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六十三輪目

 ライブの後からそうであろうという噂は流れていたため。

 生配信が終わった後、掲示板を覗いてみたが一部を除いて比較的穏やかに受け入れられていた。


 一部の荒れているというのは同性愛の方であったり、独身筆頭として秋凛さんのことを崇めていた方であったり。

 秋凛さんがパートナーを見つけたことで自分にも希望があると光の道に進んだ方もいれば、闇に堕ちた方もいて少し面白い。


 あ、秋凛さんのパートナーとなった人に対して過激なことを書いた垢がBANされている。


『あーあ、こりゃお縄だね』

『なんまんだぶ、なんまんだぶ』


 このような書き込みから言葉通りBANされた人は逮捕されているのだろうけれど、なんか凄いな……といった他人事の感想しか出てこない。


 男性にしたい、だいぶ深い性的な話をしている他の板は何故大丈夫なのか少し気になるところ。

 上に跨って搾り取りたいだの、寸止めを繰り返して涙目ながらに懇願する姿が見たいだの。

 実行に移そうとしたか、そうでないかの違いかなとは思うが……。


 男女比が同じ世界でも男女共にあぶれていたのだ。

 女性が多い比率になったこの世界ではより一層、闇が深いように感じる。


 人の変態的嗜好を聞いたりするのが好きなので、そのまま板を眺めていたらあっという間に時間が過ぎ。


「ただいま、優君」

「あ、おかえり。夏月さん」


 普段なら大体分かるドアの開閉音すら聞こえないほど集中していたらしく、声をかけられるまで夏月さんが帰ってきていたことに気付かなかった。


 ソファに横たえていた身体を起こし、掲示板のタブを閉じる。

 こんなもの見ていたら引かれてしまう……。


 そんな俺の内心は他所に、荷物をその辺の床に置いた夏月さんは股の間に腰掛け、背中を預けてくる。


 メールで多少紛れたとはいえ、人肌恋しかった俺にとってはとてもウェルカムな事である。

 そもそも、夏月さんのやる事なす事全てが余程じゃ無い限り断ることはない。


 腰から腕を回して後ろから抱きしめ、首元に顔を寄せれば。

 同じシャンプーやボディーソープを使っているはずなのに、良い香りが。


 一緒に過ごし、異性として好きを抱き始めているものの。

 未だに推しとして見ている部分があるため、どこか罪悪感を抱いている。


「…………好き」


 抱いているが、色々と混ざった不純な"好き"でも想いは想いである。

 胸の内にはどうすれば全てが伝わるのか分からないほどの"好き"が溢れてくる。


 推しとしてもみているからか、性的欲求へとすぐ直結しないのだが。

 女性側からしてみれば、俺の行為は酷い焦らしだと少し前に夏月さんから聞いた。


 性的意味を持たないスキンシップは日常だと殆どなく、行為後の賢者タイムでしか無いのだと。

 いつだったか力説された覚えもある。

 それはストレートに言ってしまえば夏月さんがドエロなのかと思っていたが、少し調べただけで世の中の共通認識であるとすぐに分かった。


 俺がそう思うのも仕方ないと思う。

 現に今だって夏月さんはこちらを向き、俺の頬に手を添えてキスをするよう誘導している。


 啄むようなキスから始まり、深いものへと変わるのに合わせ。

 手をお腹から徐々に上へと移動させて──。


「あの、始める前にいいかな……?」


 ガチャリと音が鳴り。

 リビングと廊下を繋げるドアが開き、誰かが入ってくる。

 反射的に手と顔を離してそちらを見れば、顔を真っ赤にさせて居心地の悪そうに足を擦り合わせている秋凛さんの姿がそこにあった。

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