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第32話 5月4日 幼馴染み(7)

 俺は、ヒナの家まで送っていった。

 いつもはしないけど、ヒナも離してくれなくて、俺もなんとなく離れたくなくて、そうなった。


「ヒナ、身体の方大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。思ったより平気。タツヤが優しくしてくれたから」


 一言一言が、嬉しそうに声が弾んでいる。

 俺は申し訳なさそうに聞く。


「でも、こうなったからには、やっぱちゃんと付き合った方がいいのかなって。それに、さっき話した映像でね、俺今日ヒナに告白してるんだ」

「……あっ……」


 何かハッとしたような表情をするヒナ。俺は続ける。


「だから、俺と、付き合って——」


 ほとんど衝動的に「付き合って欲しい」そう言おうとしたところで俺の口を、ヒナの唇が塞ぐ。

 むぐむぐとなって俺の言葉が続かない。

 俺が言おうとすることを諦めると、ヒナは唇を離し微笑んだ。


「ダメだよ? だって、私と付き合ったのが原因で、タツヤや千照ちゃんや、高橋さんがつらい目に遭ったとしたら?」

「え……?」


 確かに、その可能性はあるかもしれない。

 今、色々とタイムリープ前と変わってきている。慎重に考えないといけない。

 っていうか、心配する対象が「タツヤや千照ちゃんや高橋さん」になっている。ヒナは自分自身を入れていないのか。


「だからね、そういうことは全部解決したら、それから考えたらいいんじゃないかな?」


 確かにそうだ。

 時間がまき戻る現象が無限に起きるかというと、違うような気がする。

 そして、こんなことを言うヒナは完全に俺のことを信じている。未来を体験したなどという馬鹿げたことに少しも疑問を抱いていない。


「でも、それじゃヒナと最後までしておきながら付き合わないって、なんか俺がヤな感じになるように感じて」

「ふふーん。それはお互い様だし、私が襲ったようなものだから」


 ヒナはそう言って、ニヤリとした。

 普通の子なら、嫌味に見えるかもしれない。でも、ヒナはそんな表情すら可愛い。


「私はね、他の女の子より強いカードを持ってるって知ってる?」

「ん? 何?」


 あれか、可愛いとか? でもヒナはそのことを鼻にかけたりしない。


「幼馴染みってこと」


 それってカードになるのか? まあでも……いつでも気兼ねなく敢えて話せて互いのことを知っているというのは強いかもしれない。


「ね、タツヤ。今日ね……タツヤに断られたら、泣いちゃっただろうし、絶望してたかもしれない。生きるのがイヤになったかも」

「えっ、そんなに?」

「うん。でもね、もう今はね……あのイヤな、好きでもない人にされちゃうっていう映像の記憶も薄れてきてて、二度と見ない気がする。だからね、タツヤは私を助けてくれたの」


 そういって俺を見つめるヒナ。瞳は潤んでいるけど、花が咲き誇るように微笑みが絶えない。


「だから、ぜーんぜん気にする必要ないの。それにねぇ——」

「それに?」

「私の中に温かいのを感じたのを思い出すとドキドキするし、タツヤのあの時の顔を思い出すだけで、ニヤけちゃうし」


 言葉どおり、ニヤけるヒナ。俺は猛烈に恥ずかしくなった。


「うう、恥ずかしいな」

「だって、すごく気持ちよさそうだったもん。嬉しかった。本当にタツヤと幼馴染みでよかった」


 そう言ってぎゅっと組んでいる腕に力を込めるヒナ。

 俺たちは終始笑顔で、ヒナの家に続く道を歩いて行く。


 ☆☆☆☆☆☆


 家に帰るとヒナからメッセージが届いた。


『家に帰った? 今日はありがとうね。何かあったら相談するから』


 俺はうん、と返事をする。

 これで少しは安心だけど自分を犠牲にしそうな危うさはあるような気がする。

 優理(ゆり)千照(ちあき)、ヒナ。全員を救おうというのは欲張りなんだろうか?


「ただいまあ」


 玄関から上がると、夕ご飯の良い匂いがする。

 千照がとてててと小走りにやってきた。そして、おもむろに俺の胸に鼻を付けて匂いを嗅ぐ。


「おかえり、おにいちゃん。また家のとと違う匂いがする。今日ヒナちゃんと遊んでたんだよね? もしかして、ヤった?」


 ズバッと直球を投げてくる千照。しかもニヤニヤしている。


「い、いや、なんていうか……」


 と、誤魔化したところで、ヒナと千照は繋がっている。どうせすぐバレるだろう。

 いやむしろ、既に伝わっていて俺の反応を楽しんでいるだけかもしれない。


「はいはい、そうですよ」


 開き直ると、千照は目をパチクリさせた。


「ええええええ! どど、どうだった? 痛かった? 血が出た?」


 なぜか興味津々の様子で聞いてくる。しかも、痛かったって聞いてくるのはヒナがどうだったか、ということだろう。


「ヒナに聞け」

「えー。お兄ちゃんはどうだったの?」


 瞳をキラキラさせて訊いてくる千照。完全に興味本位だな。

 中学生の千照にこういうことを言うのはどうなんだろう? とはいえ、同じ質問をすぐヒナに言うんだろうな。


「……守らないといけないと思った」


 それだけで、続きを言う気にならなかった。

 ヒナの体はとても柔らかくて、温かくて。俺を包んでくれるような——。

 でもそんなことを具体的に妹に話すなんてできないし、そんな気にならなかった。


「そっかぁ」


 そう言って頬を染める千照。なんでお前が恥ずかしがるんだ。


「ってことはヒナちゃんと付き合うの?」

「いや、付き合わない」

「そか。うん……分かった」


 あっさりと引く千照。俺の言いにくさを何か察したのかもしれない。


 こうやって話してみても、今日の千照には、まだ何事も起きていなさそうだ。

 しかし、もし「敵」がいるのであれば、そろそろ動き出しそうな予感があった。


 ★★★★★


 夕食を食べてくつろいでいると、俺のスマホが振動する。


「たつやさん、こんばんは。あの、youtuberの【花咲ゆたか】に送る写真なんですけど、これはどうでしょう?」


 一枚の写真が添付してある。

 忘れかけてたけど、【花咲ゆたか】からネカマアカウントに写真を求められていたんだっけ。


 そうだ。

 千照と繋がろうとしているコイツを、まずは調べなくてはいけない。


 写真を開くと、中学生くらいの美少女が映っている。優理と似ているけど違うな……誰?



【作者からのお願い】


この小説を読んで


「面白い」


「続きが気になる!」


「この先どうなるの!?」


と少しでも思ったら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してもらえると嬉しいです!


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