1.イメージ詐欺 2.マウンティング・ループ
『イメージ詐欺』
「朝日橙さん、僕たちを騙したんですね!」
定時退庁して、空が明るいうちに帰宅し風呂上がり、ビールの喉越しを楽しみつつ、ポエム投稿サイト「ポエマーズガーデン」の新着感想をチェックしていたら、そんなメッセージが届いていました。
ちなみに私の本名は戸田恵、ゲーム大好き三十歳。役所の任期付き職員です。
「気持ちは分かるんですが、どんな作品を書こうと私の勝手じゃないですかね。そんなに怒るんなら、自分で書いたらいいじゃないですか、自分が読みたい詩を」
私はそう返信すると二本目の焼酎を片手に、新作に取り掛かりました。題名は「疲れたら頼っていいんだよ」。ちなみにクレームが来た詩の題名は「お前ら全員死刑だぜ!」です。
イメージなんて、ぶっ壊してなんぼだと私は思っています。だから、クレームが来てもぜんぜん気にしていません。これっていけないことでしょうか?
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『マウンティング・ループ』
「僕は、一度見た事は忘れません。ですから、なるべく美しいものだけを見るようにしているんです」
彼はそう言うと、私の友人に会釈をして去っていった。人々を約三年近く苦しめてきた伝染病の脅威が過ぎ去り、外出制限が解除されてからの、久々の登校だというのに。彼は私を完全に無視したのだった。理由は「醜いから」。確かに彼は一度も「醜い」という言葉を使ったりはしなかったけれど、美しいものだけを見たいという事は、裏を返せばそういう事なんだろう。記憶力がいい事を言い訳にするところが癪に障る。いったい何様のつもりだろうか。
「あいつ、記憶新陳代謝阻害症候群なんだよね。だからって、他人を傷つけていい理由にはならないよね。黙って去ればいいのに、私の事好きだから話しかけずにはいられなかったってとこかな」
友人の解説は分かりやすいが、それはそれで何だか情けない事だよなあ、と思った私なのだ。