1.承認欲求ソーセージ 2.蟻地獄時計
『承認欲求ソーセージ』
「平和とは何なのかという事について。それはソーセージをお互いに食べさせ合う事であると、かの有名な社会学者、チャールモッケ・モゴッソヨは提案したのです。2017年、南極会議での事でした」
幽霊先生のキンピラ心理学の講義を受けながら私は、こんな事を考えました。「何でソーセージなんだろう」と。しかしその答えは、授業内では語られなかったのです。
そもそもキンピラ心理学の意味すら分からず授業を取った私がバカだったのだと諦めの気持ちでいると、私以外の生徒……一人しかいないのですが……ケイズ・デンキ君が独り言を言い始めました。
「お互いに食べさせ合うってそれは一見すると素晴らしいように思えるかもしれないんだけど、それって他人に命を握られているようなもので実際は相手に嫌われまいとものすごくお互いに気を遣う事を要求される息苦しい関係でしかないのでは」
ケイズ君はそう言うと、教室を去りました。
***
『蟻地獄時計』
「666円です。お支払いは、PASMOですね」
お茶とサンドイッチ、そしてヨーグルトを購入した顧客の手元に視線を向ける。すると変わったデザインの、真鍮製の腕時計が視界に入り、ハッとした。針が無い。なおかつデジタル時計でもなく、へこんだ中心に向かって小さな数字が吸い込まれてゆくのが見えた。
「変わった時計ですね」
思わず、目の前にいる顧客に声をかける。すると彼女はにこりともせず、私を見た。
「これは、蟻地獄時計です」
「はあ」
レジに並ぶ人がいない事を確認し、改めてその時計に注目した。
そこには中心がへこんだ円盤があるばかりだ。
「いったいこの時計は、何なんですかね」
「さあ」
顧客はそう答えると、買い物袋を取り、去っていった。
消えた時間は、どこへ行くのだろう。そんな事を考えていると、次の顧客が来たので思考は一時停止された。
「いらっしゃいませ」