1.祭りが好きな民族 2.夢の中の出来事
『祭りが好きな民族』
人々はそれぞれ、怒ったり、泣いたり、笑ったり、心配したりしていたのです。しかし祭りばやしが始まると、寄せる波が砂の絵を消し去るように、人々の表情がフラットになりました。
横笛の高らかな音色に聞き入る人もあれば、大太鼓の響きに合わせて足踏みする者、てんつくてんつく小太鼓のリズムに乗り揺れる人。それらの陽気な人々が音の出る場所の周りをぐるぐるしながらおおきな一つの円になりました。祭りが始まったのです。
街の喧騒から逃れようと、耳をふさいで逃げ出す人がいます。
家に閉じこもって、窓を閉める人がいます。
何も見ていないふりをして、やり過ごそうとする人がいます。
大声を出して、対抗しようとする人がいます。
祭りが終わったあとの街には、祭りの後には付き物の、例のあれがいっぱい、残されました。それはしばらく街の空気を汚したので、全部片づけられるまでは誰も、街を歩けない有様なのでした。
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『夢の中の出来事』
幅一メートルほどの石畳が、丘に向かって続いている。両脇には、レンガ造りの建物がひしめいていて、木の扉は固く閉ざされている。
視界は全てがセピア色であり、空は桃色で、どこを見ても憂鬱である。
早くこの町から出たいという気持ち、どこに行けばいいのか分からない不安、閉塞感のある建物が嫌で、とにかく空に近づこうと地平線の向こうを目指して歩いた。すると両脇にあった建物が途切れて、踊り場に出た。そこは見晴らしのいい場所で、尾の長い、黒い大きな翼竜がたくさん飛ぶのが見えた。
私は翼竜となり、群れに加わった。
セピア色の町は遠ざかってゆき、目の前はただ、白かった。
目が覚めるとそこは薄暗い六畳二間の自宅であり、私は汗だくであった。すだれの隙間がキラキラと揺れる。
私はまた行き損ねたのだ。あの空の向こう側にある場所に。あの向こう側にさえ行けるのならば、他には何もいらない……のかもしれない。