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第41話 5月5日 対決(8)

「なあ、ヒナ、あいつは何をしてくるか分からないんだよ。何かあればすぐ俺に相談して欲しい」

「分かった」

「相談してくれないと俺も気付けないからな? だから、必ずたのむ」

「……うん。今日だってタツヤに言ったから来てくれたんだもんね。でも……弱みって何だろう?」


 ふと、タイムリープ前を思い出す。

 告白して付き合いたてで、でもそれっぽいことはほとんどして無くて。


「もし告白して付き合ってて、でも何もしてなかったとするよ? そんな時、例えば、ヒナがアイツに何かされたとしたら? 俺に黙っておいて欲しければ従えとか言われたら、ヒナはどうする?」


 寝取られものというジャンルがあって、俺がたまたま読んでしまったそれと似たようなシチュエーションだ。

 関係を持って、それを彼氏にバラされたくなければ——ってやつ。


 もっとも、途中で脳が破壊されそうになったから、その先は読まなかったが……読んでいれば耐性がついたのだろうか?

 ヒナはむーっと眉を寄せて考えて言った。


「そんなの……もしそうなったら、隠していたかも……言えないよ。自分だけが我慢すれば良いって、そう思っちゃうかも」


 そうだよなあ。

 言おうと思っても、嫌われるかもと考えて躊躇するかもしれない。

 誰もが強い意思でいられるとは限らない。正論なんて無意味だ。


「でもね、今は違うよ? だって……タツヤに恥ずかしいところ全部見られて……もう何も隠すことないもん!」


 嫌なことを思い出す様子もなく、ヒナは屈託のない笑顔で言った。

 俺の方が恥ずかしいと感じるくらいに、ヒナは堂々としている。


「それにね、タツヤからいろいろ貰ったし——」


 な、なんのことだろう?

 まあ、須藤先輩に対しても、言い返すほどだったし。もうヒナは大丈夫だろう。


 もう、完全にあの嫌な映像の記憶は、上書きされたのだ。

 そう思えるほど清々しい笑顔だった。


 ★★★★★


「じゃあ、またな、ヒナ」


 ヒナの家の前まで送って、帰ろうとしたのだが……。


「タツヤ君、久しぶりじゃない。今日、晩ご飯食べていく?」


 ヒナのお母さんだ。

 俺たちの声を聞いて、家の中から出てきたみたいだ。

 ヒナのお姉さんに見えるくらいに若々しい。


「え、えと……その」

「遠慮しなくてもいいのに。色々聞いているよぉ?」

「も、もう、お母さん!」


 ヒナは真っ赤な顔をしてツッコミを入れている。

 なんだか、妙な圧を感じた。


「じゃ、じゃあいただきます」


 結局断り切れず、ヒナと一緒に食事をとることになった。お父さんは仕事らしい。とはいえ、もう少ししたら帰ってくるそうだ。

 それにしても、相変わらず美味しい料理だ。すうっと身体に染み入るというか安心する。


「タツヤくん、お風呂沸いてるから入ってきなさいな。服は洗っておくからお父さんの着ちゃって」


 え。もしやこの流れは——。

 ここで帰っても不自然だし。と思う間もなく、ヒナのお母さんにほぼ強制的に風呂場に連れて行かれる俺。


 うーん、やけに強引のような、前からこんな感じだったような。

 俺は流されるように風呂に入る。


 タイルの一つ一つを見ていると、ヒナと一緒によく一緒に風呂に入ったなあと小学生の頃を思い出す。

 あの時は、無邪気にお互いに気兼ねなく遊んでいたな。


「ふうっー」


 湯船に浸かると思わず声が出た。リラックスできるし疲れが取れていく気がする。今日は色々あったからな。っていうか、タイムリープしてから色々ありすぎた。

 優理とも、そしてヒナとも。


 ガチャ。


 浴室のドアが開く。そこにいたのは、一糸纏わぬ姿のヒナがいた。

 そして、何食わぬ顔で入ってきて、身体を洗い始める。


「おい、ヒナ?」

「前よく一緒に入ったよね。でも、高校生になって再会してからは全然だったけど。久しぶりだよね」

「まあ、そりゃね。子供じゃないわけだし……ってかどうしてヒナ普通にしてるの? 恥ずかしくない?」


 目の前にどーんと広がるヒナの姿に圧倒される俺。


「大人になったねぇ……私も、タツヤも」


 一通り身体を洗い終わると、立ち上がるヒナ。顔を赤らめて、少し恥ずかしそうな素振りを見せるけど、意図して隠さないようにしているみたいだ。

 無邪気なあの頃のように。


 でも、その身体つきは大人の女性のものだ。

 ラブホテルの時は、無我夢中でハッキリ全身を見る事は無かったけど、改めて見るとやはり大きい胸にくびれた腰、スタイル抜群の身体だ。

 俺の隣に座るヒナ。


 お互い、タオルも何も巻かずに湯船に浸かっている。お互いの色づいたところとか形とか全て丸見えだ。

 まあ、当然俺の身体は黙っておらず……ああ、本当に節操ないこの身体が恨めしい。


「ねえ、タツヤ……今日も甘えていい?」


 そういって俺に寄りかかるヒナ。肌の感触がダイレクトに伝わるし、胸の感触やお腹の柔らかさが伝わってくるし、何より肌が触れ合うのが気持ち良い。


「そ、それはともかくとして、のぼせる前に上がらない?」

「くすっ。うん。そうだね」


 必死に欲望と戦っているのがバレたのだろうか。ヒナが俺の顔を見て笑う。

 だってしょがないじゃん。言い訳はしないけど、生理現象は抑えられないよ。


 当然というか、なんというか。

 泊まる流れになってしまい俺は逆らえない。


 あれか? 園田家は、俺の精神力を試しているのか?

 家族総出で俺を泊まらせようとしているのは気のせいだろうか?


 いや、そんなわけないよな。多分、普通に娘と仲良くしてくれて嬉しい的な感じなのだろうな。

 俺のことは、ヒナのご両親も熟知している。


「じゃあ、二人ともゆっくりね」

「は、はい……」


 俺は布団の敷かれたヒナの部屋に寝ることになった。

 前はよく立ち入った部屋。慣れ親しんだ匂い。


 昼間は優理の部屋で。今はヒナの部屋で。

 節操なさ過ぎだろ……俺。




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