1.灰色の街 2.Like a paper moon
『灰色の街』
ある寒い国では、行くあても無い子供が街にいるのです。
それはある日の夜の出来事です。美しい男が、街にいる子供たちを集め、こう言ったのです。
「きみたちは、一人一人がかけがえのない存在なんだよ」
子供たちは、男について行きました。
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街から子供の姿がすっかり消えた頃。大人たちは、何か大事なものを忘れている気がしました。だけど、それが何なのかはどうしても、思い出せませんでした。
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美しい男の家には、砂時計がたくさんありました。大きいのもあれば、小さいもの、中くらいのものもあります。これらの正体はいったい、なんでしょうか。
それは、子供たちの未来なのです。未来とは、希望であり、命そのものなのでした。
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街はすっかり、灰色でした。
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『Like a paper moon』
ある日私は公園のベンチに座って、泣いていました。なぜなら絶望していたからです。
すると、どこから来たのか、白いワンピースの女が私の隣に座っていました。「向こうにも日陰のベンチはあるのに」と、私は思いました。
「ねえ、どうしたの? 私に何でも話していいよ、聞いてあげる」
女はそう言うのでしたが、私は話す気にはなれませんでした。
そもそも、物事には順番というものがあると思うのです。まるで煙のように現れた得体のしれない人物に、大事な事など打ち明けられるでしょうか。
それとも、私のほうがおかしいのでしょうか。
「話したくなったらいつでも言ってね、わたしはずっと待っているから」
彼女はそう言って、にいっ、と微笑みました。
私は恐ろしくなりその場から逃げ出したのですが、笑う口はずっと私を追いかけてくるのでした。
彼女の名前は優しさといいました。私は彼女の事が、怖いです。