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第43話 5月6日 決戦の日(1)

5月6日(土曜日)


 今日は決戦の日だ。

 【花咲ゆたか】。ソイツを誘き出し、顔を撮影。中学生を誘い、「教えてあげる」というキモいDMを晒す。

 もちろん未遂になるわけだけど、話題になればかつての被害者が見つかるかもしれないし、声を上げてくれる人もいるかもしれない。


 今日は成功を予感させるような快晴だ。空気は少し冷たいものの、外の空気はすがすがしく気持ちがいい。


「たつやさん! おはようございます」

「おはよう、優理」

「お待ちしていました」


 俺と優理(そしてゲストとして優理のお母さん)により作成されたネカマアカウント「真白」を使い、【花咲ゆたか】を呼び出した。


 場所は市街地の外れに流れる河川敷だ。

 俺と優理はその近くにある橋の下で待機する。少し遠い上に、ここから誰か覗いているとは思いもしないだろう。

 いざとなれば道路側に逃げることも可能だ。まあ、もっともそんな事態にはならないと思う。


 俺のスマホが震える。

 今は、待ち合わせ時間の30分ほど前だ。約束の時間まではまだかなりある。一体誰が? いや、一人しかいないか。

 俺はメッセージを確認する。予想通り【花咲ゆたか】からだ。


『こんにちは。もう着いている?』


 すぐに返信をする。


『はい、もう来ています』


 するとすぐに返事が来た。どうやら近くにいるらしい。


『もうちょっと待っててね。じゃあ、会ったらすぐ僕がよく行く所があるんだ。そこで撮影できるよ。だいたい予定通り着くと思う』

『ありがとうございます。楽しみです!』


 いよいよだ。否が応でも緊張してしまう。優理の方を見ると目が合った。

 彼女は俺のパーカーの裾をぎゅっと握ってくる。心細いのだろうか?


「優理、大丈夫?」

「は、はい……ドキドキしてきて緊張しています。たつやさんがいるので大丈夫だと思ってるのですが……すみません」


 蚊の鳴くような声で答える優理。

 優理は緊張しすぎているのか、身体が震えるようだ。

 俺たちは立ったまま、橋桁の陰に隠れている。


「あ、あの……たつやさん。もし良かったら……手を握って貰っても良いですか?」

「えっ、う、うん。いいよ」


 動揺しつつも、俺は差し出された優理の手のひらを握った。細くしなやかな、白い指先を包む

 結構湿っている。優理の汗なのだろう。もちろん全然イヤだとは思わない。


「手汗、すごくないですか?」

「緊張しているんだね。全然平気だよ」

「恥ずかしいです……。その、イヤだったら全然離してもらっても大丈夫ですから」


 そうやって、いつも優理は相手の気分を害さないように気を遣ってきたのだろう。

 でも、今は離されたくないのか、ぎゅっと握ってくる。

 俺は意思表明をするために、指を交互に絡めていく。


「あっ……た、たつやさん……これって……恋人繋ぎ——」

「うん」


 そう聞くと、安心したのか、ほっとした表情を見せる優理。口元がほころび安心したみたいだ。


「いいえ。離さないでいてもらえると嬉しいです」

 そう言って、ぎゅっと握り返してくる彼女の手は、今度は震えていなかった。

 汗も止まったみたいで、落ち着いてきたみたいだ。次第に優理の手が温かくなってくる。


「大丈夫そう?」

「はい。温かい……でも、ドキドキするのは変わらないみたいです」


 ん? ただ繋いでいるだけでなく、手のひらの感触を確かめるように指を絡めるように動かす優理。


 あまり俺はこういう繋ぎ方の経験は多くない……でも昨日の晩、ヒナと身体を重ねるとき自然に両手で恋人繋ぎをしていたため、今こうやっていても余裕がある。

 落ち着いていられる。

 

 優理がしてきたのと同じように、俺も指に刺激を与えるように動かす。


「んっ……あっ……」


 優理の口から、少し高い声が漏れた。


「どうした? 優理」


 慌てて、空いている方の手で口を塞ぐ優理。顔が赤くなっている。


「ご、ごめんなさい。変な声が……どうしてなのでしょう」

「……気持ちいいから?」

「は、はい。確かに繋いでいる手が、とても気持ちいい……です」


 そう言ってうつむく優理は耳の先まで赤くなっていた。他人から与えられる肌の刺激に慣れていないみたいだ。

 初めての感覚に、戸惑いながら受け入れていて、しかも好奇心がある。結構優理って知識や経験がない割に、えっちに興味があるのかな?

 そういえば、俺たちがお風呂に一緒に入ったときからそんなだったような。


 俺の心の余裕がありすぎるのか、余計なことを考えてしまった。

 こんな時に、随分のんびりしたものだ。リラックスしている。


 俺は意識を今の状況に戻す。そろそろ動きがあるかもしれない。

 頭がフル回転を始めるのを感じる。


「アイツが近くまで来ているかもしれない。メッセージで聞いてみるよ」


 そう言って、うっとりした顔になっている優理に告げる。


「そ、そうですね」


 優理はハッと我に戻ったようだ。背筋を伸ばし、俺のスマホを覗いてきた。


『花咲さん、今、どの辺りですか?』

『今河川敷の近くまで来たよ。土手沿いに歩いている。真白ちゃんはどこかな?』


 見えた。ついに接触だ。

 少し遠いが、前もって聞いていた風貌に似ている男が一人、土手の道路上を歩いてこっちに向かっている。

 あいつが【花咲ゆたか】か。思ったよりひょろひょろだ。


 まったく疑う様子もない。

 俺は勝利を確信する。



お読みいただき、本当にありがとうございます!


【作者からのお願い】


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[気になる点] 「昨日須藤先輩が落としたスマホ」とありますけど前の話に描写ありました? 見落としていたらすみません。
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