アイドルドルフィン、ウイちゃんです!
――ピンポーン。ガチャ。
「あ! お久しぶりです! お兄さん!」
……ガチャリ。
「えぇ!? ちょっと! なんでドア閉めるんですかー!? 開けてくださーい!」ドンドン!
……ガチャ。
「はぁ~、びっくりしたぁ……。私ですよ! 私! ハンドウイルカのウイですよー!」
……ガチャリ。
「え!? また!? あ、開けてくださーい! アイドルドルフィンのウイちゃんですよー!」ドンドンドドドン!
「本当なんですってえ! 信じてくださーい!」
……ガチャ。
「は、はい! そうです! その水族館にいる、ハンドウイルカの、ウイです!」
「アイドルドルフィン、ウイちゃんです!」
「そうですよ! そのイルカこそ、この私です! この前はショーを観に来てくださり、ありがとうございました!」
「しょ、証拠、ですか? う~ん……そう言われても……。さすがにここで元の姿に戻る訳にもいきませんし……」
「そうだ! これなら!」クルンッ!
「今の宙返り、見ましたか!? いやぁ、人間の姿になってもちゃんとできるものなんですね!」
「え? これくらい人間でもできる……? む、むぅ……。そうですか……」
「うーん……。だったら……。そうだ!」
「こしこし……。こしこし……。どうですかー? 私の胸びれ、あ、今は手になってますけど、すべすべでしょ? こしこし、こしこし……」
「これはラビングって言って、私たちイルカは、こうやってコミュニケーションを取るんですよー。こしこし……」
「ほらお兄さんも! わたしのほっぺ、触ってください! ほらほら! 遠慮せずに! ラビングは仲良しの証拠でもあるんですから! はい!」
「すりすり……。いいですね……。すりすーり……。うんうん、そんな感じです……」
「ちなみにラビングはですね、男の子が女の子にやることが、多いんですよ……。だからお兄さんも、たーっぷり、やってくださいね……。すりすり……すりすり……」
「え? なんでイルカが眼鏡を掛けてるのかって?」
「そ、それはですね……。実は私、あんまり視力は良くなくって……多分、視力検査表の一番上のも見えないと思います」
「普段はクリックスでエコーロケーションができるので目が悪くても困ることはないんですけど、人間の姿になるとどうにも上手くできなくって。それで眼鏡を」
「ちなみにですけど、メガネイルカっていう、目の周りが眼鏡みたいな模様のイルカもいるんですよ!」
「あ、クリックスで、エコーロケーションです!」
「説明、ですか。そうですね……。簡単に言えば、超音波、ですね。かちかちって超音波を物体にどーんってぶつけると、ぴょーんと返ってきた音で物体がどこにあるのか、とか、周りがどうなっているのか、みたいなのがはっきりくっきりわかるんです!」
「ソナーみたい? そうですね! そんなイメージです!」
「ピュイー? それはホイッスルです! 人間の声と同じように、仲間とやりとりをするときに使います。ですがなんと! 五〇〇メートル以上離れていてもやりとりができちゃうんです! すごいでしょ?」
「どうです? 私がイルカだって信じてくれました?」
「ま、まだ? そうですか……」
「イルカマニアじゃなくて、本当にイルカなんですって!」
「なんで来たのか? それは……これです」
「これ、お兄さんの学生証、ですよね?」
「ショーのとき、私がジャンプして水しぶきが上がった拍子に落としちゃったんだと思います。トレーナーさんに伝えようかなとも思ったんですが、私が直接持っていきたくて」
「は、はい……。それに書いてる住所を見て、来ちゃいました」
「だ、大丈夫ですよ! 他の方には誰も言ってませんから! それくらいの常識は私にもあります!」
「いえいえ! これくらい、お安い御用です!」
「休館日はこんな風に、電車に乗ったりして色々なところによく遊びに行ったりしてるんですから! 慣れたものです!」
「え? なんで人間の姿になれるのか? そ、それは……」
「今も昔もよくあるでしょ? 動物が人間の姿になって――っていうの。私もそんな感じです!」
「ふふん! イルカの生態はまだまだ謎が多いって言いますからね!」
「ご、ごめんなさい……。言い逃れです……」
「ですけど……これは一家相伝の技なので、他の方に説明する訳には……」
「信じる……? あ、ありがとうございます!」
「すりすり……すりすり……」
「だって、嬉しいんだもん! 嬉しいからラビングくらいしたくなりますよ!」
「別に郵送でもよかった? ひ、ひどいですね! せっかく来たのに! もう!」
「私の喜びを返してください! ねえ!」
「た、食べません! 食べたりしませんから落ち着いてください!」
「少なくとも私は人間を食べません! 食べるのはイワシとかアジとかです!」
「……なんで直接来たのか知りたい? なら最初からそう言ってください!」
「知ってるとは思うんですけど、私のショーって、カップルとか家族連れの方が多いんですよね」
「私がジャンプすると、歓声が上がる! 私が着水すると、悲鳴が上がる! それが私のショーなんです!」
「ですが、お兄さんは!」
「前の席に座っていたのに全くのノーリアクション! 表情ひとつ変えずに無反応! お子さんが泣くよりショックでしたよ!」
「だって泣いたら『やった! わたしのジャンプであの子が泣いた!』ってなりますから。無反応だと『あの、わたしに興味あります? アシカの方がいいですかね?』ってなりますから! 傷つきますよ!」
「それと! ショーが終わったら、毎回お触りとか写真撮影やってるのって知ってますか?」
「はい。そうです。ふれあいタイムです!」
「私を間近で見て触れて、みなさん『かわいいー!』とか『つるつるー!』とか言って笑顔で写真を撮ってくれるんです!」
「私はそれで『また笑顔になってもらえるようトレーニング頑張ろう!
』とか思える訳ですよ!」
「ですがお兄さんは!」
「そんな私を遠くから横目に見てスタジアムをゆっくりと後にする有様!」
「私はそういうの見ると『今日はいまいちだったのかな……』とか思って水槽の中で反省する訳ですよ!」
「ですので! 次からはちゃんとリアクションを取って、ふれあいタイムにも参加してください! それを伝えたかったんです!」
「え? ひとりだと恥ずかしい……?」
「そんなこと全然気にしなくていいですよ! おひとりさんなら他にもいっぱいいますし!」
「それでも恥ずかしいものは恥ずかしい? む、むぅ……」
「だったら!」
「今日ここで! たっーぷり! 私と触れ合ってください!」
「姿は人間ですし、ショーもここじゃできませんけど、それでも私はウイちゃんですから!」
「その理屈はおかしい? どこがおかしいんですか?」
「あ、もしかしてまた恥ずかしがってますね! まったく! ウイちゃんと二人っきりになれるんですよー?」
「……はぁ。シャイですね。お兄さんは」
「そうですね。ここはお兄さんの家ですし、選択権はお兄さんにありますよね。ですけど……いいんですか?」
「私を追い返して、このままひとりきりで今日という日を過ごすのと、私と一緒に一日を過ごすの!」
「ウイちゃんファンにしてみれば、こんな機会二度とないですし、考えるまでもないと思うんですけど! これを逃したら一生後悔しますよ!」
「ファンなんているのかって!? またひどいことを!」
「いますよ! ほとんど毎週欠かさず来てくれるおばあさんとかたくさんいますし! インスタもやってますけど、フォロワー数一万人超えてるんですから!」
「ここまで聞いた上で! それでも私を追い返しますか!」
「……はい!」
「うんうん! 賢明な判断です!」
「それじゃ、ずっと玄関で話すのもなんなので、入りますね!」
「おじゃましまーす!」
ガチャリ。
「今日はたっぷり、触れ合ってくださいね! お兄さん!」
「おじゃましまーす……。おぉー! 広々としてていいですね!」
「くんくん……いい匂いもしますね!」
「……すんすん」
「お兄さんも、いい匂いですね……」
「すんすん……すんすん……」
「え? なんでそんなに匂いを嗅ぐのかって?」
「それは……元の姿だと、匂いがわからないんです」
「ですからちょっと新鮮で。……すんすん」
「……もしかして、恥ずかしがってます?」
「お兄さんもかわいいところ、あるんですねー」
「からかうなって? えへへっ」
「すー……はー……すー……はー……」
「やっぱり、いい匂いですね……」
「……やめてほしい? はーいはい。わかりましたー」スッ。
「それならベッドの匂い嗅いじゃいます! えーい!」ボン!
「これは……ふかふかで……気持ちいいですね……」
「あれ……? これは……?」
「これ……お兄さんのスマホですか? そうですよね!?」
「んー……どれどれ……」
「パスワード……?」ポチポチ。
「あっ」
「解除、出来ちゃいました!」
「なんでそんなにびっくりしてるんですか?」
「学生証に書いてたお兄さんの誕生日、そのまま入力したら出来ちゃっただけですよ?」
「こういうことが起こるから、ちゃんと考えて決めないとダメなんですよ!」
「さーて。お兄さんはちゃんと私を撮ってくれてるかなー?」
「んー。これはハリセンボンで、こっちはウツボ。ウニ。タラバガニ」
「うわぁ!? なんですかこれ!? あっカワウソ……すごい角度から撮ってますね……」
「イワシの群れ……美味しそうですね」
「カクレクマノミ……ナンヨウハギ……」
「カレイ……じゃなくてヒラメか……」
「クラゲ」
「アザラシ、ペンギン……」
「ん……? これは……」
「これアシカショーじゃないですか! やっぱりそっちの方がいいんですね!」
「シャー! 本当に食べちゃいますよ!」
「え? この後にイルカショーに行った? ならいいんです!」
「ほんとだ! スタジアムの写真ですね!」
「あ、マイちゃんだ! それにナホ先輩もいるじゃないですか! このツーショットは貴重ですよ!」
「マイちゃんは一番小さい子で、ナホ先輩は一番大きな子ですから!」
「顔しか水面に出てないから、どっちがどっちかわからない?」
「いやいやいや! それでもさすがにこの二人の見分けはつかないとダメですよ! だってそもそも種類が違うんですから!」
「まず、こっちはマイちゃん。カマイルカです! その名前通り、背びれの模様が鎌みたいになってます!」
「背びれ以外にも身体全体がしましま模様で! 小柄で! だから動きも俊敏で! 私よりも! 高く! 華麗に! 飛べちゃうんです!」
「これがどういうことかわかりますか!?」
「そうです! 見た目がわかりやすくて迫力ある子は人気になりますよね!? アイドルドルフィンになりますよね!?」
「も、もちろん一番人気なのは私なんですけど? 後ろを追っかけてくるライバル……みたいな子です!」
「で、こっちはナホ先輩。オキゴンドウです! 体長は五メートルを超えてます! ここまで大きいので、クジラ扱いされたりしてますね!」
「私? 私は……まあ、二メートル……五十……五センチくらいですかね?」
「明らかに二メートルもないじゃないかって? それはそうですよ! だって今は人間の姿なんですから!」
「今のこの姿の身長は……? んー……あんまり測ったことはないですけど……ってどこ行くんですかー!?」
スタスタ。
シャラララッシャー。
「手に持ってるのは……巻き尺?」
「ま、まさか、こ、これで私を縛ってあんなことやこんなことをしようとでも言うんですか!? させませんよ!」
「違う? 身長を測る? 私の?」
「で、でもなんか顔怖いですよ! 本当にそれが目的ですか!?」アトズサリ……。
「わぁちょっと……あっ……」
ダン!
「か…………壁……ドン……」
「わ……私……お兄さんになら……」
「ん……」
シャー。
「あっ、今から測るんですね……。だから私を壁まで……」
「で、でもなんか……顔が近い…………あと……秘密を暴かれる感じがして……ちょっと……恥ずかしいです……」
「あ……あの……」
「ま……まだ……ですか……」
「あの……わざとゆっくりやってたりとかしませんよね……?」
「終わった……? それで……私の身長は……」
「……一メートル五十五センチ?」
「あ、あはは……一メートルも縮んでるんですね……」
「え? ちょっと! 今度は何を!」
「スマホを返してって?」
「ダメですよ! だってまだ肝心な写真を見つけてないんですから!」
「お、ナホ先輩のドアップですね! 見た目はちょっと怖いですけどすごく優しい方ですよ!」
「ちなみに、ナホ先輩は見た目通りパワフルなパフォーマンスが得意で、トレーナーさんを乗せながら泳いだり、空中に打ち上げたりしてますよ!」
「それで……これは……私の姉のリリですね!」
「ん? 姉も人間の姿になれるのかって?」
「なれますよ! というより私たちの水族館にいるイルカはみんな変身できます!」
「あ、あれ? これ言っちゃってよかったのかな……?」
「えっと……他の方には内緒ということで……」
「内緒にする? ありがとうございます!」ペタリ。
「すりすり……すりすり……」
「そろそろ私の写真もあるかなぁ……」クイッ。
「セイウチ。トド。ウミガメ……」
「……あれ!? 私の写真は!?」
「も、もしかしてショーしてないときに撮ったのかな?」
「えっと……とりあえずイルカはいるかな……」
「あ、ああ……。マイちゃんだぁ。で、アイちゃんルイちゃん」
「お姉ちゃん」
「またアザラシ……イルカは!? 私は!?」
「まさか……私を……撮ってない……? 一枚も……?」
「え? ショーを観るのに夢中で撮ってなかったかも?」
「あ、ありがとうございます……」
「でも! ここまで他の子撮ってるなら私も撮っておいて欲しかったです! それこそふれあいタイムに参加してでも!」
「恥ずかしいものは恥ずかしいと……。そうですか……」
「そうだ! 写真がないなら今撮っちゃえばいいんです!」
「いえーい!」カシャ。
「えーい!」カシャ。
「ほいっ!」カシャ。
「あ、ほらほらお兄さんも一緒に!」グイッカシャ。
「えへへっ。ツーショット、撮っちゃいましたね!」
グイッ。
「あ! まだスマホは返しませんよ!」
「だってお兄さんは、私の写真も撮らず、ふれあいタイムにも参加しなかったんですもん!」
「これは重罪です! 罰が必要です! という訳でこれは没収です!」
「返してくれないと困る?」
「確かに、スマホがないと困りますよね。だからこれが罰です!」
「謝るから返して欲しい?」
「んー。どうしようかなー」
「そうだ! これから言う、私の指示に従ってくれたら、返してあげます!」
「普段はずっとトレーナーさんの指示に従ってますからねー。たまには私だって逆の立場に立ちたいなって思ったりするんですよ!」
「お兄さんも、それでいいですか? いいえ、拒否権はありませんよ!」
コクコク。
「うんうん! 素直でよろしいです!」
「それじゃ、一体何をしてもらおうかな……」
――ザッパァァァン!
――クルクルッ。
――シュタッ。
「お兄さん! 今日のショーも最前列で見てくれて、ありがとうございました!」
「スマホを返してもらうためだから? 相変わらず素直じゃないですねー!」
「一週間毎日、ショーを毎回最前列で、私だけを見続ける。そしてふれあいタイムにも必ず参加する!」
「それが私の指示でしたね!」
「そして今日で、私がこの姿でお兄さんの家に来てから、ちょうど一週間になりますね」
「つまりこれで、私はスマホを返さなければいけません……よね」スッ。
「はい、どうぞ……」
――ヒョイ。
「……」
「あの……えっと…………もし、よかったらなんですけど……感想を聞かせてくれたらなぁ……なんて……あははは……」
「プールから出た瞬間人の姿になるのが不思議? イルカのときは裸なのになんで人の姿では服を着てるのか? た、確かにそう思うかもしれないですけど!」
「そうじゃなくて、純粋にショーの感想を聞きたいです!」
「うんうん! すごかった……綺麗だった……」
「ありがとうございます!」ガバッ。
「えへへ……抱きついちゃいました。すりすり……すりすり……」
「すりすり……え? なんですか?」
「視線を感じる……? まさか!」バッ!
「よ、よかったぁ……他に人は来てないみたいですね……」
「でも、それならなんで……?」
「……あ」
――チャップン。
「ちょっとマイちゃん! こっち見ないで!」
「アイちゃんもルイちゃんも! お願いだからあっち行って!」
――ザパッ。
「ふぅ……どうにか出て行ってくれましたね……まさかイルカの姿のままプールで私たちを見ていたとは……」
「別に見られててもよかった……? だ、ダメです!」
「お兄さんはよくても、私がダメなんです!」
「だ、だって……その……」
「お兄さんには……私だけを見て欲しい……」
「私は……お兄さんと……二人きりでいたい……」ギュッ。
「……」
「……ごめんなさい……私……隠していたことがあるんです……」
「お兄さんは……学生証を……落としてなんて……いないんです……」
「……私が……お兄さんのポケットから……抜いたんです……」
「なんでそんなことをしたのか……? そうですよね……」
「それは……私……」
「私が……ショーのときのお兄さんについて……知っていたのは……私が意識を向けていたからです……」
「意識せずにはいられないほど、ショーを観ていたお兄さんは魅力的でした」
「この人に触れたい、触れて欲しいと思いました。でも、お兄さんは来てくれなかった」
「だから……私の方から……お兄さんに会いに行くための口実が欲しくて……それで……」
「ごめんなさい……でも……私……」
「お兄さんが……好き……なんです……」
「もっと私を見て欲しい、もっと話したい、もっと一緒にいたい。そう思わずにはいられないんです」
「お兄さんは……どう……ですか……?」
「私のこと……どう……思います……?」
「私の……彼女に……なってくれますか?」
「え……もう……彼女がいる……?」
「だから……気持ちには応えられない……」
「そうですか……」
「で、ですよね! お兄さんかっこいいですし、彼女さんとかもいますよね! あ、あははは……」
「今まで、ご迷惑をおかけしました!」
「あっ、もうすぐ閉館時間ですね! お気をつけて!」
「……」
「ほらほら早く! 早く帰らないと怒られちゃいますよ!」
――カッカッ。
「も、もしよかったら、またショー観に来てくださいね……!」
「……」
「やっぱり……嫌……です……」ギュッ。
「私……お兄さんと……もっと……これからも……一緒に……いたいです……」
「私……お兄さんが……好き……です」
「……答えはいらないです……だって……もう……わかってますもん……」
「だ、大体おかしいですよね! イルカが人間に恋愛感情を抱くなんて! あははは……」
「……」
「……」
「はえ? 今……なんて……?」
「彼女なんていない……? 全部嘘……?」
「それ……本当……ですか……?」
「そ、そうですか……」
「なんでそんな意地悪するんですかー!」
「わ、私、すごくショックだったんですよ!」
「が、学生証を取ったお返し……ですか……」
「で、でもひどいです! こんなことするなんて!」
「私……私……お兄さんともう会えないんじゃないかって……」
「……え?」
「い、今のもう一回! 言ってください!」
「お兄さんも……私のことが好き……」
「それは……嘘……ですか?」
「……本当……?」
「そ、そう……ですか……」
「え、えへへ……私も、お兄さんのこと、好きです」
「私の気持ちも、本当です!」
「あ、あの……お兄さん……」
「今度はラビングじゃなくて……人間の方の、愛情表現……をやってみたいなぁ……なんて……」
「いい……ですか……?」
「で、では……」
「んー……」
「お兄さん……改めて見ると……背……高いですね……」
「とどかな……」
――ザッパーン!
「わわぁ!? マイちゃん!?」
「な、なんでまだいるの!?」
「だ、ダメダメダメ! マイちゃんまで人の姿にならないで!」
「わー! わー! うわー!」
「お、お兄さん! 私の手を握ってください!」
――ギュ。
「急いでここから出ましょう!」
――タッタッタッ。
「ふぅ……ここまで来ればもう大丈夫……かな……」
「それにしても、マイちゃん。すごい足の速さでしたね……」
「さすがカマイルカと言うべきかなんというか……」
「いつの間にか、最寄りの駅まで来ちゃいましたね……」
「お兄さん? どうかしたんですか?」
「私のことでしたら、心配しなくて大丈夫です! トレーナーさんにはさっき連絡しておきましたので!」
「マイちゃんについては……まあ……帰ったらちゃんと説明しようかなぁ、と。あの感じじゃ説明しないとどうなるかわかりませんしね。あははは……」
「え? そうじゃなくて 手?」
「……あ」
「あはは……。繋いだまま、でしたね……」
「あの……電車が来るまで……このまま繋いでいても……いいですか……?」
「ありがとうございます!」
「えへへ……すりすり……」
「すりすり……」
「あ、そういえば!」
「お兄さんのスマホに、私の連絡先、入れておきましたので!」
「これでいつでも、私たち、繋がっていられますね!」
――ピロロロロロロン。
「あ! 電車、来ましたね!」
「じゃあお兄さん! またね!」
チュッ。
「えへへ、人間の愛情表現、しちゃいました……」
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
「ほらほら! 電車来ましたよ!」グィッ。
「それじゃあお兄さん! 今までありがとうございました!」
「そして、これからもよろしくお願いします!」