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第40話 5月5日 対決(7)

 優理の家を後にし、家に向かって歩いていると、不意にスマホが振動する。

 見ると、メッセージが届いていて、差出人はヒナだった。


 ん? 何だ?


 俺は不審に思いつつも、メッセージを開き、その内容を見て目を見開いた。


『今、須藤先輩に声をかけられてる。無視して歩いてもついてくるから怖くて。今駅の方から帰ってる』


 今日はタイムリープ前だと俺がヒナに告白した翌日。

 そういえば、この日からヒナから避けられるようになって会わなくなり、そして、寝取られた。

 もしかしたら、須藤先輩は今日ヒナに話しかけ、何らかの関係を持ったのかもしれない。


 タイムリープ前は、助けて欲しいというようなメッセージは来なかった。

 しかし、今のヒナは俺に助けを求めてくれている……!


「くそッ!」


 俺は走り出す。駅からのルートは良く知っている。俺はそのルートをたどるように走り始めた。


 ★★★★★


「はぁ……はぁ……」


 全力で走ったせいで息が上がる。


「あ……タツヤッ!」


 みると、私服姿のヒナがいた。今日は比較的露出の少ないブラウスにデニムパンツ姿だが、やはりスタイルが良いせいか、モデルのような着こなしをしている。

 ぱっと見たところ何かされた様子もない。ああ、無事で良かった……!


「ごめん、遅くなった」

「ううん、早いよ。嬉しい。本当に来てくれた」


 嬉しそうにはにかむヒナは、そのまま俺の胸に抱きついてくる。

 周囲には人通りがあるけど気にしない様子だ。

 そんな俺たちを見て、悪態をつく男が一人。


「チッ」


 舌打ちをして俺を睨む男は間違いなく須藤先輩だ。ヒナは俺の胸から離れて男の方を見る。

 その時、須藤先輩が俺の胸ぐらを掴んだ。

 殴られる! と思ったが、だったら好都合だ。多少俺は痛い思いをするだろうが、仮令(たとい)一発だろうが暴力に違いない。


「ああ?」


 俺は敢えて抵抗しなかったが、それは須藤先輩にとって予想外だったようだ。バランスを崩し、俺は仰向けに倒れ、須藤先輩が俺に引っ張られる形になった。

 幸か不幸か須藤先輩は俺の隣に倒れる。


「ケッ。何だよお前……」


 悪態をつきながら須藤先輩は立ち上がった。俺も立ち上がる。


「タツヤ、大丈夫?」


 ヒナが慌てて駆け寄ってくる。


「ああ、大丈夫だ。なんともない……なあ、ヒナ、何があった?」


 小声で聞くと、ヒナは険しい顔で答える。とはいえ、先ほどまでの悲壮感はない。

 顔を上げ、須藤先輩に睨むような強い視線を向けるほどだ。


「急に声をかけられて、面白いもの見せてやるからついてきてって言われて……」


 面白いもの、か。何だ? タイムリープ前と変わったのだろうか? それとも……?

 俺は須藤先輩を見つめた。ぱんぱんと埃を払い俺の方を睨んで言い放った。


「お前らさあ、どういう関係?」


 こんな不躾な質問に付き合う必要は無いのだが、毅然とした態度でヒナが答える。


「幼馴染みですけど?」

「それだけか? 付き合ってるわけじゃないのか?」

「だったら?」


 今度は俺が答えた。俺たちは付き合ってはいない。

 タイムリープ前と大きく違う点だ。


「へっ。じゃあ、俺がその女をいただいても文句なしだな。いいねぇ幼馴染み。いつの間にか他の男のものになっていましたとか、よくある話じゃないか」

「誰があなたなんかと……絶対いや」


 心底嫌そうに言い返すヒナ。


「いいねえ。落としがいがあるじゃないか。しかもここまでの上玉で手を付けてない女がまだいたとはな」

「先輩、ヒナの弱みか何か握っているんですか?」


 敢えて、俺は話に乗らずツッコんでみる。もしタイムリープ前のヒナのとった行動の理由が弱みによるものだとしたら、この時点で何か心当たりがあるはずだ。


「チッ」


 その反応は劇的だった。顔をしかめ俺から視線を外す。恐らく、弱みを握ろうとしていたのは間違い無いのだろう。しかし、この様子では現時点では掴んでない。


 恐らく、この【イベント】はタイムリープ前でも発生していた。

 しかも、須藤先輩はヒナの何らかの弱みを握っていたのだ。


 ……しかし、今はそれが消滅した。

 現時点で、俺の勝ちだ。


「せいぜい今のうち楽しんでおけよ」


 須藤先輩は顔をしかめたまま、捨て台詞を吐いて踵を返し歩き始めた。

 今後も気を抜けないものの、とりあえず危機は回避したし、少なくともアイツの思い通りにはなっていない。


「大丈夫だったか?」

「……うん。ありがとうタツヤッ!」


 俺にぎゅっと寄りかかるヒナはとても嬉しそうだ。可愛いし俺も抱き返したくなるんだけど——ぐっと我慢する。


「帰ろうか」

「……うん……でも、もう一人で大丈夫だから」

「家まで送っていくよ」

「……え……うん」


 遠慮をしようとしているヒナに有無を言わさない口調で告げる。

 当たり前だ。怖い思いをしたのだ。ここからそれほど離れていないとはいえ、一人で帰すなんてあり得ない。

 心のケアもいると思う。


 そして何より、油断してはいけない。

 今日いっぱい、この【イベント】が再発する可能性があると、俺は考えていた。


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