第18話 5月3日 デートと敵の存在(5)
さすがにそれは下半身で考えすぎだよな。
「ん? 一緒にクロを洗おうか」
「……は、はい」
なんだか優理はしゅーんとしている。
え、まさか本当に一緒にお風呂に入りたかったのか?
優理のバスタオル姿はもう一度見たいとは思うけど、優理も同じこと考えてるわけじゃないよな。
優理は立ち直りも早い。すぐにグッと手のひらを握りしめ、頑張りますと言った。
何を頑張るのか分からないけど、さっそく買ってきた動物用シャンプーを使い、二人でクロを洗いっこする。
クロは嫌がりもせず、にゃあにゃあと鳴いていたのだった。
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風呂から上がった俺たちは、猫グッズを一通り出して、簡易的に手作りしてあったものと二人で入れ替える。
「こうして二人で一緒に作業するの、すごく楽しいですね」
「そうだね、雪野さんとは一緒遊んだりしないの?」
「雪野さんは部活で忙しくって、時々は一緒に出かけることもあるんですけど。他の友達も同じで」
「そうなんだね。じゃあ、今日みたいな日は一人で過ごしてたんだ」
「はい。だから、今日は凄く楽しくて。たつやさん、ありがとうございます」
優理は俺を見てお辞儀をして微笑む。ドタバタしたけど、この笑顔を見れただけで良かったかもなぁと思った。
「それで、明日はお母さんと出かけるんですけど、明後日は……その……」
さっきと同じように、何か口ごもる優理。
明日はヒナと会うことになっているが、明後日は一日中空いている。
俺は察して言うことにした。
「えっと、明後日もまた、お邪魔してもいい?」
俺の言葉に一瞬キョトンとしたあと優理は、ぱあっとヒマワリが咲くように顔が嬉しそうにほころび、満面の笑顔で応えたのだった。
「はいっ!」
★★★★★
午後三時を過ぎた。
今日予定されていたミッションは全て終わり、次に一緒に遊ぶ約束をした。
でも、まだ帰るのは早い。
「そういえば、優理って動画サイトを見ることある? youtuberとか」
俺は、あのバカどもを調べるために優理に協力して欲しいと考えている。
動画サイトを使って悪さをする奴もいる、と伝える意味もある。
「時々見ます。近くで活動しているyoutuberもいますよね。知っています」
「えっ?」
優理が地元のyoutuberを知っている?
この辺りは都会と言うほど人も多くない。地元で活動しているyoutuberなんてそれほど多くない。
まさか、ショッピングモールで食べているときに近くにいたyoutuberを優理は知っていた?
ゾクッと背筋が凍る思いがする。
タイムリープ前は、そもそも優理との関係も無く、当然俺がショッピングモールに行くことも無かった。
いや、そもそも妹の千照と最近打ち解けて話せるのは、優理の家で風呂に入ったのが原因だ。違う家のシャンプーの匂いで色々話し、夜には濡れた教科書を一緒に乾かした。
優理との関係を進めることで、千照との仲が近くなり、そして彼女の危機を救えたのだとしたら……?
俺はさらにそのきっかけとなったクロを見た。
すると、クロは俺から視線を外し「にゃあ」とだけ鳴いた。まあ、いくら考えても答えは出ないか。
「それ、なんていうyoutuber?」
「ちょっと待っていてください。私のノートPC……あっ、たつやさん、もしよかったら私の部屋に……来ますか?」
えっ。いいの?
前来たときは誘われなかったけど、何か変化したのかな?
「そ、それじゃあ行こうか」
「ふふっ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
俺はかなり緊張してしまっていたらしい。それを察してか優理が笑う。
仲良くなる前なら、優理は別のリアクションだったろうけど、だんだん俺のことが分かってきたのか慣れたのか……変に遠慮もしないし、よく笑うようになった。
ああ、こんな素直でいい子を利用しようだなんて、いいのかな。
でも優理との仲を詰めれば詰めるほど、良い方向に向かっているような気がする。
などと内心で思いつつも……付き合ってもない男を自分の部屋に招くとか、チョロいんだけどね——。
「おじゃまします」
本日二度目のおじゃましますをして、優理の部屋に入る。
良い匂いがしてドキドキしてしまう。
部屋は比較的シンプルだ。ベッドや机、本棚などがあるくらいで女の子の部屋とは思えない。それでもピンクが多いから可愛いのだが。机の上にはノートパソコンが置いてある。
そんなことを考えていると、ふと優理と目が合った。優理は少し照れたようにはにかむ。
「どうぞ」
そう言ってクッションを渡してくれた。猫柄である。かわいい。座るとふわふわしていて気持ちいい。
「それでさ、さっき言ってたyoutuberって誰のこと?」
「えっとですね、今パソコン開きますね…………この人です」
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