第20話 5月3日 いつから? ——side 園田陽菜美(ヒナ)、幼馴染み視点
注意:後書きに挿絵があります。
タツヤと優理が、youtuberについて調べている頃……。
ヒナ——園田陽菜美、タツヤの幼馴染みは一人家に帰ってきた。
★★★★★
「ただいまー」
返事はない。お父さんもお母さんも出かけているみたいだ。
今日はゴールデンウィークの初日。
私はタツヤの妹、千照ちゃんと一緒に遊んでいた。
まさか、ショッピングモールでタツヤに会うとは思わなかった。
さらにびっくりしたのは、タツヤの隣に高橋さんという女の子がいたこと。とても綺麗な子だと思った。それに、千照ちゃんと楽しそうに話しているのを見て、いい子なんだろうなって感じた。
タツヤとも話したのだけど、私が知っているタツヤと少し雰囲気が違っていた。
前より落ち着いていて、何かを悟ったような目をしていた。そんな違いをなんとなく感じたのだ。
そのあとは、千照ちゃんと違うところに行って遊んで帰ってきた。
「……シャワー浴びようかな」
お風呂にはまだ早い。だけど、汗を流したくなった。
なんとなく、だけど……。
私はシャワーを浴びたあと、キャミソールにショーツだけの姿でベッドに横になった。
無駄に大きくなった胸にブラをつけるのが面倒くさい。
スマホに映るタツヤとのツーショットを見ながら、ぶつぶつ言う。
「うーん。私はタツヤのことをどう思っていたのかな?」
昨日まではなにも感じなかったのに……今は身体の中心が熱いのはどうしてだろう?
もう一度スマホに映っているタツヤの写真に目をやる。
とくん……とくんと心臓が高鳴る。
無意識のうちに私の左手のひらが、胸に触れた。
乳房に触れているという感覚だけで、それ以外は何も感じない。
でも、もしこの手のひらが、タツヤのものだったら?
そう考えた瞬間、
「あっ……」
腰がビクッと震え、声が出た。
キャミの上から胸の先っぽを指で転がすと、ピリッと電流が走ったような感覚がして、思わず仰け反った。
「んんっ……ふっ……」
勝手に変な声が出る。
いつだったか、千照ちゃんが私の胸を触って、感じる? って聞いてきた。
千照ちゃんは私より色々こういうことに詳しいみたいだ。一人でするって言ってたし……今の中学生はみんなそうなのだろうか?
私はまだやり方を知らない。
千照ちゃんに触られたときは、くすぐったいだけだった。昨日まで自分で触れてもくすぐったいだけだ。
でも、今は……自分で弄りながら、タツヤに触られてるって考えただけで……いつもと違う刺激を感じる。
「んんっ……はぁはぁ……なにこれぇ……」
今まで感じたことのない感覚が全身に走り、息が荒くなる。
——タツヤとは家も近くて、両親の仲も良く家族ぐるみで遊ぶこともあった。
彼の妹、千照ちゃんはとても可愛らしく、私は絶対美人になると太鼓判を押していた。
タツヤと千照ちゃんと一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝ることもあった。
でも私が中学に上がるとき、両親の都合で引っ越し疎遠になった。
中学を卒業してこっちに戻って来て再会すると、家族ぐるみの付き合いが復活する。
「ただの幼馴染としか思ってなかったはず。なのにさぁ、どうしてこんなに胸の奥がモヤモヤするのかなぁ?」
再会して一年、お互いに暇なときはどちらかの家で遊んでいた。時に、千照ちゃんと三人で、時に二人でいろいろなところに行ったりもした。
タツヤと付き合っているという噂も立ったけど、私にはそんな感覚が無かった。
男子から告白されることもあったけど、その気になれなくて全部断っていたのも、噂を加速させていた。
そんな日がずっと続くと思っていたのに。
「変な夢を見たんだけど、あれのせい?」
黒い猫が私の前を横切った日の夜だ。凄く綺麗な猫だったので、やけに覚えている。
夢自体は支離滅裂だ。全体的に暗かった。
振り返ると、涙に濡れたタツヤがいた。ボロボロのタツヤが痛々しく見えた。
私がひどいことを言ったみたいだ。夢の中の話なのに、心が痛い。
千照ちゃんも泣いていた。私に何か相談していた。私はそれを一人で解決しようとしてうまくいかなかったみたいだ。
それと……あの人。高橋さんだ。恨むように私を見つめていた。
夢を見たときは、それが誰なのかピンとこなかった。
でも今日、あれは高橋さんだったことを確信する。
タツヤと同じクラスのお嬢様。違うクラスの私でも噂を聞いたことがあった。
今日、タツヤの隣にいた人だ。近くで見て思ったけど、綺麗と可愛いが同居したような人。
私と高橋さん、どちらかを選ぶなら、男の人のほとんどは高橋さんを選ぶんじゃないのかな。たぶん、タツヤも。
とても敵わない。
「こうなったのは、タツヤと高橋さんが並んで歩いたのを見たから……だよね」
二人が仲よさそうに歩いているのを見た瞬間、ドキッとして、さらに、
『俺がそんなに優理を想っているように見えるか?』
このタツヤの言葉で、初めて彼に「男」を感じた。
その瞬間、何かが私を貫ぬき、からだの中が熱くなって、ようやく自分の気持ちに気付いたのだ。
ああ、なんで今さらなんだ。一年間も気付く時間があったのに。
私はタツヤのことが好き。好きなんだ。
もし、高橋さんがイヤな女の子だったら、遠慮無くタツヤを引き剥がそうとしたのに。
多分、仲良くなれそう。いい子っぽいし、タツヤも褒めていた。
気付くと、触っていた胸の先端がツンと固くなっていた。
もう一度、確かめるように手のひらで胸全体を包むように触る。
「んっ……あんっ」
先端が敏感になり、刺激が全身に伝わる。
気付くと、私は無意識のうちに、足がもじもじして股をきゅっと閉じてしまっている。
足の付け根、身体の中心に熱を感じた。
これって、もしかして……? 千照ちゃんが言ってた濡れるってやつ?
ショーツの中に手を入れて、その中心に触れる。
「あっ!?」
そこはぬるぬるとした液体で濡れていた。
「えっ……うそ、こんなに?」
どれだけ濡れているのか調べるために指を動かす。
ぬるりとした潤滑油のおかげで、つうっとなめらかに敏感なところを指が滑る。
もし、これが、タツヤの指だったら?
そう思った瞬間、私のからだの中心が敏感になる。
「……んふっ……ふわぁっ……んくぅ……」
自分とは思えないような甘い声が出た。さすがにびっくりして止める。
もう少し続けたいような、そんな気もしたけど自分が自分じゃなくなるみたいで、ちょっと怖くなってきた。
「ふぅ……だめっ……これ、はまっちゃう……やめっ」
下着が濡れて冷たく感じる。私は起き上がり、ショーツを脱いだ。
ぬるぬるとした粘液は透明で、汚れているようには見えない。
でも、もう一度シャワーを浴びたくなった。してしまったという後悔を洗い流したくなった。
みんな、こういうことしているのかな?
千照ちゃんはたくさんしているみたいだ。
高橋さんは? 全然こういうことしてなさそう。
「あーあ。明日どうすんの」
明日はタツヤと遊ぶ約束をしている。
タツヤの顔をまともに見る自信が無い。どんな顔をして会えばいいのか分からない。
だけど私の気持ちは……。
明日、タツヤとデートをする。そこで私から告白しようかな。……もう手遅れかもしれないけど。
考えながら部屋を出る。
そして私は浴室の前までいき、濡れた下着を洗濯機に放り込んだのだった……。




