第5話 5月1日 高橋優理(ゆり)と猫とお風呂(4)
「橋の欄干に上るのもそうだけど、俺を家に上げてそのまま一緒にお風呂に入るとか。男に免疫がないのか?」
家には二人だけ。俺だって一応男だし、本気を出したら高橋さんに止めることはできないだろう。
そもそも俺は高橋さんを傷付けるつもりはないし、もしそんなことをしたらあの先輩以下になってしまう。それだけは死んでもイヤだ。
「俺だからいいけどさあ、もし俺が悪い奴だったらどうするんだ?」
「にゃあああ! にゃあああ!」
そうだ、そうだ、と今度は激しく同意してくれたように感じる。
「こんなに無防備だから……あんな先輩と付き合ったりするのかな」
「にゃあ……」
あんな先輩、か。
ヒナ……俺を選んでいれば絶対に幸せにしてあげらたのに。どうしてあんな先輩を選ぶんだ。しかも、これは免疫がないという問題じゃない。俺と比べてあっちを選んだのだ。
そんな苦い感情を思い出した瞬間、
ガチャ。
ドアが開くと高橋さんが入ってきた。当然、タオルを巻いただけの姿で。
湯船に垂れためだろう、編み込んでいた髪の毛を束ねてまとめている。いつもと雰囲気が違って新鮮だ。可愛い。
それにモコモコしたタオルを巻いているのにスタイルの良さが分かる。胸も大きいし腰もくびれている。肌も白くて綺麗だ。
ガン見してしまったので、慌てて視線を逸らした。
「じゃあ俺は湯船に浸かるね」
「あ、あの……私も一緒にはいっていいですか? ちょ、ちょっと寒くなってしまって」
「えっ。う、うん全然大丈夫」
「よかった」
こうして俺たちは湯船に並んで入ることになった。
湯船は二人並んで入ると丁度良い広さだ。
だけど……あの高橋さんが俺の隣にいる。しかも、裸にタオルを巻いただけの姿で。
これで興奮しない男はいるのか? いやいない!
「温かいですね、西峰君」
「う、うん」
肩が触れ、肌と肌がくっつく。冷たかった高橋さんが次第に温かくなっていく。
必死に平静を装う俺。しかし、目に入る高橋さんの姿に俺は頭がクラクラした。
お湯に濡れたきめ細かい肌。タオルに包まれた胸の膨らみ。湯船に浸かった白い足。
変な気分になる前に、高橋さんに話しかける。
「そういえばさ、この黒猫どうしたの?」
「クロちゃんはね、私のお友達です。外を歩いていたときたまたま橋の下にいるのを見つけて、餌をあげながら一緒に遊んでいたんです。今日は急に走り出したから追っかけていたんです」
「そっか。でも、それなら飼ってしまえばいいんじゃない?」
「そうしたいです。最近、この辺りで猫をいじめる人がいるみたいですし。でも、両親に相談しにくくて」
沈黙が訪れると、改めて静かなのが分かる。
こんな広い家で一人、夜まで待つのは確かに寂しいだろう。
俺は風呂の縁に座っているクロを見る。
「そうなんだ……でもちゃんと言うべきだよ。クロもこの家に住みたいでしょ?」
「にゃあ!」
うんそうだよ、とクロが答えたような気がした。
「ほら、クロもそう言ってることだし。頑張って言わないと」
「……うん。そうですね。クロちゃんがそう言うなら、父にお願いしてみます! ありがとう、西峰君。まるでクロちゃんの気持ちが分かるみたい」
高橋さんがこっちを向いたので、俺も彼女の方を見た。
その顔は少し綻んでいて、嬉しそうに見える。
「ううん。なんとなく思うだけ。俺は何もしてないよ」
「そうですか? クロちゃんも西峰君に懐いているみたいですし。これからもクロちゃんの気持ちを教えて欲しいです」
「まあ、俺でよければ」
「にゃあん」
俺たちの様子に満足するようにクロが鳴き、高橋さんの首元を舐めた。
「キャッ……クロちゃん、くすぐったい……あんっ!」
笑いながらクロとじゃれる高橋さん。
上気した彼女の肌は艶があり、さらに視界の端に胸の膨らみが映る。
その上、タオルに覆われた先端の突起の形まで見えてしまった。あ、アレって……まさか……?
すごい状況だ。同級生の美少女が隣にいる。裸にタオル一枚だけという姿で同じお湯に浸かっている。パンツすら履いていない。
しかも、胸の谷間が見えるだけじゃなく、タオル越しにその先端が隆起してて——。
やばい。
俺は身体の中心が存在の主張を始めたことに気付く。
ムクムクとそれが起き上がっていく。意識すんなと思えば思うほど、力強くなっていく。
お願いだ。静まれ、鎮まれー、静まりたまへー。