1.あやしいふたり 2.猫の心
『あやしいふたり』
アボカドさん、アボカドさん、アボカドさん! あなたの存在があるだけで僕は、他には何もいらないとさえ思ってしまう。あなたに微笑んでほしくて優しい言葉をかけてしまうけど本当は、泣かせたかったのかもしれない。あなたの役に立ちたいと思ってピエロになっていたけれど本当は、あなたの心の一部となりたかったのかもしれない。
いいえマグロさん。あなたと私は似て非なる存在なのです。けっして同じにはなれません。頭を冷やしてよく考えてください。そしてあなたはあなたの人生を、私は私の人生を。
アボカドさん、どうしてそんな風に突き放すんです。僕はもう我慢ができません。できないんです。どうか僕たち一緒に、醬油だらけになって絡み合いましょう、アボカドさん!
いけませんマグロさん、そんな、絡み合うだなんて。そんな事言われたら、恥ずかしくて溶けそうです。
溶けてください、アボカドさん。もう離れませんよ。
***
『猫の心』
道に迷った日の事です。海辺の田舎町の空き地には、朽ちたボートが二艘並んでいました。そしてその伸び放題の草むらで、猫が一匹、こちらを見ているのでした。
「にゃーん」
私が鳴くと、猫は何も言わずにこちらを見るのでした。私はしばらく猫の前で立ち止まり、ぼんやりとしました。
すると猫はおもむろに、緩んだロープが巻き付いているささくれた丸太で、爪とぎを始めました。視線をこちらに向けたまま。
ばりっ、ばりっ、ばりっ。猫は爪をとぎます。
「にゃーん」
私は鳴きます。猫は……猫は、爪を研いでいます。
私はだんだん飽きてきて、猫に構うのをやめ、駅に向かって歩きだしました。
猫はたぶん私がいなくなった後、爪とぎをやめただろうな、と思います。それは、ある夏の昼下がりの出来事でした。