第49話 5月6日 決戦の日(5)
優理の家からの帰り道で、スマホへの通知を確認する。
どうやら俺と優理が撮った動画は順調に炎上しているようだ。【花咲ゆたか】の顔もバッチリ映っているし、もう悪さはやりにくいだろう。
ただ、少し気になることがある。ショッピングモールで、中学生とやっていると話していたのは二人だった。
つまり、もう一人いるはずだが、そいつは今日の待ち合わせ場所に現れていない。
などと考えているとメッセージが二通来た。
一人は優理、一人はその友達の雪野さんだ。
優理は怒りのメッセージだった。どうやら、ネットを色々調べていたら猫の虐待動画を見つけてしまったらしい。
しかも、背景に見覚えがありこの近くだという。花咲ゆたかとは別のものだけど、動画の作りが似ているらしい。しかし、それ以上に、動画の内容に随分怒っているようだ。
そういえば、優理はクロを保護したとき、猫をいじめる人がいるようなことを話していたな。
「もう私信じられなくて泣いてしまいました。クロもいじめられていたかもしれないと思うと、悲しくなってしまいます」
メッセージに優理の気持ちが溢れているように感じる。
ふとタイムリープ前のことを思い出す。そういえば、タイムリープしたとき……つまり、最初川に俺が落ちたとき優理が何か言っていたな。誰もいなくなった、だっけ?
それってクロのことも含んでいたとしたら……?
考え過ぎだろうか?
俺は無理せずゆっくり休むように優理にメッセージを入れた。
さて、もう一つ気になるのは雪野さんだ。
メッセージを開く。
「たつやっ! 【花咲ゆたか】をやっつけてくれたんだって?」
「う、うん。でもどうしてそのこと知っているの?」
いつのまにか雪野さんの呼び方が西峰っちから「たつや」に変わっている。
以前から優理は、【花咲ゆたか】のことを雪野さんに聞いていたらしい。今回の炎上の話題になり、俺がやったと伝えたみたいだ。
優理が協力したことは言ってない。雪野さんが漏らすことはないだろうけど、もしそうなったとしても優理は関係ないということにしたい。
だから、もし誰かに話すときは、俺が一人でやったとうことにして欲しいと優理にお願いしていたのだ。
「すごく感謝してる。本当にありがとう、今話せる?」
どうして感謝されるか分からない。戸惑っていると、すぐ雪野さんから通話の通知があった。
これだから陽キャってやつは。
出ると、テンションの高い雪野さんがはしゃいでいる。
「っていうか、どうして俺に感謝してくれるの?」
「実はさ……私盗撮されてたかもしれなくて。【花咲ゆたか】に」
ん? どういうことだ?
「えっとね、優理には内緒にして欲しいんだけど……私たちのバスケ部の部室にカメラが仕掛けられていたみたいなの。置かれてからすぐ発見できたみたいで、一応被害はないのだけど……どういうわけか【花咲ゆたか】からメッセージアプリの方に連絡があって……その画像を止めるのに協力してやるって」
「うん???」
盗撮はまあ、そういうことをやるやつがいたってって話だ。でも、どうしてここで【花咲ゆたか】の名前が出てくるんだ?
中学生から写真を集めるだけじゃなく、盗撮もしていたのか?
ただ、雪野さんはメッセージがイタズラの可能性もあると思っていて、慎重に返事をしていたらしい。
「本物かどうかは分からないけど、今日、やりとりしていたアカウントが消えたの。アカウントを特定したってまとめサイトにも載ってて——そしたら、一致してたから」
【花咲ゆたか】による盗撮の話は、俺たちは把握していない。
雪野さんは心配させまいと優理に伝えていなかったとはいえ、俺たちだって一通り調べたのだ。
もしかしたら、盗撮は最近始めたんじゃないか? それこそ、ゴールデンウイークが始まる直前に。
須藤先輩とつながりがあったとしたら、こう考えられないだろうか?
優理の弱みを握れないから、仲がいい雪野さんを陥れようとして、そこから優理に何かしようとしていた、と。
タイムリープ前も盗撮の話は聞いたことがない。
もしかして、優理を守った結果、予想外のことが起きている?
「詳しいことを聞きたい」
「今から会って話す? 待ち合わせしても良いし、私の家ここだけど……任せる」
雪野さんが位置情報を送ってくれた。スマホで話しても良いけど、雪野さんは会って話したいそうだ。まあ、内容が内容だけに気持ちは分かる。
外が暗くなっているので、俺から雪野さんの家に出向くことにした。明日でも良いけど、のんびりしていられないと思った。
一駅隣の距離だ。今からでも問題無く行けるだろう。
「わかった。じゃあ、行くね」
「うん」
俺は自転車に乗って家を飛び出す。
★★★★★
雪野さんの家はやや大きいマンションの一室だった。
「お邪魔します」
「いらっしゃい、たつや」
「あれ? 誰もいないの?」
「うん。妹がいるんだけど、両親と一緒に親戚のところに行ったんだ。私は部活があるから行かなかったけど」
俺はそのまま雪野さんの部屋に案内された。部屋は綺麗に整頓されていて、いかにも女子らしい部屋だ。ぬいぐるみとかもあるし……壁に貼ってあるポスターはバスケの選手だろうか。
雪野さんとは優理と一緒に少し話をしたくらい。それだけの関係なのに部屋まで来てしまった。ちょっと落ち着かないな。
とはいえ、雪野さんがコミュニケーションお化けなのでグイグイ距離を詰めてくる。しかも、それに嫌味がないためすぐ仲良くなれそうだ。
雪野さんはポニーテールという髪型に、家ではタンクトップ一枚とジャージというかなりラフなカッコだ。
胸のボリュームもそこそこあるように見える。そんな雪野さんは正面に座ると思いきや、俺の隣に座った。
ふわっとヒナとも優理とも違う雪野さんの香りが漂ってきて鼻をくすぐる。でも、俺はそれどころではない。
「それで、詳しく聞かせて欲しいんだけど」
「あ、う、うんそうだったね。どこから話そうか……」
ざっくりと話を聞く。
俺が状況を変えたから入ってくる情報は貴重だ。
【花咲ゆたか】と一緒にいた、もう一人の男の動きと関係があるかもしれない。
——どうやら、ゴールデンウイークの直前に、女子バスケ部の部室で不審な鞄がロッカーの上に発見されたらしい。
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