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八十二輪目

「ちゃんと聞いてる?」

「……うん」

「そういうとこだよ、優君。まあ、このままで居てくれたからこそ、こうして今があるんだけど……でもでも、この先もってなるとそこらの女性に食べられちゃうよ! 今日だって男性だったとはいえ変な絡まれ方しちゃったんでしょ?」

「それは流石に大丈夫……だと思う」


 本来、正座させられてのお話となれば視線は上か、もしくは正面を向くはずであるが。

 今現在、自分の視線は下を向いている。

 なんなら正座ですらなくなっており、座椅子にて足を伸ばして座っていた。


 なぜなら。


「ね、もっと撫でて? ……ふふっ」


 俺の伸ばした足に頭を乗せている夏月さんから要望があったため、右手を動かして頭を撫でていく。

 左手はずっと握られたまま離されない。


 初めは正座の状態で頭を乗っけていたのだが、高さが合わなかったのか気に食わなかったのか。

 こっちと手を引かれて移動し、今のようになった。


 こんな調子で大事なお話しをされていたとしても、頭の中に入ってこないので俺は悪く無いはずである。


「夏月ちゃん」

「うん」


 時間制なのか、十分かそこらで夏月さんと秋凛さんが入れ替わった。

 少し名残惜しそうにしていたが、やろうと思えばいつでも出来るので言ってくれればと思う。


「えへへ、なんだか久しぶりだね?」


 秋凛さんは久しぶりというが、家にやって来たり、俺が行ったりして週の半分は会っている。

 スキンシップが大好きなようで、会うたびにしている膝枕も慣れたものだ。


 足の負担を考えてくれてるのか、夏月さんとは反対の方に頭を乗せてくれているため、今は左手で頭を撫でて右手が拘束されている。


「温泉も気持ち良かったけど、やっぱり優ちゃんにナデナデされる時が一番癒される〜」

「今日もお疲れ様。みんなでノンビリしていこうね」


 もうお話をする雰囲気でも無くなったのか、気付けば冬華の正座は許されており。

 高瀬さんと並んで向かいに座ってお茶を飲んでいた。


「シュリ。そろそろ」

「んー、あっという間だなぁ……」


 秋凛さんも名残惜しそうにしているが、夏月さんより圧倒的にやっているのである。


 夏月さんもやっていないわけでは無いが、こちらは向かい合ってハグするのが好きなようで。

 首筋や胸元に鼻を寄せてにおいを嗅がれるのは少し恥ずかしいけど。


 膝枕をするのに慣れてきているとはいえ、重いものは重いのだ。

 何も乗っていない足はなんだか軽くなったかのようにすら感じ、空を駆けることだって……いや、無理か。


 ふと、顔を上げた時。


「…………」

「…………」

「…………」


 真正面に座っていた高瀬さんと目が合った。


 ……あれ?

 冬華は罰を受ける側であるため分かるが、夏月さんと秋凛さんに膝枕をして高瀬さんには何もないのだろうか?


 ここでサラッと『高瀬さんも膝枕しますか?』なんて聞けるのが良いのだろうか。

 でも断られたら泣くし、ここで距離感を間違えたら今後どう接していけばいいか分からなくなってしまう。


「…………ぁ」

「失礼します」

「あ、はーい」


 何か話そうとしていた気がするが。

 襖の向こうから声が聞こえ、夏月さんが返事をしたのに意識がつられてしまった。


「失礼致します。夕食のご用意が出来ました」

「ありがとうございます」


 食事用の部屋まで移動かなと思っていたが、隣の部屋らしい。

 なら急がなくてもいいかとノンビリ立ち上がっているうちに三人はさっさと移動してしまい、俺と高瀬さんだけが残った。


「そういえば、さっき何か言いかけてましたか?」

「ううん、何でもないよ。それより私、お腹ぺこぺこ。ご飯楽しみだね?」

「そう、ですね。楽しみです」


 何でもない、ということは何か言いかけていたという事だと思うのだが……。

 まあ、高瀬さんが特に気にした様子でもないから大丈夫だろう。

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