私は。いいえ、私たちは、そういう風に感じるのです。
そういう記憶、ありませんか?
例えばあるクラシックの曲。
バロック音楽の巨匠の作品であるそれは、私にとって、特定の空間を想像させます。
小学生の頃、ほんのひと時、通ったピアノ教室。
待合室ということもできない、ただのリビング。
中学生だった、先生のお子さん。当時はひどく大人のように見えた、そんなお兄さんを。
あるいは印象派と呼ばれるフランスの作曲家。
その音色は、無機質な空間を思い出します。
正確には、間違い探しのできる子供向けの絵本と、くすみのはいった、白い羊のぬいぐるみを。
幼少期通っていた小児科医院が、そういった待合室だった。それだけの理由で。
これは私の、幼少期の記憶が呼び出す感傷です。
どうでしょうか。
ここまでお話すると、なんとなく、イメージしやすくなったりしませんか?
ええ。
他の方はどうか、それは分かりませんけれど。
あなたとは。なにも同一の幼少期を過ごしていないはずの、そんなあなたとは。
こういった感傷を、想像を。
共有できたら、と。互いに伝え合えたら、と。
そんな風に、夢想しているのです。
……意外ですか?
私、結構、単純なんですよ?
あなたと、こういって会話することが、楽しみになるぐらいには。
ええ。
明日も会えるといいなと、そう思っているのです。
…………。
あ。そうそう。
まだあなたは聞いてないとは思いますが。
明日、担任の先生から呼び出しの予定だそうです。
ふふ……
明日。
来れるといいですね?
彼女と交流を深めた