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大聖女の最期の仕事1

「神殿に行かれたようですね? しばらくは外には出られないようにお気を付けください」

 目を覚ますと医者にも神殿に行ったことを咎められた。

 ゲホ……ゲホ……

 喉の奥にある違和感がずっと取れない。


 あれから熱を出してしまった。

 以前のように体の調子が戻らない。自分の体が弱くなったことを感じていた。

 どうやら呪いを解いたことによる後遺症のようだ。


 アーノルドは意気揚々とレリア国を攻めたようだが、神秘の森からもエルフが加勢に入ったようで守りが硬く、国境の守りを破ることもできなかったらしい。

 結局ロッド国軍はレリア国に撃退され、いくつかの不利な条件をのむことになった。

 とんだ信託が下りてしまったようで、そのことについて国民の間でも不満が溜まっていると聞いていた。


 そうして日を置かず、神殿長が宰相を伴って私のいる部屋にやってきた。大事な話があると宰相は人払いしてララたちを部屋から追い出した。

「実は言いにくいことなのですが、王太子が大聖女様と婚約破棄をして、ジェシカ様を王太子妃に迎えることになりました」

 宰相が私を痛ましいものを見るような目をしていた。

 しかしもうすでにわかっていたことなので特に驚くこともない。まして、落胆するなんてこともなく、淡々と宰相が出す書類を眺めた。

「ここに、サインをすればいいのですか?」

「はい」

 婚約破棄する、という書類にサインをする。これで晴れて私はアーノルドの婚約者を辞めることができる。あんなに長年辞めたいと思っていても、どうしようもできなかったことがあっさりとサイン一つで終わった。


 宰相の話から察するにアーノルドは邪魔になった私を大病ということで婚約破棄したようだ。

 それはいいのだが、婚約破棄を宰相に任せて伝えるなんて誠意がない行動だと思った。仮にも八年ほど婚約者だったのに。

「アーノルド王子は顔も見せないのですね」

「お、恐れながら大聖女様の弱った姿がとても見られないとお嘆きになるので……」

 宰相は気を使って言ってくれたが『面倒くさい』とでも言ったのだろう。簡単に想像がつく。

 私がフ、と自嘲するように笑うと焦った宰相が付け加える。

「大聖女様の聖なる力は枯渇する一方で、この先アーノルド様を支えるのは難しいと判断され……」

 枯渇する、か。確かにこの健康状態では以前のように力が使えるとは思えない。

 アーノルドは散々私の聖なる力に頼ったあげく、私をお払い箱にしたのだ。

 どんなに口上を述べられようとも、その事実が変わることはない。

 

「戦争はどうなりましたか?」

 私が話を変えると宰相の肩がビクリと揺れた。そんなに驚くような質問でもないのに。

「レリア国とはロッド国の領地を譲ることと、いくつかの条件で平和的解決をする予定です。今後攻め入ることはありません」

 つまり、戦争を吹っ掛けておいてレリア国にやり返されたので、領地を差し出し、『もう手出しはしない』と約束して怒りを収めてもらうのだろう。

 これに懲りたのならいい。これ以上の戦火は悲劇しか生まない。


「それで今後のことなのだけど、フィーネの療養場所を変えたらどうかと思ってね」

 そこで神殿長から提案があった。神殿長と顔を見合わせてから宰相が私に話をした。

「大聖女様には星見の塔で安らかにお過ごしいただきたいのです」

「星見の塔? どうしてそんなところに」

「……もちろん世話係もつけます。塔の上から王都を見渡せますし、きっと大聖女様にも気に入ってもらえると思います」


 療養するのに高い塔で暮らすのはおかしくないだろうか。田舎にでも追いやればいいのに。

 思っていることが顔に出ていたのか宰相が苦虫を潰したような顔をしていた。

「大聖女様には……いつでもロッド国を見守っていただきたく……」

「そうですよ、フィーネ 。星見の塔なら神殿に向かって祈りを捧げることができますよ」

 神殿長もそう言うが、神殿に行かないのならどこから祈っても同じのはずだ。

 星見の塔は長い螺旋階段の上にある。男の人でも部屋まで登るには一苦労だと言われるくらいの塔である。体調の悪い私がそこに行けば自力では外へ出ることはないだろう。

 私を閉じ込める目的だとしか思えない。

 どういうこと?

「それでは、一週間後には星見の塔のお部屋も改装が終わります。大聖女様はそちらに移られますよう願います」

「ちょっと、待ってください。神殿長……」

「フィーネ……あなたが王宮を去ることは誰も望んでいないのです。星見の塔で穏やかに養生できるよう、手配いたしましょう」

「な……」

 私がなにを言っても二人は意見を代える気がないのは明白だった。

 私に星見の塔で暮らし、そこから出るな、と言いたいのだ。


 そうして私は一週間後に星見の塔へと移されることになった。


「私が星見の塔に移ることはいつから決まっていたの?」

 部屋に戻ってきたララたちに尋ねると三人の動きが止まった。黙り込んでしまった彼女たちに縋るように声が出た。

「世話係のあなたたちも一緒なのよね?」

「私たちも先ほど聞いたのです」

「……私たちは大聖女様のお世話を解任されます」

「え?」

「星見の塔では王宮から選抜された侍女と衛兵が大聖女様のお世話を引き受けるそうです」

「……」

 人見知りではないが、世話係を変えられるのは嫌だ。そう思って眉間に皺を寄せているとララが小さな声を出した。

「あの……にわかには信じがたいのです。信じがたいのですが、神殿長も王室も大聖女様を星見の塔へ閉じ込めるのが目的なのかもしれません」

 するとルルとモモも口を開いた。

「実は、神殿長が下ろした神託が大聖女様のものだったと公表されているのです」

「神託によって戦争になった今までの事案で国民の不満が溜まっています」

「責任を取るかたちで大聖女様を星見の塔にやるのではないでしょうか」

 三人の話を聞いてくらくらする。いくらなんでも……。

「そんな、馬鹿なこと……。神殿の関係者はみんな神託は神殿長しかできないと知っているじゃない」

「私たちはそう思っています。けれど信者は神託が神殿長だけのものだとは思っていません」

「まさか、今までの敗戦の責任を私に擦り付けるということなの?」

「私たち聖女の中でも混乱しているのです。大聖女様が全てを請け負って塔にこもるのが神の思し召しだと神殿長が私たちに告げて、もう、どうしたらいいか」

 強引な話に呆れてものも言えない。

「ありえないわ……」

「私たちは神の言葉が絶対だと信じてきたのです。でも、納得ができなくて混乱しています」

「神殿長と話をするわ。呼んできてくれるかしら」

 私がそう言うとララはすぐ神殿長に話を入れてくれ、明日きてくれることになった。



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