第28話 5月4日 幼馴染み(3)
※注意:挿絵があります。
部屋のボタンを押した。すると、
『201号室に案内します。エレベーターで2階に移動して下さい』
アナウンスが流れ、リア充たちはエレベーターに向かっていった。
く〜〜。リア充はこんなところ当たり前なのか……。
俺たちはパネルの前に戻る。
すると、ヒナは部屋のボタンに手を伸ばした。403号室だ。何かあるのだろうか?
しかし、403号室のパネルは暗くなっていた。空いていないように見える。
「あ……」
ヒナも同じように思ったのだろう。
単純に中に入りたいだけなら、他の部屋でも良いのだろうけど、ヒナは403号室にこだわっているようだ。
「タツヤ、あとで来よ?」
「うーん。ちょっと待って」
よく見ると分かったのだけど、403号室のボタンは暗いとはいえ点灯しているのだ。ひょっとしたらパネルの電気の接触不良?
俺は、フロントと書いてある受話器を手に取った。
「ちょ、ちょっと……タツヤ?」
ヒナが慌てているのを横目に、電話に出たホテルの人と話す。
「403号室って空いてますか?」
「えーっと少しお待ちください……。あ、空いています。パネル下のボタンを押して下さい」
「えと、空いてないように見えますが」
「なぜかその部屋はそんな感じになっているのです。本当に空いていないときは、ボタンを押しても反応しません」
そう言われ、俺は恐る恐る403号室のボタンを押した。
『403号室に案内します。エレベーターで4階に移動して下さい』
俺はヒナに「空いているみたい」と告げると、こくりと頷き、エレベーターに向かう。
不安そうに俺を見るヒナの目は潤んでいた。
ヒナに俺の腕をぎゅっと掴まれながら、エレベーターに乗った。
4階に着くと、廊下の奥に一つだけある扉まで来た。403号室と書いてある所が点滅している。
ここが例の403号室のようだ。
「入るよ?」
「……うん」
ヒナは不安げに頷く。
靴を脱いで部屋に入る。中は広く、ビジネスホテルの一室のような感じだ。
ベッドはもちろんのこと風呂もトイレもある。テレビも備え付けてあるし冷蔵庫まである。
「やっぱり……ここ……夢で見た——」
「ヒナ、どうした? 夢がどうしたの?」
「私、ここで……ここに男の人と一緒に入った……」
そう言うと、ヒナはその場に座り込む。目からぽろぽろと涙がこぼれ出した。
「ここ初めてなんだろ? お、おいっ! 大丈夫か!?」
思わず抱きしめると、ヒナはそのまま泣き出してしまった。
「夢なのに、すごくリアルで……先輩が……私を……いやっ」
「落ち着けって!」
ヒナは頭を抱えて、震え始める。
こんなヒナは見たことがなく、いつも楽しそうに天真爛漫な姿から想像できない。
俺はヒナを抱きしめたまま背中をさする。しばらくさすっていると落ち着いたのか、ヒナが顔を上げた。
涙に濡れた瞳を見ているとドキッとする。
「タツヤ……お願いがあるの……」
「何?」
随分真剣な表情をしている。
ヒナの顔がさらに赤くなったような気がした。
「……キスして……その後……私と……その、ここで……最後までして欲しい……」
「えっ!? どうして?」
「ダメかな? 今日ね、朝、夢で見て。すごくイヤで……でも消えなくて。消して欲しいの。嫌な夢を上書きして欲しい。こんなの、タツヤしか頼めない」
「どうして俺なんだよ?」
多分することは出来ると思う。
さっき反応してしまったし、欲望に身を任せれば今からでも。
でもいいのか? と思ってしまう俺がいる。
ヒナは少し躊躇った後、俺の胸に顔を埋めた。そして、囁くような声で声で言った。
「……タツヤなら……いいって思うから。だから、忘れられるまで……して欲しいの。今日は大丈夫だから。私とは……いや?」