作戦決行3(ヴィクタ視点)
「ではこの前の塩の話の続きを」
アーノルドに言われて書類を手繰る。そうしながらも先ほどのフィーの様子が気になっていた。
彼女はアーノルドを見てなにか感じ取っていたようだ。
部屋に入った瞬間、王太子妃のジェシカがいたことで、私はいつでも動けるとフィーの手を握って伝えてある。
フィーの見解ではアーノルドは単純だが、勘が良く決断が速いとのことだ。他の部屋に連れていかれたフィーが気になる。
「ではこちらを……」
適当に時間を長引かせるために書類を出すと探るような声が聞こえた。
「……ずっと考えていたんだ」
顔を上げるとアーノルドが私に忌々しい顔を向けていた。巷では受けのいい端正な顔立ちだ。
「なにを、です?」
「どうして大悪女のフィーネの姿でこの国にきたのか、と。まあしかし、別に似ていたってかまいやしない。俺に塩を融通してくれるというし、害がないならそれでよかった。けれど」
「けれど?」
「あの女がフィーネなら生かしておけない。なぜなら未だにあの女は神殿長よりも聖女から信頼を得ていたからだ。あの女が声をあげれば聖女たちは命だって投げ出すだろう」
「……それは、すごいことですね」
「教会が燃やされ始めてから、一層警戒していた。しかし、あの時のフィーネは誰が見ても死にかけていたし、亡霊だって言われる方が納得ができる。お前やブラックローズが動いてない日も教会は燃やされたからな」
「では、別人なのでは?」
「俺もそうであってもらいたかったさ。よりにもよって王宮に引き入れてしまっていたからな。今日連れてきたのはフィーネに陶酔していた聖女の一人だ。ヤツの目が言っていた。あの女は本物なのだと。――それで、お前は誰だ? どうしてフィーネに協力している」
アーノルドは探るような目で見ていた。なるほど、この男は彼女がフィーネだと確信したのだ。それでは、もうここにいることはできない。作戦は決行する。どのみちもう準備は整っている。
「私はブラックローズ様に仕えるドリス=ヴァンですよ、王太子殿下」
そこで、外から火事だと叫ぶフィーの声がした。どうやらフィーも動いたらしい。
「なんだ⁉」
「おっと、あなたの相手は私ですよ」
外に気を取られたアーノルドの前に出る。あれはフィーが聖女を逃がすことにしたという合図。さすが私のフィー。とてもいいタイミングだ。私はこの男をまず足止めしなければならない。
「なんのつもりだ」
「さあ?」
「ジェシカにはフィーネを殺すように指示してある」
「そうですか」
「気にならないのか?」
「あなたは婚約者だったのに、フィーネのことをあまりにも知らないのですね」
「なんだと?」
「あなたの妻ではフィーネを殺すことはできませんよ」
私はそう言ってアーノルドの額を指でついてやった。
「がっ!」
油断していたアーノルドが壁に体ごと打ちつける。
「くそっ、誰か、こいつを拘束しろっ。殺しても構わん」
後ろにいた護衛が剣を抜いて構えてくる。右手に魔力を集中させて私は魔力で作った炎の剣を構えた。
「少し……遊んであげましょう」
護衛二人の剣を交互に躱しながら、じわじわと壁に追い込んでいく。なるべく、時間をかけて聖女たちが逃げる時間を作らなければならない。
カキン、と剣と剣がぶつかる音が鳴る。二人が私に押し負けているのを見て後ろにいたアーノルドが驚いていた。優男だと思っていたのだろう。
外の様子でなにか気づいたアーノルドが動こうとしたので、炎のボールをぶつける。護衛二人をのしてから、アーノルドに向かい合うとバチバチと彼が手に雷撃を溜めているのが見えた。
――あれの威力は嫌と言うほど知っている。
ひとまずシールドを張って雷撃に備えると、すぐにアーノルドはこちらに打ち込んできた。
ドカン、と爆発音がなってドアが吹っ飛んだ。
「そこをどけっ」
「通すわけにはいかなくてね」
「ちっ」
アーノルドもまた右手に魔力を集中させて剣を作る。バチバチと音をさせながら大きな剣ができている。ケガすることも厭わない戦闘スタイル。派手で大きな剣が彼の全てを語っているようだ。
これで素早く動けるのだから、正直感心する。鋭い切込みを躱して、踏み込むタイミングを計る。この男の怖いところは接近戦になった途端、先を読んだように動くことだ。一定の距離を保ちながら切り込まないと取り込まれてしまう。
「なかなかやるじゃないか」
ニヤリと笑うアーノルドの目には狂気が見える。あの日の屈辱がよみがえってくる。
しばらくアーノルドとやり合っていると窓の外に兵士が移動しているのが見えた。あの方向にはフィーがいる。アーノルドの相手をしている場合ではなさそうだ。
ボン、
と水蒸気を爆発させてから部屋を飛び出て走る。聖女たちを逃がすにはそれなりに時間がかかるのだ。きっとフィーは身を挺して彼女たちを守っているに違いない。
案の定彼女の姿が見えた時には彼女は兵士に向かっていた。




