1.アシナガオジサン 2.揺れる
『アシナガオジサン』
たった一人の肉親である母が亡くなってから半年、私の元には毎月、段ボール箱一つ分のお菓子と手紙が届く。差出人は「貴方美輝」さん。アナタミテルなんて多分偽名だとは思うんだけど、それでも母を亡くした私にとって、その毎月欠かさず届くメッセージは心の支えになっていた。
ある日の事。母の旧友・三島さんが訪ねてきた。遺影に手を合わせた三島さんは仏壇の前に置かれた手紙を見て、あっ、と叫んだ。
「優愛ちゃん、この手紙。アナタミテルって……」
三島さんは真っ青な顔で、私を見ていた。
「そう、ママが亡くなってから毎月、送られてくるの」
私がそう言うと、三島さんは震える声で、話し始めた。
「あのね、優愛ちゃん。怖がらせるようで申し訳ないんだけどね。この差出人、お母さんが中学生の頃から、お母さんに手紙を送り続けているのよ。いったいどうして娘のあなたにまで……」
私はどうしたらいいのだろう。
***
『揺れる』
あなたが今、ここにいる事。
私が今、ここにいる事。
人と人は分かり合えない事。
分かり合えない者同士が、そこにいる事。
私たちは碁石でもなければ、チェスの駒でもない。
何者かが私たちを上から見下ろしていて、摘まみ上げたりしない。
ただそこに、いるだけ。
宝石が好きな人もいるし、河原の石が好きな人もいる。
ある場所で選ばれなかったからといって、嘆くことは無い。
そういう時は、場所を変えてみるのも悪くは無いだろう。
花が好きだという人もいれば、苔が好きだという人もいる。
ただそれだけの事なのだ。
大事なのは……君が君である事。君が、君であるという事なのだ。
そうでなければ、何のために誰も読まないであろう文章をこうして作るというんだろうか。
お読みいただきありがとうございました。