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第22話 もやもや

前日21時ごろにも投稿しております。読み飛ばしにご注意ください。

 デートから数日が過ぎた。

 屋敷全体がバタバタしていたためにソフィアは基本的にお茶や食事時以外は自由に過ごさせてもらっていたが、そのバタバタの理由が判明した。


「侍女の増員、ですか」

「ええ。若様一人でしたら仕事と食事、そして睡眠以外はほとんど騎士団の方に詰めていましたので充分でしたが、ソフィア様もいらっしゃいますので」

「……何だか申し訳ないです」

「これも将来のための練習ですから」


 エルネストの将来のため、と解釈したソフィアがぎこちなく頷くが、実際はソフィアが嫁いできた後の将来のため、とシトリーが強弁して手配させたのだ。

 シトリー自身がオーバーワークなことも理解していたため、エルネストも渋々ながら各所に連絡をとって優秀な人員を送ってもらっていた。


「あとでご挨拶に伺わせますので、よろしくお願いします。粗相がありましたらなんなりと仰ってください」

「ありがとうございます」


 シトリーは慇懃に告げるが、実際はそれほど心配していない。

 というのも、一から侍女を指導する時間があるはずもなく、エルネストが金と権力とツテを使って、すでにどこかの屋敷で何年も務めた者ばかりを集めたからである。代わりにある程度落ち着いたら貴族の娘を行儀見習いとして受け入れることも了承させられたが、現状では問題はなかった。


「若様はオーラがアレですし、既婚の方がほとんどですので最初は入れ替わりもあるかと思いますが、しばらくすれば落ち着くはずです」

「わかりました。名前を覚えるのが大変そうね……覚えるまで解雇されなければ良いんだけど」

「そんな心配はいりませんよ。本日からは湯あみのお手伝いもさせていただきますね」

「大丈夫よ? 一人でもきちんと洗えるわ」

「全身を磨き上げ、ソフィア様をより美しくするのも侍女の務めですので」


 当たり前のように言い切られてしまえばソフィアとしても断るのは難しかった。自身はメアリのついで程度にしかやってもらったことはないが、確かに髪をとかされて香油をしっかりと塗り込まれたあとのメアリは一段と可愛く見えたことを思い出す。


(少しでもああなれるなら……きっと無理ね)


 どれほど努力しようともメアリにしか目がいかない父を思い出してしまったが、ソフィアとて年ごろの乙女として綺麗になりたい気持ちがないわけではなかった。

 エルネストならばもしかしたら気付いてくれるかもしれない。

 無意識のうちにそんな期待をしてしまう。


「食事や睡眠の質が改善されたためか、肌つやや髪の調子も良くなっています。今後はマッサージとオイルやクリームによるケアも行います」

「えっと……よろしくお願いします?」


 シトリーが礼をして退室したところで、ソフィアは大きな溜息を吐いた。それから部屋の隅で置物のように気配を消していたトトへと視線を向ける。

 最近はこうやって隠れていることが多くなったが、簡単に見つけることが出来た。精霊の御子としての力が育っているのか、それともトトが手加減してくれているのかは定かではないが、見つけられないことは今まで一度もなかった。


「なんか、勘違いしちゃいそう」

『勘違いって、何を?』

「シトリーさんに優しくしてもらって、エルネスト様には壊れ物のように大切に扱ってもらって……まるで、私が大切にしてもらえているみたい」


 そんなわけがないのに、と言外に続く台詞にトトが溜息を吐く。

 一言で言うならば呆れ、である。


『あのねぇ……まるで、じゃなくて充分大切にしてもらってると思うわよ? エルネストなんて、リディアの旦那の若い頃を見てるようだもの』

「でも、私はただの練習相手よ? 勘違いしないように気をつけなきゃ」

『なんで?』

「なんでって……」


 言葉に詰まったソフィアに、トトが容赦なくまっすぐな言葉を投げた。


『練習相手って、まだ本番の相手も決まってないんでしょ? ならソフィアが本番になる可能性だってあるじゃない』

「そ、そんなのあり得ないわ!」


 驚きに声を荒げたソフィアだが、トトの猛攻は止まらない。


『何で? ソフィア以上に大切にしてもらっている女性なんてアタシには見当たらないけど』

「だって、私はメアリのおまけだし、練習相手だし、可愛くないし、」


 尻すぼみに言葉が小さくなるソフィア。

 小さい頃から家族に自信を根こそぎにされてきたソフィアは自己評価が低かった。


『聞いてみればいいのに。『私が練習相手じゃなくて、本番の相手になる可能性はありますか』って』

「そんなこと聞けないわ! 自意識過剰にもほどがあるもの!」


 ぽふんとベッドに身を投げたソフィア。

 トトはそれを眺め、もう一度大きな溜息を吐くのだった。


 しばらくの間、ベッドの上で悶えるソフィアを眺めていたトトだが、すっと枕元に降り立ってソフィアをつついた。


「何?」

『特訓。するわよ』


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