第19話 5月3日 デートと敵の存在(6)
椅子に座り、慣れた手つきでパソコンを操作する優理。
俺は立ち上がり、画面を覗き込むようにして見る。デスクトップには猫の壁紙が貼ってあったり、フォルダがいくつか並んでいて整理されている。
こうやって人に見せるって、俺だとすごく抵抗がある。優理は気にしないのかな?
いや、そもそも隠すものが無いのかもしれない。
親ガードがきつくて、色々制限されて。多分パソコンもチェックされていたのかも。
ちらっと履歴が見えたけど、猫など動物関係の動画やら、音楽関係のもの、料理系、そしてvやyoutuberのものだけで、特に目を引くものがなかった。
『知らないものは調べないし探さない』
誰かの言葉を思い出す。それほどに、今時珍しい純粋無垢さを優理は持っているのかもしれない。
「えーっと」
カチカチとマウスを操作して、動画サイトを開く。そのページのトップ画面には【花咲ゆたか】という名前があった。
この名前どこかで見た気がするんだよな。どこだっけ。
あ、そうだ、千照が教えてくれた配信者のURLがあったな。俺はスマホを取りだし、確認する。
その配信者の名前は……【花咲ゆたか】。
間違い無い。同じだ。
「この人、千照に連絡を取ったみたいなんだ」
「え? 千照さんって、たつやさんの妹さんですよね。さっき話したすごく可愛い方」
俺の呟きに反応して、優理が振り向く。
「……あっ、たつやさん、座ります?」
「座るって、どこに?」
優理は立ち上がろうとした。俺に譲るつもりだ。
「いや、優理は座っててよ。俺はいいからさ」
「むー……じゃ、じゃあ、ここ空けます。んしょっ」
そういって、お尻をずらす優理。ん?
「空けました。ど、どうぞ」
そういって、空いた椅子のスペースに手を置く優理。
隣に座れということらしい。うーん。これって……。断る理由はないので、従うことにする。
「ど、どうも」
俺は緊張しつつも隣に座る。
二人座るの無理だろと思ったけど、意外と余裕があった。優理が細いのか、椅子が大きめなのか。とはいえお尻の三分の一くらいは余っている。
というか近い。肩が触れ、横腹も触れる。服があるとはいえ、お風呂に並んで入った時よりくっついている。
近い分、いつもより強く優理の香りを感じた。
ふと気付くと、ブラウスから優理の胸元が少し見えていた。ピンクのブラや谷間も見えてしまっている。俺は慌てて視線を逸らす。
「あの、たつやさん、どうしました? お顔真っ赤です」
「い、いや、配信者の話に戻ろう」
「はい。ええと、この方が千照さんに接触されていると」
「そうなんだ。しかも、その何というか、パンツを履かずに、足を少し開いて撮った写真を送らせようとしてたみたい」
「えっ? パンツを履か——」
そこまで言って止まる優理。次第に、頬が赤くなる。
「そ、そういうご関係なんですか? その、付き合っていらっしゃるのですか? 千照さん中学生ですよね。この人、確か大学生でしたよね。大人です……」
「いや、違う。そもそも会ったことも無い。千照を餌で釣って、その見返りとして写真を要求したらしい」
「写真をどうされるのでしょう?」
「ばらまくぞとか脅すんじゃないかな」
「えっ? それは怖いと思います。そんな人がいるのですか?」
顔面蒼白になって口がへの字になり、困ったような表情をする優理。
ああやっぱり。そういう悪い奴がいるって知らないんだ。
俺は興味本位で聞いてみる。
「うん。ちなみに、もし俺がそういう写真——ノーパンで足開いた写真——を送ってって言ったらどうする?」
「たつやさんがですか? うーん……」
優理は目を瞑り、腕を組んで考え始めた。
おい。そんな考えることか?
学校でもそういうの人に送っちゃダメって習ったのに。
むーと口を閉じ、本気で考えているようだ。そして出した結論は……。
「たくやさんが欲しいのなら……その、が、頑張りますっ!」
「おいっ!」
思い切り声を張り上げてツッコんだものの、俺は浮いているお尻の方に倒れそうになった。
なんとか椅子に座り直し、頭を抱える俺。
思わず、優理が「そういう写真」を撮ろうと頑張るところを想像してしまった。真剣な顔でやりそうだ。
ああ、どうしたらいいんだ? もし送ったら、とても悪いことが起きるんだよと優理に分からせないといけないのか?
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