第31話 5月4日 幼馴染み(6)
ヒナは身体を起こして、俺の頭を撫でてから優しく抱き締めてくれた。
柔らかく、温かい感触とヒナの香りがした。
「つらかったね。信じるよ」
「ヒナ……」
ヒナの言葉で随分救われたような気がする。
同時に、ヒナもしっかり守らないといけないと感じる。俺はもっとツッコんで話すことにした。避けては通れない。
「実は、ヒナをね、須藤先輩に寝取られるんだ」
「……うぅ……私が映像で見たのと一緒なのかな。私がタツヤじゃなくて須藤先輩を選ぶなんて考えられない……でも、タツヤを傷付けたんだよね……ひどいよね……ごめんね……」
ヒナの瞳が潤む。
違う。こんな思いをさせるために言ったんじゃない。
「ううん。それは結局違ったんだと思う。何か理由があったんだ。だから、ヒナは悪くない。その後、多分ヒナは妊娠したんだと思う。転校しちゃうんだ」
「…………ヤだよ……そんな……」
こんどは俺ヒナの頭を撫でる。
すると、目を細め嬉しそうに口元が緩んだ。
「何か事情があって、そうなったんだ。俺は何があったのか知りたい。多分、千照が悲しむことと関係がある」
それに、くわえ優理も悲しむ可能性がある。だからこそ……俺はやり遂げないといけない。
ヒナは顔を上げた。
「千照ちゃん、やっぱりそうなんだね。でも私には分からない」
「今は分からないかもしれない。何か分かったら教えて欲しい。多分、俺がそれを知らなかったから、ヒナも、千照も悲しむことになったんだと思う」
「わかった。話してくれてありがとう、タツヤ」
「ヒナも信じてくれてありがとうな」
「たぶんだけど……最後までして……タツヤのこと色々知れたから信じられたのかも。嘘を言っていないって感じるの。お互いの鼓動を感じて、温もりを感じて、恥ずかしいところを見せ合って」
そういうと、また頬をそめて俺の胸に顔をうずめるヒナ。
俺たちはぎゅっと互いに力を込めて抱き合う。もうそれだけで気持ちがいい。
このままこうしていたいと思っていると、ふと、ヒナが何かに気付いたようで口を開いた。
「でね、そろそろ出なきゃいけないような気がする」
「た、確かに」
時計を見るともう夕方だ。さすがに出ないと延長料金とかかかりそう。
ヒナが先に起き上がり、遅れて俺も起き上がる。
裸のままなので少し寒い。ヒナが布団の下の方にあるバスタオルを手繰り寄せて体に巻いていた。
さっきまで裸同士で抱き合っていたのに今は恥ずかしがっていた。
視線に気付くと、ヒナが俺の股間を見ている。
「うーん」
「どうしたの?」
「さっきまであんなに凶悪で大きかったのに、今はちいさくて可愛い」
「可愛い……?」
そんな会話をしながらも俺たちは今度は一緒にシャワーを浴びる。
相変わらずヒナは恥ずかしそうにしていたけど、お互いに身体を洗いっこしたりして楽しい時間だった。体はもう大人になりつつあるのに子供の頃を思い出した。
もう時間もなくなったので急いで着替えてホテルを出ることにする。
出ると、さっきラブホに入るときにいたリア充の男女がいた。ケンカをしているのか、険悪な雰囲気だ。一方俺たちは、ヒナが入るときより密着してきている。
「チッ……あんな可愛い子と……やりやがって……」
ヒナの様子を見てなのか、心底つまらなそうな男のつぶやきが聞こえる。女の子と来ておきながら、何言っているんだか。そんなんだから、険悪な感じになるんだろう?
俺たちは素知らぬ顔で二人の横を通り過ぎる。男よ、ヒナを見過ぎだ。
確かに見た目も可愛いと思うのだけど、幼馴染みで一緒にいて、俺にはわかることがある。ヒナの本当の可愛いところは性格や心だ。
俺たちは寄り添ったまま、駅に向かうのだった。
「タツヤ、私と千照ちゃんの他に……高橋さんも何かあるの?」
なにか吹っ切れたのか、ヒナが聞いてきた。
俺も隠さずに話すことにする。
「うん。優理も、須藤先輩のせいで酷い目に遭う」
「そっか。最近一生懸命に見えたの……そうだったんだね。じゃあ、高橋さんも、千照ちゃんも頑張って守らないとね。私も協力する」
「いや、ヒナも守るよ」
「私はね、もう助けて貰ったからっ」
そう言って、ぎゅっと組んでいる腕に力を込めるヒナ。
もうヒナに怖れの感情は感じられない。だけど——。
「ううん。まだ何かある。だから、ヒナも危ない目に遭うかも知れないことを忘れないで。絶対守るから」
「……もう。そんなこと言ったら……もっと好きになっちゃうじゃない……タツヤには高橋さんがいるのに——」
ヒナがぶつぶつと何か言うけど、全然聞き取れなかった。
「えっ? そんなこと——何?」
「ううん。何でもない!」
そう言って、ヒナは太陽のような、満面の笑顔を見せてくれた。
それにしても、だ。
時間の巻戻りを感じたけど、あれは何だったんだろう?
でもそのおかげで、ヒナに未来のことを話せた。恐らく、何かあれば相談してくれる。
タイムリープ前と違って。
俺は一歩ずつ真相に近づいていると感じていた。
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