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第10話 デート

『んふふふー! 今頃二人は何してるのかしらね!?』

「トトって、恋愛とか結構好きよね」

『恋愛というか、人の営みを見るのは好きね。リディアの色恋沙汰が一番面白かったけど』


 パーティーから数日。

 ソフィアはガゼボでエルネストとお茶をしていた。その傍にシトリーの姿はない。


「初デートだもんね。楽しめてると良いな」

「俺もソフィアとデートしたいんだが」

「いつもしてるじゃないですか」

「足りない」


 椅子を引きずってソフィアの隣に腰掛け直すエルネストにくすりと笑う。


「そんな子供みたいに」

「ソフィアとデートできるなら子供でも良い」

「きゃっ、あっ、ちょっと」

「嫌か?」

「ま、待ってください! 待ってください!」

「子供はわがままなものだから」


 抱き寄せられ、膝の上に座らされたソフィアが何とか抵抗を試みるも、すぐさまエルネストの温もりにとろかされて動けなくなる。


「ズルいです……」

「好きな人と一緒にいるためなら、いくらでもズルくなるぞ。男ってのはそういうものだ」


 断言され、思わず噴き出す。


「それはルーカスも、ですか?」

「そうだな」

「どこまで決まってたんです?」


 ソフィアの問いにエルネストが肩をすくめる。本当に関わっていなかったらしく、女王がどこまで手を回していたかは知らないようだった。


「その質問には私がお答えしましょう」

「シトリー!? デートに行ってるはずじゃなかったの!?」


 ガゼボの影からぬっと現れたシトリーにソフィアがびくりと身を振るわせれば、シトリーがにんまり笑った。


「本来ならば気付いてもらうまではネタバラシしない主義なんですが」


 深々と頭を下げた。


「この度は、私の娘のこころに寄り添い、応援していただきありがとうございました。どこか冷めてて物分かりが良すぎると思っていたんですが、まさかあそこまで思いつめていたとは思わず」

「えっ? え? どういうこと?」

「シトリーの母で、『女王の切り札(トランプ)』にて『鬼札(ジョーカー)』を拝命しております、フローレアと申します」

「お母さん!? えっ!?」


 どうみてもシトリーにしか見えない姿に驚きの声をあげるが、頭をあげたときには女王の顔に変化していた。そればかりか声さえも女王のものになっている。


「我が一族秘伝の変装術です」

「ええええ……」

「今までも何度か入れ替わっているのですが、気付きませんでしたか?」


 今度は名前も知らない他の誰かの顔になって訊ねられるも、ソフィアは力なく首を横に振るばかりだ。

 エルネストはくすくす笑いながらソフィアの髪に口づけを落とす。


「義母上もやられたそうだ。そういうものだと思って気にしない方がいい」

「主に驚きと喜びをもたらすことも、我々の務めですから、……っと。若君(わかぎみ)、そこまでです。婚姻前ですので」

「……止めに来たって訳か。せっかくシトリーがいないから好きにできると思ったのに」

「えっ!? 好きにって、どういうことですか!?」

「説明して良いの?」

「だ、駄目ですーー!!!」


 真っ赤な顔で絶叫したところでエルネストがソフィアを解放する。ソフィアは髪や裾を直しながら自分の席に座ると、恥ずかしさを誤魔化そうと話題をそらした。


「えと、フローレアさん。それじゃあシトリーは今、デート中ってことで良いんですよね?」

「はい。少し前に南通りのお店で軽食を口にして、今はヴィカリオ教会でオルガンを借りてルーカスと一緒に弾いています。あ、ちょっと口論が始まりましたね」

「何でそこまで分かるんですか……」

「『ソフィア様が若様に襲われないよう早く戻る』と主張するシトリーと、『無体はしないだろ。ほっとけ』というルーカス様の主張がぶつかってますね。休暇なのは間違いありませんし、演奏に戻ったので問題ないでしょう……若君は私が止めますしね」

「筒抜けか……」


 今度は自らの行動を言い当てられたエルネストが嫌そうな顔をする。


「だから何でそこまで分かるんですか……」


 呆れるように呟くも、フローレアは笑うばかりで答えない。

 仕事があるので、と再びシトリーの顔に変装してガゼボから立ち去る彼女を、どこか毒気が抜かれた二人は見送った。




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