エルフの伴侶3
「……フィーは心も元気になってきたのだな。あれからわかったこともある。覚悟ができたらアテナに話をしてもらおうと思っていたのだが、どうする? 簡単な現状だけ話すか?」
ヴィクタはじっと私を観察しながらそう言った。
私は覚悟を決めた。
「全部、教えてくださいますか」
「……今わかっていることはフィーに話そう。降りたらアテナを呼ぶ」
「ごめんなさい、ヴィクタ」
「なにを謝る? 気になって当然だ。フィーにとって聖女たちは家族なのだから」
そうして気球から降りて家に戻るとアテナがやってきてくれた。
「まず、ロッド国は健在よ。レリア国とは険悪なままだけれど、今は他の国にも戦争を吹っかけることもしていない」
「正直、あの王子の性格ではエルフから手を引くとは思えん。ただ、今のところは大人しくしている。結局レリア国はエルフを帰さなかったことで経済制裁を行っている。今のところ塩の取引が止められた」
口火を切ったのはアテナで、ヴィクタがそれに補足してくれていた。
「ロッド国では塩は貴重ですから、大いに影響はありそうですね」
「聖女たちになにかあったという情報は入ってきていないわ。だから、きっとフィーネがいなくなっても神殿は機能していると思う。それで、聖女の治癒力の仕組みのことなのだけど……」
「はい」
「フィーネが倒れてしまった間に、なんとかしようとして体を調べさせてもらったの。勝手にごめんなさいね」
「いえ、そのおかげで私は生きながらえたのですから感謝しかありません」
「……それでいくつか分かったことがあるの。フィーネのコアはもともと魔力を無意識に放出しやすい体質なんだと思う。そしてサソリの魔獣の毒で一時的に開き切ってしまう。だから他人に自分の生命力を与えて治癒できるのだと思うわ」
「それが、聖女の治癒能力のからくりなんですね」
「ええ。あれからロッド国の聖女のことも調べたのだけど、昔の聖女は治癒はできたものの、その行為は『傷や病気が早く治る』程度のものだった。寿命だってそんなに短くなかったの。それが明確に『治癒』しだしたのはここ百年ほどの間」
「百年前からってことですか?」
「ロッド国の聖女は昔から神ガトルーシャヘイブラロの僕として存在していたけれど、王族が頻繁に他国に戦いを仕掛け、聖女がそれを治癒するようになったのはそのくらいからよ。ちょうど、現王の二代前が即位した頃ね」
「その時になにがあったかはわからないが、きっと誰かが知ってしまったのだろう、聖女が毒に触れれば、治癒能力が高まることを。さらに研究して力を引き出す仕組みを作ったのだろう」
「……そしてそれは聖女の命を削ることだったのですね」
「たぶん、多少の毒ならそこまでコアは開かないと思う。特別な毒を作っているんじゃないかしら。悪質なのは、代償があるとわかってからも聖女には秘密にしてどんどん利用していたことよ。人として……許されることじゃない」
「そして、これはきっと王族と神殿長は知っているはずだ」
「聖女の犠牲がロッド国の戦力を支えていたんですね……あんまりだわ、聖女たちは争い事なんて望んでいなかったのに」
「ロッド国にいた時、私はガトルーシャヘイブラロ神の彫像に違和感を感じていた。きっとそこに毒が仕込んであると思う」
ヴィクタはそんなことを感じていたのか。物心がついた時から神殿で暮らしていたので、私たちには当たり前すぎてわからなかったに違いない。
「罰当たりな……」
ブルブル、と体が震えた。神を裏切り、信仰心を利用した。聖女をなんだと思っているのだ……まるで都合のいい道具だ。
「実はフィーの体調が良くなり次第、レリア国王にロッド国の今後を相談したいと言われている」
「相談?」
「レリア国はロッド国を制圧することに決まった。エルフの国はそれを全面協力する。アーノルドの狙いはエルフを取り入れて全世界を征服することだ。先々代から急にロッド国の王族は残虐な性格になってしまった。これ以上非道なことをしだす前に王族を排除しようと考えている。他にも被害にあってきた国が協力を申し出ている。」
「戦争をするのですか?」
「ロッドの王族が抵抗すればそうなるだろう……フィーは聖女たちをどうしたい?」
「もちろん、あの子たちを助けたいです。きっと今もあの神殿で命を削っています。早く治癒力を使わないように教えてあげなければ」
「命を使った聖女のシステムは潰すつもりだ。彼らの強みは魔法による自分たちの戦闘能力と聖女の力だからな。そこで、もう一度ロッド国に潜入することを考えている」
「危険な行為ですね。……まさか、ヴィクタが引き受けるのですか?」
「国内を知る私が適任だからな。その方が聖女たちのこともフィーの意向に沿えるだろう。謁見の日程が決まり次第、フィーを連れて行く。きっとその話になるだろうから先に知らせておく」
「ロッド国に潜入するなんて。また釘を打たれたら……」
「そんなヘマはしないし、それについては対策済みだ」
「でも……」
「不安になったか?」
「当たり前です」
「では、抱きしめてやろう」
ずるい誤魔化し方だ、そう思いながらも私はヴィクタに抱き着いた。
「あらあら、まあまあ。とりあえず私は家に帰るわね」
アテナが私の頭をひと撫でして出て行った。
そうして数日後、レリア国に行くことになった。
私はその時からずっと考えていたことがあった。
「まだ細いけれど、少しはいい肉付きになったのではない?」
私のドレスの用意を手伝ってくれたアテナに言われて自分の胸元を見た。胸の谷間ができるなんてことが私の人生に起きるとは思っていなかった出来事である。ちょっと嬉しい。
レリア国に入ればエルフ専用のドム公爵の屋敷が用意してあるのでそちらに全てそろっているらしい。今日はこっちでドレスを着て謁見に行くが、後は数日屋敷に泊まるといいと言われた。
レリア国の街並みも見たことがないので嬉しい提案だった。屋敷まではワープポイントがあり、エルフの国からはすぐ着いた。そこから馬車を出して城へと向かった。
「きちんとしたドレスも似合っている」
「あ、ありがとうございます。ヴィクタも……すごく素敵」
「惚れ直したか?」
「はい……」
「っつ……」
自分で言ってきたくせに照れるヴィクタに私も照れてしまう。
馬車の窓から見える景色は綺麗に整備された清潔な街並みだった。
「綺麗な街並みですね」
「レリア国の建設物はエルフの知恵を借りているものが多いぞ。だから道の舗装も綺麗で馬車が滑らかだろう?」
「そう言えばあまり上下に揺れませんね。クワント国もそうでしたが、街を歩く人々が笑顔で国が豊かなことがよくわかります」
こうして比べてみればロッド国の貧しさが浮き彫りになる。
……違う、貧しいのは平民だけだ。貴族たちは贅沢に暮らしていた。
苦々しく思っていると馬車は城へと入って行った。




