第2話 「ただいま」
あの後泣き疲れた2人は俺のベットを枕にして眠ってしまった。それと同時にさっき再会を喜んでいる途中に空気を読んで退出していた山本先生達が入ってきた。
「ほんと、君の意識が戻ってくれて良かったよ。2人はいつも危ない所に自分から突っ込んでいたからね。一視聴者としてはずっとハラハラしながら見ていたよ」
「はい。2人のこの様子を見て自分が起きて本当に良かったとと思いました。所でその•••一視聴者というのは?」
「そうだった。君は先程目覚めたばかりだから知らないのも無理がないね。ダンジョンが出来たから4年、つまり1年前に政府がダンジョンの中の様子を行った事がない人達にも知ってもらう為に配信ドローンを貸し出し、新たに作ったDtubeという配信サイトで配信させたんだ。この配信が始まってから1年。今では殆どの探索者がドローンを使い配信をしているんだ」
「ダンジョンの中を配信ですか•••」
政府も思い切った事をしたんだな。おそらくダンジョン用の配信ドローンは1から作ったのではないだろうか。相当なお金を使って作ったに違いない。しかし、それをしてもお釣りが来るくらい儲かっていそうだな。
山本先生の一視聴者という単語から妹達も配信をしていたのだろうか?
「妹達もそのDtubeで配信をしていたんですか?」
「そうなんだよ。最初期の方から配信をしていて私も2人から教わって見始めたんだ。2人は配信で人気を集めながら君みたいな植物状態になってしまった人が他にも出ていないか聞いたり、どの階層で上質なポーションが出たのかを教えてもらったり、他の探索者とコラボして情報交換などしたりと、まぁ君を助ける為に配信も始めたんだと思う」
「あの2人が•••」
僕が知っている2人は少し内気寄りな子達で自らを積極的に曝け出したりしない性格だった。しかし、聞いた限りでは積極的に人と協力している様だ。両親や僕のことがあったから心境が変化せざるを得なかったのだろう。そう思うと5年間もずっと寝ていた僕は申し訳なく思ってしまう。
「あの2人の視聴者の殆どは兄の為にやっていることを知っているからみんな応援していたんだ。だから君が目覚めてくれて本当に良かった」
「先生。もうだいぶ時間が過ぎていますよ」
「確かにそうだね。さて、四季くん。今後の、つまり君の身体の事について話そうか」
そう先生は言って、何故か鏡を持ってきた。
「まずは君の外見だね。今の君は5年間何も出来ず、ただ栄養や水分だけを接種していたから体はすごく痩せ細っている。そして何故か分からないが今朝迄は髪色は黒一色だったのに今の君は黒髪と白髪が入り混じっている髪になっているんだ」
そう言われ鏡に映った自分を見る。鏡で見た自分が本当に僕なのか疑うくらいすごく痩せ細った体に黒と白の髪。•••お前日本人ちゃうやろ。どこに地毛が黒と白が入り混じってる髪のやつがおんねん。
「この原因ってわかります•••?」
「おそらく目覚める原因となった事と紐付いていると思うんですがわかりませんよね」
「すいません何も覚えてないです」
「いえ、謝る必要はありませんよ。それとこれからの入院期間なんですが今の体のリハビリや髪色の変化の検査なども行いますので大体1ヶ月程入院してもらいます」
「わかりました•••あの、お金の方って•••」
「お金は妹さん達が出してくれてます」
やば•••妹に金払わしてるとか兄としてダメだろ。僕も退院したら2人に教わってダンジョンに行ってみようかな。
そうして僕が目覚めた日から大体1ヶ月が過ぎた。今日は退院の日だ。あれから1ヶ月、色々なことを教わった。2人の配信チャンネルが10万人を超している事。2人は探索者の中でDからSまであるランクの中でBランクに位置している事。住んでいた家は奇跡的に残っている事。母さんが付けていた髪飾りと父さんが付けていた指輪だけが見つかった事。そして、僕の髪の毛の変色は結局わからなかった事。
この1ヶ月でダンジョンの事を2人から聞いた。因みに2人は毎日会いにきてくれた。体の方も痩せ細った体も元の体型に近いとこまで戻ったし、リハビリもやって体をスムーズに動かせる様になった。
「今まで本当にありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
「いえいえ。こちらも患者が無事に退院できて良かったよ」
僕は妹達と山本先生にお礼を言う。5年間もずっと入院させ続けるなんて普通やるだろうか?この人には頭が上がらない。それと病院から歩いて15分くらいな所に家があるらしい。こんな近くに病院があったからこそ直ぐに治療を受けて今の自分があると思うとラッキーだ。
「1ヶ月間毎日会いにきてくれてありがとな」
「そりゃ当たり前だよ!5年間ずっと眠ってたから気づいてないと思うけど毎日行ってたんだよ?」
「そうなのか。毎日来てくれてありがとな」
そう言って千夏の頭を撫でる
「えへへ」
千夏は頭を撫でられて嬉しそうだった。
「むぅ。千夏ばかりずるいです兄さん。私も毎日お見舞いに行ってたし頑張っていたから褒めてください」
「ははは。千秋も毎日来てくれてありがとな」
そう言って千秋の頭も撫でる。千夏が頭を撫でられているのを見て羨ましがっていたから、千秋の頭をなでると嬉しそうだ。
2人の妹の性格は対極だ。千夏は明るく元気な性格で、千秋はクールで真面目な性格だ。因みに千秋の方が先に産まれている。2人は双子だからか性格と髪型以外はそっくりだ。千夏はま短く切っていてボーイッシュの様な感じだが、千秋は髪を腰くらいまで伸ばしている。
「2人はこれからどうするんだ?」
「ん〜配信もここ1ヶ月やってなかったからそろそろやりたいな」
「そうですね。リスナーの皆さんも兄さんの安否は気になっていましたから兄さんが良かったら一緒に雑談配信でもしませんか?」
「配信!?ぼ、僕の事を皆気にしてくれてるの?」
「そうだよ!私達が配信をしていた理由が兄さんを助ける為だったからね。情報収集の為の雑談配信とかでも春兄の事喋ってたんだ」
「そ、そうなのか•••なら配信に出てみようかな」
「ほんと!?やったぁ!!」
帰り道で僕も配信に出る事が決定した。千夏の勢いに押されて出ると言ってしまったが、今更出ないとも言えないしな•••それに、兄として2人がどんな配信をしているかも気になるし。
そうこうしていたら家に着いた。僕が最後に見た光景と変わっていない。
「「たたいま〜」」
2人はそう言って先に家に入る。それに続けて
「ただいま」
と言うと、2人が
「「おかえりなさい。春兄(兄さん)!」」
そうして僕は5年ぶりに家に帰るのだった