双子のパンダの白黒な新年
歌川 詩季様の『双子の白熊猫のきもち』の二次創作です。
今年もよろしくお願い致します。
いい加減起きなさいって、朝からママに起こされた。
…そりゃあいつもだったら浮かれて起きるんだけど。今年はそんな気になれない。
こうなっちゃったこと。後悔してないし、別にいいよって思ってるんだけど。
それでも寂しいのは寂しいんだよ。
黒パンダのまま家族のところへ行くと、もう起きてたお兄ちゃんに笑われる。
「おはよう。ってお前、新年から」
白パンダのお兄ちゃん、黒い手であたしを撫でてくれる。
「おはよう」
なんで今日のあたしが黒パンダなのか。お兄ちゃんは知らないし、言えないよ。
双子のパンダのお兄ちゃんとあたし。
白パンダにも黒パンダにもなれるあたしたち。
まだ思うように変われないあたしは、嬉しいと白パンダ、悲しいと黒パンダになっちゃう。
余計な心配かけちゃうから、今日はホントは白パンダになりたかったんだけど。この先のことを考えたら悲しくって、どうしてもなれなかった。
今日黒パンダな理由。
お兄ちゃんに気付かれないようにしないと。
朝はお餅よってママ。
茹でたお餅にお醤油と胡麻油とおネギもいいし。
ちっちゃく切ってバターで焼いてお醤油かけてぺったんこになったのもいいな。
そう考えてたのに、もう焼いちゃったって言われた。
仕方ないか。お砂糖でいいや。
焼けたお餅とお砂糖をもらって席につく。隣のお兄ちゃん、お醤油のお皿ときなこのお皿。いつも通りだね。
「初詣、昼から行くから」
お砂糖をつけて食べてたら、お兄ちゃんにそう言われた。
「カイも昼からって。向こうで会えるといいな」
青いお箸でふたつめのお餅を取りながらお兄ちゃんは笑うけど。
「あたし行かない」
「えっ?」
お兄ちゃん、ものすごくびっくりした顔になっちゃった。
あたしは下を向いて、かぷっとお餅にかじりつく。
「なんで? 毎年行ってるのに…」
ごめんね、お兄ちゃん。
お兄ちゃんが何を言っても、あたしは行かないよ。
お昼までおこたでみかん食べながらずっとぼんやりテレビを観たりコロコロしたりして。
お昼を食べてから、お兄ちゃんが心配そうな顔であたしのところに来る。
「もうすぐ出るけど。ホントに行かないの?」
「行かないよ」
お兄ちゃんを見ないまま答えるあたし。
「カステラ、買うんじゃないの?」
お兄ちゃんの言葉に泣きそうになる。
屋台のベビーカステラ。初詣の時しかしか来ないお店で。すっごく美味しい。
年に一回だからって、お年玉でおっきい袋買って食べるの、毎年楽しみにしてる。
だけど。
「買わない」
ふるふる首を振って下を向く。
大好きだもん。ホントは食べたい。
でも。今年のあたしには無理なんだよ。
買わないんじゃない。
買えないんだよ。
いつもあたしを守ってくれるお兄ちゃん。
いつの間にかあたしを助けてくれてた、おんなじクラスの甲斐犬のカイくん。
どうしてもふたりにお礼がしたくて、クリスマスにプレゼントを渡したいなって思った。
だけど、この前作ったカレー。あの後、食べ物でそんなことしちゃダメってママに叱られて。材料費だっていってお小遣い取り上げられちゃってたから、なんにも買えなくて。
ママに謝ってちゃんと理由を話したら、お小遣いは返してくれなかったけど、お年玉を貸してくれた。
それでふたりにプレゼントを買えて、喜んでもらえて嬉しかった。
だからね、それはいいんだよ。
ふたりにお礼ができて、あたしも嬉しかったんだよ。
…でもね、お年玉、ほとんど使っちゃったから。
一番ちっちゃい袋も買えないんだよ。
この先のお小遣いは渡さないからねってママにも言われてるから、あたしにはもうどうしようもないんだよ。
だから行かない。
近付いたらいい匂いがするもん。食べたくなるもん。食べれないの悲しいもん。
だから行かない。
行かないよって示すために、もういっこみかんを剥きだしたあたし。
お兄ちゃん、そんなあたしをじっと見て。
「じゃあなんで黒いまんまなんだよ?」
そう聞くけど。答えられない。
知らんぷりしたままのあたしに、そっか、って。
ちょっと悲しそうな声で呟いたお兄ちゃん、部屋を出ていっちゃって。
食べたかったわけじゃないのに剥いたまんまるみかん。レモンだったら絞ってあたしも大好きなあいつらにかけてもらえるかもしれないけど。みかんは絞らないもんね。かわいそうだしやっぱり食べちゃおう。
おんなじまんまるなのに。カステラ食べたいあたしはみかんじゃ満たされないや。
お兄ちゃん、もう出かけるころかなって思ってたら。またあたしのとこに来てくれた。
「もう出るから。早く用意して」
ほら、って手を出される。
「あたしは行かないって…」
「俺が買うから」
お兄ちゃん?
びっくりして見たあたしに、お兄ちゃん、出してた手で頭を撫でてくれる。
「母さんから聞いた。クリスマスのプレゼントのお返しに、俺が買うから。一緒に行こう」
でもお兄ちゃん、お年玉で買いたいBDあるの知ってるよ? DVD持ってるけどBDのリマスター版出たって喜んでたのに。
カステラ買っちゃったら買えなくなっちゃうかもしれないよ?
困るあたしに、いいからって。
「お返しだから。な?」
「お兄ちゃん……」
いい、のかな…。
まだしょんぼり、黒パンダのままのあたし。
どうせ近所だしって、結局そのままお兄ちゃんに引っ張ってこられた。
参道はお店が出てて賑やかで。いつものカステラの屋台もちゃんとあって、いつも通りいい匂いがしてる。
「お参りが先な」
じっと見てたらお兄ちゃんに笑われたけど。
違うもん。ホントにいいのかなって思ってただけだもん。
ちょっとむくれて先に進むと、鳥居の前にカイくんがいた。もしかして待ち合わせしてたのかな?
「会えてよかった!」
そう言って駆け寄ってきたカイくんと新年の挨拶をしてから進むけど。
そういえば、あたし何も持ってないってことは、お賽銭もないよ?
「忘れてた。ほら」
お兄ちゃんがお賽銭を渡してくれた。
「そのまま連れてきちゃったもんな」
「ありがと……」
帰って返すねって言ったら、笑って頭を撫でられた。
お参りの順番が来て。お賽銭を放り込んで、目を瞑る。
お願いを叶えてもらうんじゃなくて、こうしたいから見ててくださいって言うんだよって小さい頃に教わった。
―――あたしはね、去年、すっごく嬉しいことがあったんだよ。
自分でもびっくりするくらい、嬉しかったんだよ。
だからね、今年はあたしからもいっぱい返したい。
あたしに何ができるかわかんないけど、嬉しいなって思ってほしい。
…何か、できるかな。できたらいいな。
そう思ってるんだよって報告して。
がんばるねって。心の中で、そう言った。
参道を戻りながら、何お祈りしたのってお兄ちゃんに聞かれたから。お兄ちゃんは、って聞き返したんだけど。
「俺はあんまりできることないから。カイとか、いろんな人に追いつけるように努力しないとって」
ってお兄ちゃん?? 何言ってるの?
びっくりしてカイくんを見ると、カイくんも驚いた顔してる。
そりゃカイくんがすごいのはわかってるけど!
お兄ちゃんだってすごいんだよ?
いっつもいっぱい周りを見てて。困ってたら手伝って励ましてくれて。
あたしから見たら十分上手なのに、自分の好きなことには全然妥協しなくて一生懸命で。
ううん、好きなことだけじゃない。いつだってなんにだって真剣で。
優しくて強いお兄ちゃん。
なのにできることないなんて。あたしのことはよくわかってくれてるのに、自分のことは全然わかってないんだから。
…ホント、そんなところもお兄ちゃんらしい。
だからあたしは言うんだよ。
「お兄ちゃんはすごいんだよっ」
「何言ってんだよ」
「そうそう。照れんなって」
「だから何言ってんだって」
あたしは妹なんだから。
お兄ちゃんが照れてごまかしたって。あたしのお兄ちゃんはすごいんだって、ずっとずっと言うんだからね。
お兄ちゃん、早足になっちゃって。
置いてかれたあたしとカイくん、顔を見合わせて。
仕方ないなぁって笑った。
お兄ちゃん、カステラの屋台のところで待っててくれた。
「買ってくるから」
「あ、俺も」
お兄ちゃんとカイくんが列に並んで。あたしはひとりで待ってたら。
戻ってきたお兄ちゃん、あたしにおっきな袋を渡してくれた。
「カイが半分出してくれたんだ」
「えっ?」
びっくりしてカイくんを見ると、にっこり笑って頷いてくれた。
「クリスマスプレゼントのお礼なら、俺からも、だし」
ほかほかのカステラからは、甘くていい匂い。
あったかい袋と同じくらいあったかい気持ち。
抱きしめたら潰れちゃうから、そっと持ったまま。
「ありがと…」
「カステラで泣くなよ??」
呆れて笑うお兄ちゃんと、にこにこしてるカイくんと。
結局返す前にまた嬉しいをもらっちゃったなって思いながら。
「皆で食べようね」
泣き笑いでそう言うと、ふたりとも頷いてくれた。
三人でカステラを食べながら。
今日からの一年、あたしは何ができるのかなって。
あたしは何を返せるのかなって。
わかんないけど、でもきっと。
きっと、何かはできるよね?
あたしのありがとう。
皆に伝わるといいな。




