プロローグ
「ゴフッ•••」
俺は自分の胸に突き刺さる剣を見ながら崩れ落ちる。
「俺は殺ったぞ!魔王を殺したぞ!!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」」
目の前には先程俺の胸に剣を突き刺した1人の人間が勝利を叫び、その近くにいた部下らしき人間たちが雄叫びをあげている。
(やっとこの地獄から解放されるのか•••)
俺は目の前の人間を憎んだ。しかし、それと同時にこのクソッタレな世界から解放される事に喜び、目の前の人間に感謝した。
あの忌々しきクソ女神にこの世界に召喚されて500年と少し経つ。元の世界の何十倍もの時間をこの世界で過ごすとは思わなかった。俺はこの世界に来た直後のことを思い返す。
俺には四季晴人という名前があった。歳は15歳。顔や性格も普通な何処にでも居る様な高校2年生だ。趣味も特になく、強いて言うなら小説を読んでいたくらいだ。因みに異世界系もよく読んでいたオタク寄りの人間だ。
そんな人間が何で異世界で魔王なんかやっているのか疑問を抱いただろう。俺も未だによく分かってない。まああのクソ女神の事だ。多分適当に選んだのだろう。今でも召喚されたあの日の事を鮮明に覚えている。
あれは学校が終わり下校していた時だった。その日は偶々買い食いをしたりしていつもより帰る時間が遅かった。俺は買ったパンを食べながら歩いていると突然目の前が光り始め、目を開けられない程眩しくなった。そうして目を閉じ、光を感じなくなり目を開けると、見渡す限り真っ白な空間にいた。何処までも白く自分が今どんな体勢を取っているか分からなくなるほど真っ白な世界に俺は恐怖を抱いた。
『あら、やっと目が覚めたのね』
そう頭に響く声に先程まで感じていた恐怖を忘れ、この声の主を探した。すると目の前に突然女性が現れ、それとほぼ同時に現れた金色の装飾が目立つ真っ白の椅子に腰掛けた。
「えっと•••貴方は?」
そう尋ねると目の前の女性は顔を顰め、見下した表情に変わる。
『はぁ•••いつから喋っていいと言ったのかしら?これだから他世界の下等種族は嫌なのよ』
『まぁいいわ。貴方にはこれから私の世界で魔王として頑張ってもらうんだし』
これは小説とかにある異世界転移のようなものなのだろうか。でもそれならこの目の前の女性の表情や、先程聞こえた魔王という単語がよく分からない。そう俺は困惑していると
『なんで今ので理解できないかしら。はぁ•••ほんと使えない。』
『今からもう一度説明するから理解しなさいよ?』
そう言って目の前の女性。いや、女神は話し始めた。話の内容をまとめるとこの女神が作った世界には一度も勇者という存在が出現しないそうだ。勇者が出現する世界は他の世界より位が高く、評判もいいらしい。そして自分の世界にも勇者を出現させようとする為手っ取り早く魔王を世界に出現させる事で勇者をだそうとしたらしい。
しかしここで問題が発生する。この女神は自分の世界の可愛い人間達には魔王という役をさせたくなかったそうだ。そうして行き着いた結果がそう、別の世界から人間を呼び、そいつに魔王をさせるという事だった。他の世界の人間は全員ゴミと決めつけているこの女神は真っ先にこの方法を思いついたらしい。
(•••うん。ふざけんなよ。なんでそんな事の為に俺が召喚されるんだよ。こいつのあたまはゴミか?なんで他の世界から引っ張ってきたらいいとか思いつくんだよ。同じ人間だろうが)
そう俺は怒りを溜めながら話を聞いていた。そしてまた奴が口を開こうとしたその時
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ••••••
急に地震が来たような感覚になり、世界が揺れ、真っ白な空間にヒビが入る。まるで何者かがこの空間をこじ開けようとしているかのようだった。
『チッ•••もう気づかれたか!』
女神はそう舌打ちをしながら叫ぶ。
『お前にはすぐに死なないよういくつかのスキルを与えてやる。あとは人間にも危害を加えないようにして•••おらっ!いってこい!』
「はぁ!?ふざけんなよ!元の世界に返せよ!クソ女神がっ!」
そう叫ぶがすでに遅く、俺はそのまま落下しながら意識を失うのだった。
そうして俺はその世界で目を覚ました。最初は最悪だった。なにせゴブリンにすら勝てなかったからな。何度も何度も殺されては生き返り、ようやく勝てたと思えば、次はオークに殴り殺され、やっとの思いでオークに勝ったら次は•••というような感じでいつまでも戦い続けた。そんな日々が500年も経つともう誰にも負けないくらいの力を手に入れた。
しかし、それでも人間には勝てなかったのだ。人間と戦う時だけにクソ女神のスキルが発動し、本来の1万分の1の力しか出さないようになっていた。まぁそれも長く生きているとあまり意味は無くなっていったが。しかし、勇者と戦う時は別だった。なんとステータスがオール100になるのだ。ゴブリンを1人で倒せるくらいの力しかでず、当然勇者とはほとんど技術だけで戦っていたのだが最後はステータスの差で押し負け、今に至る。
そうして次に仲間になった奴らの顔を思い出す。仲間は3人しかいなかったが、少数精鋭と言えるほど1人1人が強く、俺含めてこの4人だけで他種族全員を相手にしていたのだからどれだけ強いのか容易に分かるだろう。そんな仲間達もいくら強かろうが女神による弱体化には勝てず、勇者達に打ち取られていった。
あぁ•••できる事なら
もう一度
あいつらに
「会いた•••かった•••」
そうして俺の意識は消えていくのだった。
初投稿です!よろしくお願いします!