五十五輪目
お手洗いを済ませたりと、ライブを観るための準備を終える頃にはいい時間となった。
なのに部屋には俺しか居らず、看護師さんはどうしたのかとスタッフに聞いてみれば関係者席にいるのだとか。
……付き添いで来ているはずのに、それは大丈夫なのだろうか。
照明も落ちたのでちょっとした心配事は置いておき、切り替えてペンラのスイッチを入れる。
あ……別に立たなくてもいいのか。
立ってもいいのだろうけど一人じゃ寂しいし、場所も場所だからものすごく変な感じがする。
こうして観れるのだから文句を言うのは烏滸がましいのだけれど、せっかく会場にいるのだから一体感をもっと楽しみたかった。
ウダウダと何か考えていた気もするが、ライブが始まってしまえばそんなもの関係が無い。
やっぱり、生は違う。
一緒の時間を過ごしているこの場所だけが、特別であるかのような錯覚さえ覚える。
昨日に引き続き今日も秋凛さんが飛び抜けていたが、昨日の経験でレベルアップしたのか他のメンバーのパフォーマンスも凄いことになっていた。
というよりは、秋凛さんがどんなパフォーマンスをするのか分かっているから、それに合わせている感じにも見える。
昨日は即興であったが、今日のはキチンと整えてきているような。
あと個人的なことだが、あんな夢を見たからだろうか。
今日は物凄く高瀬さんが色っぽく見えるような気がする。
いつの間にやら高瀬さんに目が向いていた。
……………………。
…………。
…………いや、いや、この思考はいけない。
ライブを楽しみに来ているというのに、演者の一人をそういった目で見るのはダメだ。
いや、ダメってことは無いのだろうけど、個人的にはあまりそういったことを考えないでいきたい。
推しは生きているだけで偉いのだから。
それだけで十分なのだ。
…………夏月さんがMCの時、色んなことを思い返してしまった。
人気投票によるセンター曲決めは全五回で完結しており。
そのため一人一曲ずつ作られ、それ以降は運営による采配のもと、曲が発表されている。
その結果が実は仕組まれていたのではといった話もあるのだが、最終的に全員作られたので個人的にはどうでも良いかなと。
今回のライブにて秋凛さんセンター曲は固定であり、昨日は夏月さんと樋之口さんが披露された。
なので今日は残る二人が歌われるわけだが。
『────』
高瀬さんのセンター曲が終わり、千代村織さんのセンター曲となった。
クールな彼女のイメージにとてもよく合っているカッコイイ曲で、もう言わずもがなダンスのクオリティも高い。
メンバーのまとめ役的な立ち位置でもあり、美人揃いのメンバーの中でもさらに一歩抜き出るビジュアルと、たまに出るポンコツ部分のギャップもあってかファンの人気も高いのだが。
何故かと理由を聞かれても上手く説明できず、答えられないのだけど。
俺は少し、ほんの少しだけ──千代村織さんが苦手である。
千代村織
主人公の3つ上
カッコいい女性キャラの声を担当。
外面クール系だが、私生活グーダラポンコツ。
目を離すと食生活はカップ麺になる。
紫がかった黒髪ショートボブ。
主人公が抱いてるものは、作者が実際に思っていることと反映させました。
話す機会があるのならまたわかりませんが、そういった機会なんて無いので、雰囲気が苦手のままきてます。何故苦手なのか理由は分かりません。