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第34話 5月5日 対決(2)

 優理はそわそわしなが待っている。なんだか——。


「楽しい?」


 すると、優理はちょっと恥ずかしそうに言った。


「はい、すごくワクワクします。たつやさんとちょっと悪いことしているのが新鮮です」


 と微笑む優理。すぐにピコンとスマホが鳴った。


「あっ、返信来ましたよ!」


 返信を開く。


『いいねえ、スタイルもいいね。モテるでしょ、彼氏もいるんじゃない?』


 はーあ。俺は溜息をつきならが優理と返信を考える。

 どうやら【花咲ゆたか】はノリノリらしい。返信が早い。俺と優理のネカマに完全に食いついたのだ。

 返信を作り送信する。


『いいえ、誰とも付き合ったことありません。花咲さんは彼女さんいらっしゃらないんですか?』

『意外! 僕は今フリーだよ。ってことは、処女?』


 はーあ。コイツさあ、マジかよ。大学生だったはずだけど、高校生の俺が見ても頭悪そうに見える。

 どうみてもヤリ目だ。

 でもこれで、中学生を騙してきたんだろうな。高校生ならひっかからないかもだけど。


 そう思いながら隣の優理を見る。いたわ、高校生でもだ引っかかりそうな子が。

 父親の影響とはいえ。


 これまでと同じように、優理は顔を真っ赤に染めながら俺の文章を直してくれた。

 どうやら優理のことをそのまま答えるだけで、このネカマ女子中学生「真白」のキャラクターが完成する。


『はい、処女です。キスもしたことがありません。恥ずかしいです』


 送信して一息つく。


「優理さ、こんなん真面目に答えたら男は勘違いしちゃうよ。処女って言っちゃうとか」

「え、そうなんですか?」

「うん。初々しいし、チョロそうだなーって、ちょっと気があるように見える。もし誰かと、特に男とメッセージするなら塩対応した方がいいよ」

「そうなんですね。気をつけます……たつやさんに返信するつもりだとそうなってて。ちなみに……たつやさんは……その」


 何か言いかけてもじもじする優理。


「どうしたの?」

「あ、あの……経験……あるのですか? キスとか……その」


 うっ。昨日最後までしました……って言うべき?

 でもな。こういうので嘘つくのもヤだな。


「うん、一応」


 そういうと、複雑な表情が見えた。むーと唸リながら、優理は口を開く。


「え、えと……その、え、えっち……もですか?」

「うん」

「う……すごいですね。さすが、たつやさん……です。むぅぅ」


 なんだか、ちょっと頬を膨らませているような。気のせいか?

 さすが、というのもよく分からない。


 でも、その表情から一転、何か吹っ切るように顔をあげ、俺を見つめる優理。

 心なしか瞳がキラキラしている。


「ということは、大人のたつやさんに色々教えてもらうことも出来るんですね?」


 何を!?

 って、やっぱキスとか、その先の話だよなぁ。でも大人って何だ?


「ねえ優理。それさ、誰でもいいの?」


 そういうと、優理は再びぷくっと頬を膨らます。


「いいわけありません……たつやさんだからです」


 そっか。ならいいか——って良くない。


「そういうの、あまり言わない方がいいよ? 誰に対しても」

「は、はい……。ごめんなさい」


 これは時間をかけて再教育が必要だな。

 などと思っていると、返信が来た。


『じゃあ、僕が真白ちゃんに色々教えてあげるよ。気持ちいいキスや、その先も』


 優理はこれを見て、うっ、と声を漏らした。


「なんだかイヤです」

「でしょ?」

「はぃぃ」


 よし。これで妙なことはもう言わないだろう。

 だいたい、頼まれたってダメだよな。ヒナとエッチしておいて、優理ともするなんて。

 全部終わってから、ヒナとの関係を改めて考えてからならともかく。


 でも……もし……。

 俺の心にチクッとした痛みが走る。

 もし、ヒナの時のように、優理と最後までしないと不幸を回避できないとしたら……?

 その時、俺は優理を——。


 考えても仕方ないか。そういう状態になるとは限らない。そうならないようにすればいいよな。

 さて、考えるのは程々にして目の間の問題だ。


「今度は優理が返信全部考えてみようか?」

「は、はい、がんばります」


 優理は真剣な表情で返信文章を作る。優理の渾身の作品がこれだ。


『はい。経験は、ありません。キスもしたことがないのでよく分からなくて。色々教えてください。お願いします』


 なかなかの力作だと思う。もし実在の子がこんなこと言ってきたら、ノってしまう男は多いかもしれない。

 しかも、とんでもない美人だったり可愛かったりする子からのメッセージだ。


 もちろん、こんなに都合よい、チョロすぎる女の子は存在しない。

 残念だったな。【花咲ゆたか】。



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