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八十三輪目

 近頃の日本は春夏秋冬ではなく、夏夏冬冬になっているようにも感じる。


 もう十月の半ばにもなったというのに、未だ二十度を超える日々。

 先月の九月に行われたライブなんてかんかん照りの夏日である。おかしい。


 いや、考えようによっては今が秋なのかもしれない。

 毎年、気が付けば寒くなって冬を迎えており。

 振り返ってみればあの時が秋だったのかな、なんて思いを馳せる。


 なんて事を思いながらも、今日も今日とて気温は二十度。

 夏本番に比べればまあ過ごしやすくなったとはいえ、秋だなぁと感じることは──。


「何ボーッとしてるのよ」

「いい天気だなぁって」

「この私とデート中なのに、よそ見してボーッとするなんてね」


 視線を窓から正面へと戻せば、怒ってますよと分かりやすく頬を膨らませた冬華の姿が。


「こういったとこは初めてくるから現実逃避」

「そういうことにしてあげる」

「でもごめん。放っとくのはいけなかったよね」


 素直に謝れば、少し目を見開いた後にクスリと微笑みかけてきた。

 普段の意図したものとは違う、自然なその仕草に見惚れてしまう。


 それを誤魔化すように料理を口へと運ぶが。

 美味しい……とは思うけど、複雑な味に何とも言えない。


 今日は冬華の誕生日ということで、彼女の考えたプランに従っている。

 十一時ごろに冬華が迎えに来て食事をしているのだが、この場所も樋之口家が経営しているレストランとのこと。


 ビルの最上階にあり、見晴らしのいい席を用意されていた。

 見慣れぬ景色に慣れぬ味。

 注意が散漫になってしまうのも許してほしい。


 八月末には秋凛さんの誕生日があり、その時は家でノンビリゴロゴロしながらずっとくっ付いているだけだったな。

 たまにはこうして外に出なきゃだが、根が引きこもりだからやはり──。


「優、私だけ見てなさい」

「……ん、ごめん」


 今の考えに関しては完全に俺が悪かった……あれ、思考読まれた?


「自分じゃ分からないと思うけど、何考えてるか分かりやすいわよ」


 そう言われて思わず自分の顔に手をやるが、まあ分かるわけもなく。

 そんな俺を見てまた冬華がクスッと微笑んでいた。




 食事を終えた後は巷で話題の映画を見に行き、今はカラオケへと来ている。

 以前、高瀬さんと来た時ぶりなのでまた下手になっていることだろう。


 歌うこと自体は好きなので、世界観が変わる前などは一人でよく行っていたが……上手い人と一緒というのはあまり気乗りがしない。


 あの時は歌うダメージより自分の欲が優っていたから良かった。

 別に冬華の歌が聴きたくないわけじゃないが、自分から提案するのと連れていかれるのじゃ訳が違う。


「ほら、優」

「え、冬華から歌いなよ」

「優の歌を聴きたくて来たんだから。春とは行ったんでしょ? 話聞いたわよ」

「……うん」


 元カノが歌の上手かった子で、自分の歌が上手く無いと周りに話されていたちょっとしたトラウマが蘇る。

 事実とはいえ、いらん事も話す奴だったな……。


「凄い良かった。また一緒に行って聴きたいって話してたけど……優、凄い顔してるわよ」

「へっ、あ、うん。大丈夫大丈夫」

「男性の歌手もいるけれど、私たちの歌を歌ってくれる人なんていないし。こうして独り占めして聴けるなんて、贅沢以外の何者でもないわよ」

「そっか……あまり上手くないけど、まあ喜んでくれるなら」


 トラウマが治ったわけではないけど。


「冬華のそういうとこ、好きだよ」

「ふにゃっ!?」


 冬華の言葉に嘘や気遣いは感じない……と思う。

 色々と考えていて、でもキチンと大事なところは良くも悪くもストレートに言葉をぶつけてくれる。


 八月の旅行以降、接してきて感じた冬華の印象だ。


 何故か顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくとさせているけど……うん。取り敢えず一曲目歌ってみようか。

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