第4話 5月1日 高橋優理(ゆり)と猫とお風呂(3)
「西峰君、ここが私の家です」
高橋さんに案内されたのは立派な門構えの一軒家だった。豪邸というわけではないが、普通の家庭で育った俺には十分大きいと感じるものだ。
彼女の両親は共働きのうえ忙しいらしく夜遅くになったり、そもそも帰らないこともあるのだとか。
こんな大きさの家に夜まで一人いると、寂しさが募りそうだ。
案内された入り口から入ると、すぐ脱衣場に繋がっていた。
「濡れた服はこのカゴに入れておいて下さい。洗っておきますね。タオルはこれ使ってください。着替えはここに置いておきます」
そう言って、高橋さんは脱衣所を出て行った。
手渡されたタオルを持って風呂場に入ると、そこには大きな浴槽がある。
しゃわぁぁ……と身体を流し始めると、ガリガリと風呂場のドアを引っかく音がする。どうやらさっきの黒猫だ。
ドアを開けるとスッと入ってくる。
「風呂入りたいの?」
「にゃあ!」
すり寄ってきたので、撫でようと手を伸ばした。撫でても逃げようとせず、俺の手のひらの感触を味わうようにスリスリと頬ずりをしている。
「身体洗うか?」
猫は水が苦手って言うけど大丈夫か? と思いながらお湯をかけると気持ちよさそうに目を細めている。
猫って可愛いな。飼ったことが無いけど。
俺もシャワーを浴びつつ身体を洗う。お湯が温かくて気持ちいい。
「お前さ、風呂好きなの? 猫は風呂嫌いと聞いたような気がするけど」
そう話しかけた時、ドアの向こうから声が聞こえた。高橋さんだ。
「……西峰く……猫……」
「ん? なんて?」
声が聞こえにくいので、俺は風呂場のドアをガラッと開けた。
「高橋さん、もう一度言ってくれないかな?」
「西峰君……あっ!!」
突然高橋さんが両手で顔を覆う。ん?
よく見ると、高橋さんの顔を覆う指と指の隙間から瞳が見えた。その視線の先には……俺の股間がある。
まるで鋭い針のような視線が俺の大事なところに突き刺さっていた。
「あっ! ごめん!」
俺はドアを半分閉じて顔だけ出す。
いかん。妹もいるし、前は風呂に一緒に入っていたわけで……女子であろうと裸を見られることに抵抗を感じなかった。そのため、どやあと思い切り見せた感じになってしまった。
これは——逆ラッキースケベ。俺は嬉しくないけど。
でもさ、俺も油断したけどさ、高橋さん顔を隠しつつもしっかり見てなかった?
とはいえ、耳の先まで真っ赤になった高橋さんも可愛いかった。
「あ、あのね、クロちゃんの姿が見えなくて、もしかしてここにいるのかなって思ったの」
クロちゃんってのはこの猫のことだな。
「ああ、今一緒にシャワー浴びてるよ」
「よかった。あの……えっと……じゃ、じゃあ西峰君はゆっくり暖まってください……くしゅん!」
高橋さんが可愛いくしゃみをした。よく見ると、寒そうにして少し震えている。
川の岸でびしょ濡れの俺を拭いたとき、高橋さんの服も濡れてしまっていた。
俺のためにお湯を溜めてくれたり準備をしたので彼女はまだ着替えていない。濡れたブラウスで体が冷えてしまったのかもしれない。
「俺上がるからさ、高橋さん入りな。風邪引くよ」
「そ、そんな……悪いです。西峰君まだ入ったばかりなのに」
確かにシャワーを軽く浴びただけだ。できれば湯船に浸かりたいけど高橋さん風邪引いちゃうよな。
うーむ。断られるだろうけど試しに言ってみるか。
「ねえ、高橋さん。一緒に入るってのはどう?」
冗談っぽく言うと、彼女がビクッと震えた気がした。そして、ゆっくりと手を顔から離すと上目遣いで俺を見る。その瞳は少し潤んでいた。
「はい……そうして貰えると助かります」
えっ?
俺は一瞬耳を疑ったけど、間違い無い。高橋さんは一緒に入ると言った。
とはいえ、お互いに裸になるのはいくらなんでも無理だろう。
実際、高橋さんは服を脱ごうとしているものの躊躇している。まあ、当たり前か。
「タオルを身体に巻いていれば少しは恥ずかしくないかも。俺も巻くから、一枚取って貰えるといいな」
「そうですね。私も今タオル巻けば良いかなって思いました。水着みたいなものですし」
そうか? とも思ったけど高橋さんは俺にタオルを渡してくれた。
腰を巻くのに十分な大きさだ。ドアを閉めてから俺はそれを腰に巻きつつ、髪の毛を洗う。
そして、ざああとお湯でシャンプーを流し始めて、俺はなんとなく黒猫に話しかけた。
「なあ、クロ。お前が時を戻してくれたのか?」
「にゃあ?」
はあ? と答えたような気がした。まあ、そんなわけないよなあ。
俺は話題を変える。
「高橋さんチョロいって言うか……危なっかしくないか?」
「にゃあ」
同意してくれたのかな?
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